桜の国25
パチリと目を覚ました。
感覚で悟る。
今は真夜中だと。
そして僕が起きるのに呼応してツナデもまた起きる。
イナフもだ。
今回の宿は全員一緒の部屋である。
そして僕たちは行動を開始した。
僕は人化しているウーニャーを、ツナデはフォトンを、イナフはフィリアを、それぞれ起こす。
「ウー……ニャー……? なぁにパパ?」
僕の呼びかけに覚醒して……しかしてまどろみの中にいるウーニャー。
僕はデコピンをする。
痛がったのは僕だった。
ドラゴンが人化している時に発揮する魔術……部分装甲である。
他者の害意に反応して部分的に皮膚をドラゴンスケイルに変えることで身を守る防御用の魔術。
この目で拝むのはこれが最初だ。
ともあれ、
「ウーニャー」
「なぁにパパ……」
「夜の朱桜を見に行くよ」
「夜の……朱桜……?」
「そ」
僕は頷く。
「夜……朱桜……ウーニャー……」
ポーッと呆けてそう呟き、
「ああ、そういえばそんなことパパ言ってたね」
納得するとウーニャーは人化を解いて小柄なドラゴンの姿になる。
暗視で見るにウーニャーの鱗も部屋の明かりを反射して七色に輝き美しかったけど、まぁ言っても詮無いので言わない。
そしてウーニャーはパタパタと翼をはためかせて僕の頭の上に乗るのだった。
そうしている間にもフォトンが起き、フィリアが起きた。
フィリアは手にトライデントを持った。
海王ポセイドンの神具にして地にある水を操る現象兵器。
その威力は宮廷魔術師であるフォトンの魔術にも対抗しうる唯一の力。
「さすがにトライデントはいらないんじゃない?」
そんな僕の提案に、
「何が起こるかわからないからね」
フィリアは苦笑するのだった。
そして僕たちは宿を出る。
最初にイメージしたのは花火だった。
それほど強力な光だった。
朱桜が輝いていた。
次にイメージしたのは蛍だった。
月夜の暗闇の中で朱色にさんさんと輝く朱桜の花弁が寄り集まって朱桜の樹を輝かせるのと同時に……散る花弁が風に吹かれて夜の闇の中を輝きながら舞っていた。
「ふーん……」
予想以上だ。
朱色に輝く朱桜とその花弁。
これほど神秘的な光景はそうそうない。
ある意味で桜の国一番の観光地だろう。
それは女性たちも同意見だったようで、
「これは……」
「へえ……」
「は~……」
「ウーニャー……」
「見事ね……」
フォトンとツナデとイナフとウーニャーとフィリアも感慨にふける。
「おお、お客さんか」
夜に輝く朱桜の下で村人たちが集まっていた。
朱桜のあまりの見事さ故に見逃していたけど村中の人たちが朱桜の下に集まっているのだった。
「皆さん一体何を……?」
「わからぬか?」
「…………」
いや、わかるけどさ。
「酒をな」
村人の一人が言う。
「酒盛りをしとるんじゃ」
見ればわかるけどね。
「お客さん方も呑まんか?」
そんな村人の誘いに、
「呑みます呑みます」
「呑む呑む」
「呑むわ」
フォトンとイナフとフィリアがのった。
「夜に輝く朱桜と空に輝く月とを愛でながら酒を呑む。これがこの村での醍醐味っちゅーもんじゃ」
そしてわいわいと村人たちは酒を呑んで、僕たちに酒をふるまう。
僕とツナデとウーニャーは年齢制限があるから呑めないけど、フォトンとイナフとフィリアは勧められるままに酒を呑んだ。
「ふむ」
「ほう」
「へえ」
感嘆するフォトンとイナフとフィリア。
「美味しいの? その酒……」
問う僕に、
「いい仕事をしていますよ」
フォトンが答える。
「ふーん」
そんなこんなで僕たちは村人に混じって夜の朱桜の花見をすることとなった。
まぁ要するに宴会だ。
そしてワイワイと騒ぐ村人の一人が包丁を取り出した。
その包丁を僕の背後から僕の首目掛けて振るう。
それをオーラで感じ取っていた僕は身を低くして包丁を避ける。
「ウーニャー!?」
僕の頭の上に乗っているウーニャーが驚く。
僕は反撃をした。
村人の包丁を後ろ蹴りで蹴飛ばして更に回転、村人の首筋に手刀を埋め込む。