光の国08
そんなこんなで紅茶を飲みながらフォトンと二人……のんべんだらりとしていた僕だったけど、
「フォトン様!」
とせっぱ詰まった声によって静寂は破られた。
フォトンの扉を開け放って一人の男が姿を現していた。
黒色の髪を持ち生気に満ち溢れた青年である。
ある程度の服装はフォトンと違うが、その肩から背中にかけて伸びる白いマントは彼が魔術師であることを示している。
「誰?」
誰何したのは僕。
「ダークです」
と言ったのはフォトン。
ダーク……それが乱入した魔術師の名前なのだろう。
「どういうことですか!」
乱入した魔術師……ダークは叫んだ。
「何が?」
わからないとフォトン。
「メルヘンからバーサスの騎士を召喚したと聞きました!」
「そうだよー」
フォトンは紅茶を飲みながらあっさりと肯定するのだった。
「聞いてません!」
「言ってないからねぇ」
何を当然のことをとフォトンは言う。
フォトンとの会話に意義を見出せなかったのか、
「貴様……!」
とダークは僕を睨みつけた。
僕はというと、
「…………」
無言で紅茶をすするのみだ。
「貴様がフォトン様のバーサスの騎士か!」
「そういうことらしいね」
肩をすくめる僕。
「貴様ごときに務まると思うか!」
「知らないよそんなの」
本心である。
そもそもにして異世界にさらわれてどうしようもないというのが僕にとっての現実……本音である。
正直この事態に一番困惑しているのが僕だろう。
まぁそんなことはともあれ、
「ダークだっけ?」
僕は魔術師ダークに問う。
「見たところ君は魔術師らしいけど、それならフォトンのバーサスにはなれないんじゃないかな?」
「俺は宮廷魔術師兼王属騎士だ!」
ダークは激昂した。
「宮廷魔術師?」
僕はクネリと首を傾げる。
「国々の王に仕える魔術師を指すテクニカルタームです」
フォトンがフォローする。
ええと……、
「つまり……」
僕は問うた。
「ライト王に仕えている魔術師がいるってこと?」
「そういうことですね」
フォトンは頷く。
宮廷魔術師ね……。
「つまりダークはそれだけ優れた魔術師だと?」
「まぁ闇魔術において私に匹敵する魔術師です」
「闇魔術?」
「魔術には属性があるんですよ」
フォトンは述べる。
「その内……闇魔術に特化した宮廷魔術師がダークです」
「とにかくすごい魔術師なんだね」
感心する僕に、
「まぁ私には及ばないですが」
皮肉を込めてフォトンが言う。
「フォトン様に及ぶ魔術師なぞ存在しえません!」
どれだけフォトンを信仰しているのだろう。
きっぱりと言い切るダークだった。
フォトンはというと、
「ありがと」
と紅茶を飲みながら謝辞を述べる。
それだけでダークは頬を赤くした。
表情で心を読むのは忍の基本だ。
察するにダークはフォトンに惚れているのだろう。
僕に対して敵対的なこともそれで察せられる。
「フォトン様!」
とダークは叫ぶ。
「こんな奴より俺の方がよほどフォトン様の騎士足りえます! なにとぞご再考をお願いします……!」
失礼な話だった。
「…………」
紅茶を飲みながら憮然とする僕。
「じゃあ」
とこれはフォトン。
「マサムネ様とダークとで力比べをしませんこと?」
あっさりと言ってくれる。
「俺はそれでいいです。逃げるつもりはないよな……マサムネ?」
自信に満ち溢れたダークがそう問う。
「僕……面倒くさい事は嫌いなんだけどな……」
本心だった。
しかして話は燃料を入れた汽車のように止まらなかった。
「闘技場を借りましょう。そこでマサムネ様とダークが戦うと云うことで」
「僕の意見は無視?」
またしても憮然とする僕に、
「大丈夫ですわ」
フォトンは断ずる。
「私の召喚に間違いなんてありえませんもの」
過大評価……どうもありがとう。