桜の国28
結局のところさ……。
「因果の逆転だったのかな?」
僕は薬効煙をプカプカ。
煙が朝日に移ろい消えていく。
「ウーニャー……不思議な夜だったねパパ……」
僕の頭の上に安置しているウーニャーがペシペシと尻尾で僕の後頭部を叩く。
それは小気味よくさえあった。
僕は煙を嗜む。
今はもう朝。
朝日が昇っているのだから当然だ。
昨夜の朱桜と、その妖精たちの戦いから数時間しかたっていない。
朱桜を消失させることは村人を消失させることを意味する。
それでも何が起きるかわからないから僕とウーニャーが徹夜で村を見張り、女の子たちには宿屋のベッドで眠ってもらっていた。
朝日と共に旅のお供である女の子……その数ウーニャーを除いて四名が起きてきた。
もうこれ立派なハーレムじゃない?
口に出しては言わないけどさ。
「おはようございますマサムネ様」
「おはようございますお兄様」
「おはよ! お兄ちゃん!」
「おはよ。マサムネちゃん」
それぞれが僕に挨拶をしてくれる。
僕は煙をスーッと吸ってフーッと吐くと、
「おはよ。よく眠れた?」
そんな差しさわりの無い常套句を口にする。
「問題ありません」
「はいな」
「うん! よく寝た!」
「マサムネちゃんこそ寝なくて良かったの?」
最後のフィリアの問いにだけ答える。
「ま、鍛えてますから」
肩をすくめてみせる。
煙をプカプカ。
「ウーニャー。ところでパパ……」
「なぁにウーニャー?」
「因果の逆転って何だったの?」
「ああ、それ……」
僕は煙を吸って吐く。
「要するにさ、アクションとリアクションが見事に逆転してるなって思って」
「アクションとリアクション?」
「人が集まって村を作り朱桜を信奉して体制を整えたと僕らは最初思ってたでしょ?」
「ウーニャー……そうだね……」
「でも実際は先に朱桜があって力を持ち、妖精として村人を生み出し自分自身を信奉させた。それも熱狂的にね」
「ウーニャー……そうだね……」
「つまりさ。根本にあったのは村人ではなく朱桜の方だったってこと」
僕は煙を吸って吐いて言葉を続ける。
「桜の民とでも言うべきかな? そう考えると中々ロマンチックな村だったよね……ここは……」
「ですがお兄様に牙をむけました」
憤然としてツナデが言った。
「それだけで此度の朱桜は罪悪です」
「まぁまぁ。桜が赤いのは人の死体が埋まっているからって与太話は僕たちの世界にはあったでしょ?」
僕は煙をプカプカ。
「それが現実化したと思えば中々出来ない経験だったと僕は思うな」
「お兄様に害が及ぶものは全て排除せねばなりません」
これがツナデの欠点だ。
僕を優先して他を貶める。
しょうがないことではあるだろう。
あっちの世界での僕は散々だ。
同情の余地はある。
そして同情が恋慕に変わるのに乙女心は躊躇しないだろう。
現に僕はこのハーレムの中でツナデを一番大切に思っている。
それでもツナデの思考はちょっといき過ぎている。
「ま、別にいいんだけどさ」
僕は煙をスーッと吸ってフーッと吐く。
「別にいいとは何がでしょう?」
クネリと首を傾げるツナデに、
「ツナデは可愛いなってことだよ」
そう言ってクシャクシャとツナデの黒髪を撫ぜまわす僕。
「あう……」
とツナデは顔を真っ赤にして俯く。
うん。
可愛い可愛い。
「マサムネ様……マサムネ様は私のバーサスの騎士であることをお忘れなく……」
「お兄ちゃん! イナフもイナフも!」
「ウーニャー! ウーニャーもバーサスだよ?」
「マサムネちゃん……? 依怙贔屓もほどほどにね……」
ハーレムの皆さんが不満を口にした。
「お兄様……やはりツナデにとってお兄様は絶対無二です」
「それは重畳」
おどけたように言ってやる。
煙をプカプカ。
「それでフォトン」
「はいな?」
「これからどうするの?」
「南に下りましょう」
「南に」
「はい。南に」
「…………」
僕は思案するように煙を吸って吐いた。
次はどういう国だろう?
ここまで個性の強い国々を回れるというだけでも望外の幸運だからついつい期待してしまうのだった。