表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/512

神の国08

 僕たちの噂は(正確にはツナデの仕業なのだけどそんなことが第三者には区別なぞつくまい)都市に瞬く間に伝播した。


 結果としてそれが良かったのか悪かったのか……。


 ともあれこの都市においては決着がついたらしかった。


 誰も彼もが悪魔でも見るように僕たちに怯えた視線を向けてくる。


 僕は煙を不機嫌にスーッと吸ってフーッと吐く。


 煙はゆらゆらと天に召され消えていく。


 そして大都市にある中でも一際豪華なホテルに泊まる僕たちだった。


 王都へ向かう馬車護衛のクエストは明日からだ。


 今日はこの都市に泊まらざるをえなかった。


 喧嘩を売ってくる人間……主にバウンティハンターの冒険者……は散発的に現れたが行動を起こすより速くツナデのクイックドロウによって沈黙する。


 それがまた衆人環視のもとで行なわれたため、賞金首としての金額の高さも手伝って悪評がついてまわる。


 故に早々に僕たちはホテルに引っ込んだ。


「ウーニャー……。何だかパパたち歓迎されてないような気が……」


「摩訶不思議な器物で人を害すんだ。歓迎されるわけないじゃないか」


 ちなみに今回は全員違う部屋。


 ウーニャーは監督責任ということもあって僕と部屋を共にしている。


 ちなみに個室とは言ってもそこは高級ホテル。


 小さな村の団体用の部屋くらい広さがある。


 まぁお金は有り余っているから問題は無いんだけどさ。


 元々大量のお金を持っている僕たち(ぶっちゃけフォトンとツナデ)だったけど野盗や山賊のアジトを荒らして財宝を溜めこむ術を覚えたので尽きることない富の源泉を確保したようなモノだった。


 当然喧嘩を売ってはツナデに無力化される冒険者の財産もコレに含まれる。


 どっちが悪人かわからない振る舞いではあるけど……ツナデにしてみれば、


「お兄様に喧嘩を売るということはツナデに拷問されても文句を言えないということです」


 ということらしい。


 コルトガバメントはこの世界においてそれほど強力な兵器と言えた。


 話題を変えよう。


 豪奢なホテルということもあって受けるサービスも大したものだった。


 提供される食事も豪華。


 浴場が男女別になっているのも強みだ。


 僕にとっては……だけど。


 というわけで……僕とウーニャーは風呂に入るのだった。


 自身とウーニャーの髪と体を洗うと湯に浸かる僕たち。


 僕がウーニャーを背中から抱きしめる形で肩まで浸かる。


「はふ」


 僕は吐息をつく。


「ウーニャー! パパ! 面白い話して!」


「ん? ん~? じゃあ今日は原子の話をしようか」


「原子?」


「原子」


 コックリと僕は頷く。


 ウーニャーはお湯に浸った虹色の髪を煩わしげに払って僕へと反転した。


「ウーニャー! 原子って何!?」


「正確には違うんだけど質量の最小単位」


「質量? 最小単位?」


「そ」


 首肯する。


「物質をミクロな単位で観測すると原子に行きつく。砂で造った城を思い浮かべればいいよ。全体像としては城だけど小さな目で見れば極小の砂の集まりでしょ?」


「その砂って言うのが……」


「そ。質量における原子」


「?」


「大まかな構造としてはこの星と月の関係を思い浮かべればいいよ」


 ちなみにこの異世界にも月はある。


 それもウサギが餅をつく絵柄の月が。


「星と月?」


「そ。原子は原子核と電子から成り立っている。正確には違うんだけど原子核を中心にして電子が月のように原子核の周りを回っているって思えばいいんじゃないかな?」


「正確には違うんだよ?」


「うん。まぁね。電子は光子と同じで粒子と波動の性質を持つんだ。だから正確には違う。だけどここではソレを置いておこう」


「チンプンカンプンだよ」


「はは。まぁね。ともあれ質量を構成するのは原子で……原子とは陽子と中性子と電子から成り立っている……と思えばいいよ」


「陽子と中性子と電子……」


「陽子と中性子が原子核を創り、電子がこの星の周りを回るような月のような存在だと思えば間違いないかな……」


「陽子と中性子と電子っていうのは?」


「陽子はプラスの電荷を持つ粒子。中性子は電荷を持たない粒子。そして電子はマイナスの電荷を持つ粒子のこと」


「ん~?」


 ウーニャーは首を傾げるばかりだ。


「プラスとマイナスはわかるよね?」


「それはまぁ」


「落雷なんかがいい例かな? マイナスの電荷を持つ雲からプラスの電荷を持つ地上に電子が迸る。つまり電子はマイナスだ。原子っていうのはそのマイナスの電子と、プラスの陽子と、どちらでもない中性子によって構成されているんだよ」


「はぁ~……ウ~ニャ~……」


 ポカンとするウーニャー。


「その内……電荷を帯びた粒子をイオンと呼ぶんだけどね」


 僕は苦笑した。


「それはパパの世界では証明されているモノなの?」


「当然」


 首肯してあげる。


 そしてウーニャーの虹色の髪を撫ぜる。


「ま、原子核としての陽子と中性子……それから粒子と波動の特徴を持つ電子の存在を理解してくれれば問題は無いかな? この世界が僕の元いた世界と同じだとするなら……ではあるけどね」


「ウーニャー! なるほど!」


 ウーニャーは納得したらしかった。


 哲学としての、


「分割できない物」


 という原子については説明しなくともいいだろう。


 そして僕とウーニャーは風呂に浸かって体を暖めた。


 極楽極楽。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ