神の国10
早朝には村を出る僕たちだった。
王都に着くまでにあと一つ町を経由しなければならないらしい。
村じゃないことがミソだ。
町と呼んでいい規模。
そこを伝って王都へと。
そういう手筈らしい。
山賊もモンスターもクマも出なかった。
平穏な日常。
お日様が輝く。
青い空。
そうでないよりよほどいい。
そんなわけで平穏無事な旅を続ける。
無論オーラによる警戒は怠っていないけど、何があるでもなく僕たちは馬車の中でトランプに興じた。
「ウーニャー! パパ大貧民!」
言ってくれるな。
二もジョーカーもなくどうやって勝てというのだ。
僕はトランプを切る。
そうやってトランプをやっている内に王都の隣の町に着く。
夕方には早い時間。
まぁ夜につかなかっただけマシではあるけど。
村と違って町はレンガ造りの建築物が豊富だった。
今晩泊まることになった宿もその一つだ。
村と違ってしっかりとした造りである。
さらに言えば村と違って町では夜中の護衛はしなくていいらしい。
宿が全責任をとるとのことだった。
そんなわけで僕たちは宿で食事を摂って寝るのだった。
一応警戒はしていたけれど。
ソレが安眠を妨害した。
「……っ!」
夜中。
僕は起き上がる。
それはフォトンもそうだったしツナデもそうだった。
イナフとウーニャーとフィリアはすやすやと眠っている。
三人……正確には二人と一匹を叩き起こす僕たち。
「なぁに……お兄ちゃん?」
「ウーニャー……眠いよ」
「どうしたのマサムネちゃん?」
目をこすりながら意識を覚醒させる三人。
「ウーニャー」
「なぁにパパ?」
「僕の頭の上に乗って」
「ウーニャー……パパが言うなら……」
そう言ってドラゴンの姿へと戻るとウーニャーはパタパタと翼を羽ばたかせて僕の頭の上にその身を安置する。
「じゃ、いくよ」
「何処へ?」
これはイナフ。
「無論、外へ」
そして僕たちは外に出る。
案の定だった。
「天使……!」
フォトンが掠れた声で中空に浮かぶ存在を呼ぶ。
「天使だね」
僕も頷く。
二人の天使が夜空にいた。
燐光が輝いて二人の天使を闇から救っている。
一方が天使。
もう一方が堕天使。
唯一神デミウルゴスの触角。
胡散臭いけど事実だ。
そして堕天使が現れたということは、亜人の存在が現れるのと同義だ。
僕はオーラを広げる。
察知できるのはかしまし娘だけだろう。
オーラで感知するにトロール二体にゴブリンが二十体……この町を襲っていた。
既に被害者が出ている。
トロールの棍棒に叩き潰された町人。
ゴブリンのナイフに心臓を突かれる町人。
決断は早かった。
僕は両手で複雑な印を組むと術名を発する。
「火遁の術」
同時に身を焼く幻覚が亜人たちを襲う。
「ギアアアアアアアアアアッ!」
と吼えるトロールとゴブリン。
もっとも……堕天使が居たんじゃ元の木阿弥だけど。
だからウーニャーを呼んだのだ。
「ウーニャー。堕天使を撃墜して」
ちなみに天使か堕天使かは行動から予測できる。
天使は堕天使しか狙わないが、堕天使は魔術を用いて眼下の町を襲っているのだ。
ウーニャーは堕天使目掛けてレインボーブレスを放つ。
「ラ――――!」
と悲鳴を上げて堕天使は消え去る。
そして戦い終わった天使が町へと舞い降りる。
次の瞬間、有り得ないことが起こった。
天使が亜人や堕天使に殺された被害者に触れると……被害者が生き返ったのだ。
また天使に触れられることで負傷した被害者の傷が癒える。
そんな馬鹿なと思うのもしょうがあるまい。
それをフォトンに伝えるとフォトンはさっぱりと言った。
「当然です。堕天使が人間を害するのとは対照的に天使は人間を愛するんです。此度の天使と堕天使の戦いはウーニャーのおかげで天使の圧勝となりました。ならばデミウルゴスの慈愛が適応されるのは当然のことです」
堕天使が人間を害するのと対照的に天使は人間を愛する……。
それがデミウルゴスの使いと言うのならばなんと気まぐれな神か。
僕はオーラにて天使が被害者を治癒する光景をずっと感知しつづけたのだった。
天使は触れるだけで死者や負傷者を治していく。
フォトンの無限復元のように。
それは奇跡と言ってもよかった。