神の国19
「火と金を以て命ず。もういいよ」
実験だ。
魔術とはデミウルゴスに宣言して願いを叶えてもらう行ない……らしい。
例えば想像創造は明確に、しかして世界宣言は半端に、そんなものでデミウルゴスに通じるか試してみたのだ。
結果とし実験は成功だった。
「もういいよ」
それだけしか言っていないのに手に持った超振動兼超高熱刀がフツリと消える。
理解できないわけでもないらしい。
僕はリミッターをオンにする。
世界が……一秒が一秒として流れるのだった。
相対的矛盾が収まる。
また想像創造。
今度はお馴染みの世界宣言。
「木を以て命ず。薬効煙」
手に薬効煙を生み出し咥えて、
「火を以て命ず。ファイヤー」
と世界宣言。
薬効煙の先端に火をつける。
煙をスーッと吸ってフーッと吐く。
「で? まだやる?」
足を押さえてうずくまる兵士さんたちに聞いてみるけど答えはなかった。
負傷者が転がる。
焼き切られた傷が疼く。
血が飛び散る。
死屍累々だ(とりあえずはまぁ一人も殺していないけどね)。
そこに加わりたいのかと聞いたのだ。
「僕としては話し合いで解決したいんだけど」
「どの口がそんな殊勝なこと言うんだ」
とでもつっこまれるかなと思ったけどそんなことはなかった。
薬効煙をプカプカ。
さて、
「どうしよう?」
超振動兼超高熱刀が焼き切った兵士さんの数はたったの五百人ちょっと(振動クナイを含む)。
遁術で無力化された兵士さんの数はなんと四百人強という感じ。
うむ。
まぁ許容範囲だろう。
殺意湧く兵士さんの一人も殺していないわけだから紳士的とも言っていい。
後者の兵士たちは僕の遁術によって足を押さえていた。
アキレス腱にダメージを与えたのだ。
何人現役復帰できることやら。
まぁ対岸の火事なんだけど。
思考加速……それが僕の本来の脳の使い方。
第六感とも呼ばれるオーラが直接的に外界の情報を脳に感知させることもコレに比べれば些事にも等しい。
僕のオーラの燃費がいいのもコレに由来するのだ。
思考加速には大量のカロリーを消費する。
とは言っても生まれつき思考加速に順応するよう体が造られているのだからこれでやっと人並みなのだけど。
ともあれオーラによるカロリー消費なぞ比するまでもないのである。
はい。
今日の講義はお終い。
と、今度はフォトンのオーラが広がって僕を呑み込んだ。
ちなみにもう隠す必要もないからこっちのオーラも展開し続けていはするんだけど。
半径一キロ。
この程度ならフォトンもさほどカロリーは使うまい。
フォトンは世界樹の実を食べながら僕に向かって言った。
正確にはフォトンの動いた口を僕がオーラで読み取った。
「どういう状況ですかコレ?」
それがフォトンの第一声だ。
オーラで僕を取り込んでいる以上、死屍累々の有様も明確に伝わっていることだろう。
僕は肩をすくめることで応えた。
どうせ向こうにはこっちの口の動きから言葉を読み取ることなぞ出来まい。
「マサムネ様がやったんですか?」
コクリと頷く。
「何故?」
肩をすくめる。
察してくれないかなぁ。
「無意味に殺戮したわけじゃないでしょう?」
コクリと頷く。
そも殺していない。
「軍隊に襲われたんですか?」
コクリと頷く。
僕のオーラによればフォトンは苦虫を噛み潰したような表情をした。
「ライト王の……差し金ですか……」
コクリと頷く。
吸った煙を吐く。
「一度会いませんか?」
「…………」
ふむ。
まぁそれが妥当ではあろうけど……。
僕はフルフルと首を横に振った。
「何故です?」
肩をすくめる。
「まだ時期ではないと?」
コクリと頷く。
「ライト王に進言します。それくらいはいいでしょう?」
コクリと頷く。
それでどうなるものでもないだろうけど。
僕は薬効煙をプカプカ。
それから青空を仰いだ。