神の国06
さらさらと流れる川。
太陽は天頂。
僕は川べりの一際大きな岩の上に腰掛けて釣り糸を垂らしていた。
「……くあ」
欠伸を一つ。
ちなみに今の僕は水着姿。
かしまし娘は寝間着姿。
ウーニャーはドラゴンの姿で僕の頭の上に乗っかっている。
フィリアはネグリジェ姿だった。
フィリアの肉体は熟れている。
正直目に毒だけど意識するとからかわれそうだったので黙って釣竿を握る僕だった。
「釣れないなぁ……」
魚は見えているんだけど……。
「ウーニャー! フィリアのトライデントなら魚なんか簡単に捕えられるんじゃない?」
「それはそうなんだけどさ……」
僕はチラリとフィリアの方を見る。
フィリアはトライデントを操って川べりに球状の水の塊を創っていた。
中は乱気流ならぬ乱水流だ。
球状の水の塊の内部で魚すら溺れそうな強力な水流が具現化していた。
その水球(スポーツのことではない。念のため)には衣服が入っており乱水流にもみくちゃにされている。
スーツやドレスと言った僕たちの衣服だ。
つまりフィリアがトライデントを以て水の塊を創り、強力な水流をその内部の中でだけ完結させて衣服をもみくちゃにして何をしているかというと……洗濯である。
要するに水球が洗濯機代わりというわけである。
無論、今までも川があったり宿屋に泊まったりしたときには衣服の洗濯をしていたが、フィリアの……正確にはトライデントの存在のおかげで、いつでもどこでも洗濯ができるようになったある種の旅における強みだ。
何より乾かす手間がいらない。
これには僕とて大層驚いた。
トライデントは水を操れる。
それは単純に水だけでなく、水分を操れるということだ。
つまりどういうことかというと、
「……っ」
フィリアがトライデントに何かしらの意志を送る。
同時に水球は霧散した。
そして後には渇いた衣服だけが残される。
アイロンもかけていないのにパリッとしたスーツ。
こういうことだ。
水分を操るトライデント。
つまり濡らすこととは反対に……水分を操って乾かすことも出来るということだ。
「試したことはないけれど」
と前置きした後、
「人をミイラにすることも出来ると思うわよ?」
物騒な告白をするフィリアだった。
人間とて水の塊だ。
そういう意味ではやはりトライデントは凶悪な神器と言えるだろう。
そして洗濯されて乾かされたスーツをツナデが僕のところへと持ってきた。
本人は既に着替え済みだ。
その経過はサービスシーンだろうけど僕に興味は無かった。
そんなわけで着用していた水着を脱ぎ、完全に汚れを落とされてパリッと渇いたスーツを纏う僕。
ん。
いい感じ。
そして僕は左手に釣竿を持ち右手をフリーにすると、
「木を以て命ず。薬効煙」
と世界宣言。
宣言通りに世界が変質する。
元々僕のいた世界の日本には言霊という概念があったけど……世界宣言とはその類であろうか?
フォトン曰く、
「主、デミウルゴスに願い奉るための宣言」
ということらしいが。
さらに想像創造、
「火を以て命ず。ファイヤー」
世界宣言。
口にくわえた薬効煙に火をつける。
煙をスーッと吸ってフーッと吐く。
「…………」
ああ、落ち着く。
と、
「ウーニャー!」
僕の頭の上に乗っているドラゴン……ウーニャーが僕の後頭部をペシペシと尻尾で叩くのだった。
「パパ! 魚かかってる!」
「あいよ」
僕はピッと釣竿を引く。
川魚が一匹釣れる。
魚から釣り針を外してツナデに渡す。
「焼いて」
「はいな。お兄様」
ツナデはそう言って忠実に行動する。
「ウーニャー! さっきも言ったけどフィリアのトライデントなら簡単に魚捕まえられるんじゃない?」
「まぁ釣りと云うのは一種のロマンがあるからね」
僕は答えになっていない答えを返す。
さやさやと川が鳴く。
「魚との一本勝負。それが釣り師を釣りに駆り立てるんだよ」
「ウーニャー……。よくわかんない……」
「まぁ戯言だよ」
責めるでもなく僕は言う。
そしてまた釣り糸を川に垂らした。
薬効煙をプカプカ。
合計五匹の川魚を釣るのには時間がかかったけど、それでもウーニャーを除く全員分を確保できるのだった。
焼き魚を齧る僕。
こういうワイルドな食事も悪くはない。