神の国15
僕とフォトンが跳んだのは光の国。
その王都の王城のフォトンの私室。
僕がフォトンによって異世界に召喚された……その原点となる場所だ。
ここが光の国では一番想像しやすかったのである。
言わないけど。
「ふわ……何だか懐かしいですね」
フォトンは感慨にふけっているようだった。
気持ちはわからないでもない。
似たような郷愁は僕にもある。
フォトンのメイドさんにスーツを仕立て直してもらったのは記憶として鮮明だ。
ちゃんとフォトンが失踪した後も手入れがされているらしい。
埃一つなかった。
と、
「…………」
ガチャリと扉が開きキィキィと蝶番が鳴る。
フォトン専属のメイドさんが部屋に入ってきた。
手には掃除道具。
フォトンの部屋を掃除するために現れたのだろう。
その精神は立派だったけど……それ以上にそんな事態ではない。
部屋の主がいるのだ。
「フォトン様……!」
メイドさんは驚愕に目を見開いた。
「久しぶりね」
フォトンは気さくにそう答える。
それからフォトン専属のメイドさんは何を考えたか、
「陛下にご報告します」
足早に部屋を出ていった。
「じゃあ僕たちもいこっか」
「ですね」
苦笑しあって僕とフォトンは城を歩きライト王のいる場所へと赴いた。
それは謁見の間ではなくライト王の私室だった。
メイドさんの言葉を先に聞いておいて尚ライト王はフォトンの登場に驚いていた。
「お久しぶりです陛下」
いけしゃあしゃあとフォトンは言う。
「おお……!」
ライト王は感動したらしい。
「よくぞ戻ったフォトンよ」
その声には熱がこもっていた。
「それで?」
フォトンが紡ぐ。
「私と直にまみえて話したいこととは?」
全ての過程を省略してフォトンは結論を急ぐ。
「うむ……まぁ……」
と唸った後、
「まずはマサムネにご退場願えんか」
そんなことを言った。
「何故です?」
当然と言えば当然のフォトンの問いに、
「余はこれからフォトン……お主に対してここに留まるよう説得する立場になる」
「でしょうね」
「そのためにはマサムネが邪魔だ。たとえ余の説得によってフォトンが気持ち揺らごうとマサムネの言葉や存在が後ろ髪を引っ張っては意味があるまい? 故にマサムネには席を外してほしい」
「あいあい」
僕は頷く。
それから、
「木を以て命ず。世界樹の実」
そうやって世界樹の実を魔術によって再現する。
虹色に光るリンゴに似た果実をフォトンに投げ渡す。
フォトンは世界樹の実の再現に驚きながら視線を僕へとやる。
「何のつもりですか?」
「問題があればオーラを展開して僕を呼んで。対抗してこっちからオーラを広げる。それで僕のオーラに取り込まれたら状況を声に出して説明すればいい。唇と舌の動きで何を言ってるのかこっちで感知するから。僕はともかくフォトンはオーラの展開にカロリーを大量に消費するでしょ? だからオーラの展開に耐えうるだけの超高カロリーの源泉を持つことは意味があるんじゃないかな?」
「なるほど」
フォトンは納得したらしかった。
それからフォトンの四次元ポケットからいくらか財産を引き下ろすと、
「じゃあ僕は王都で茶をしばいているからいくらでも論争を繰り広げて」
ヒラヒラと手を振って僕は呪文を唱える。
「闇を以て命ず。空間破却」
空間破壊性結果論転移にて僕は光の国の城下町に跳躍する。
突如として現れた僕を衆人環視は驚きで見つめながら無言に徹した。
僕としてもペラペラと現象について語ろうとは思っていない。
ともあれ一週間は自由気ままな生活を保障されたのだ。
伴う金銭も確保してある。
であれば時間の流れを感じながらまったりとするのも悪くは無い。
僕は城下町……王都の喫茶店に入った。
銅貨を払って紅茶を飲む。
屋外テラスの席だ。
通行人を眺めながら優雅に紅茶を飲んでいると……ガチャガチャと金属のこすれる音が聞こえてきた。
大勢の武装した兵士さんが僕へと近づき包囲網を形成する。
僕は紅茶を飲むばかりだ。
「貴様、マサムネだな?」
「そうですけど」
安易に頷く。
「陛下よりそなたの駆除を命じられた。抵抗はまったくの無駄だと思え。こちらは千の兵を擁している。諦めて殺されろ」
「なるほどね」
紅茶を飲みながら僕は納得する。
つまり僕という空間破却の使い手を潰すことがフォトンを籠の鳥にする一番の方法だとライト王は認識したわけだ。
間違った選択ではない。
ただ……ちょっと安易だとは思うけど。