桜の国26
「がっ!」
と首筋に手刀を埋め込まれた村人が呻く。
そんな村人の鳩尾に僕は一本拳を埋め込む。
「……っ!」
悶絶する村人の一人。
次の瞬間、夜に輝く朱桜の下で、
「っ!」
宴会をしていた村人たちに緊張が奔る。
緊張が奔ったのはこっちも同じだ。
僕とツナデとイナフはオーラによって状況を把握していたし、フォトンとフィリアもさっきのやりとりで酔いを醒ましていた。
ウーニャーは僕の頭にしがみつくので精一杯だったらしい。
「ウーニャー……何なの?」
そんなウーニャーの言葉に答えている暇はない。
村人たちはそれぞれ手に鍬やら鉈やら包丁やらを持っていた。
しかもそれを構えていた。
殺気がビシバシと伝わってくる。
「オーケィ……あなたたちが僕らに害意を持っているのはわかったよ」
僕は諸手をあげる。
「それは誰の意志だい? 山賊にでも脅されているのかな?」
「なに」
と武装した村人の一人が当然とばかりに言う。
「朱桜様の贄になってもらおうとな」
それはわけのわからない言葉だった。
「贄?」
首を傾げる僕に、
「然り」
と村人たちは頷く。
贄……ねぇ。
困惑する僕。
同時にツナデがオーラを全開まで広げて両手で印を結ぶ。
そして術名。
「雷遁の術!」
次の瞬間村人たちに雷の幻覚が襲う。
「…………」
しかして村人たちが堪えた様子は無かった。
「あれ?」
とツナデが困惑する。
今度はイナフだ。
両手で印を結んで術名を発す。
「その身を焼け」
火遁の術だ。
炎の幻覚が村人を襲う。
しかして、
「…………」
村人たちが堪えた様子は無かった。
次は僕。
両手で印を結んで術名を発す。
「刃遁の術」
斬撃の幻覚が村人を襲う。
「…………」
それでも村人は堪えなかった。
「っ!」
そんな僕らを無視して鍬やら鉈やら包丁を持った村人が僕らに襲い掛かる。
僕は言う。
「殺すのは気が引けるなぁ……」
「そんなこと言ってる場合ですか……!」
フォトンの意見は尤もだ。
「ウーニャーが一息で薙ぎ払おうか?」
そんなウーニャーの提案に、
「どうしてもってなったらお願いするよ」
僕は皮肉を含めて答えた。
そして僕たちは襲い掛かってくる村人たちに対応する。
僕は村人の振るう鍬を避けて、手に持ったクナイで村人の太ももを突き刺す。
そして次の相手に向かおうとして背後に気配を感じる。
太ももを刺して戦闘不能にした村人が襲いかかってきたのだ。
「な……!」
驚愕して僕は鍬を避ける。
無力化したはずの村人が襲ってきた。
それは不可思議な現象である。
「きりがないわね」
トライデントで多数の水の槍を生み出し多数の村人を無力化していたはずのフィリアがそう愚痴る。
「不可解です!」
コルトガバメントで多数の村人の足を撃ちぬいているツナデも焦った様子でそう言うのだった。
「わけわかんないよ!」
短刀で村人を切り裂くイナフも抗議せざるをえなかった。
それも仕方ないことだったろう。
どれだけ傷を与えても村人たちは即座に回復して再度僕たちを襲うのだから。
ちなみにフォトンとウーニャーは鉄壁の守りゆえに抵抗はしていない。
「意味がわからないわ!」
フィリアがそう叫ぶ。
「マサムネちゃん……やっていい?」
「うん。まぁ。ここまで不可解なら遠慮する必要もないよね」
「了解……!」
そう言ってフィリアはトライデントを振るう。
それに呼応したトライデントが無数の水の槍を虚空に生み出す。
それらは一人残らず村人の肉体を貫き、無力化させるのだった。
「が……!」
と村人が苦しむ。
しかして次の瞬間、やはり村人は蘇生するのだった。
遁術が効かず、肉体を貫いても即時再生する。
しかもそれが村人全員。
僕らの敵は本当に村人なのだろうか……。