桜の国22
とりあえず海王ポセイドンに連なる神具……トライデントは没収する。
こんな気象兵器を持たせたままでは話にならない。
それからトライデントの軽さに驚きながら僕は、
「フォトン。フィリアを生き返らせてあげて」
そうフォトンに頼んだ。
「正気ですか?」
わけがわからないとフォトン。
「お兄様……いくらなんでもそれは……」
同意見なツナデ。
「お兄ちゃん。本気?」
同意見なイナフ。
「まぁ死んだままってのは後味が悪いし。桜が死体を埋めてくれるかも……だけどやっぱり生きて欲しいかな僕は」
あんまり説得力の無いことを僕は言う。
「だから生き返らせてあげて」
せつに頼む僕にフォトンはやれやれと首を振ってフィリアの遺体に触れた。
同時に無限復元が適応される。
フィリアは無事生き返った。
ディバインストライクにやられた水色のカクテルドレスも元の通りに復元し、フィリアは意識を取り戻す。
「う……あ……?」
自身が倒れている状況が理解できていないのだろうフィリアは目を白黒させる。
「おはよ。フィリア」
「ああ、マサムネちゃんね……。あれ? 私、無限復元にしてセブンゾール……フォトンと戦ったはずなんだけど……」
「そ。そして負けたんだよ君は」
ほら、と没収したトライデントを見せつける僕。
「そっか……負けちゃったか……雷撃にやられたわね……。真水は電気を通さないはずなのに不可思議なこともあるものだわ」
「絶縁体って奴だね。でも基本的に電気を通さない物質ってのは存在しないんだよ。どんな絶縁体であれ、その抵抗を超える電圧をかければ電気は通る」
「そうなの?」
「そうなのです」
そして僕はトライデントをフィリアの喉元に突きつける。
「フィリア……君は僕が好きなんだよね?」
「うん。愛してる」
「それ故に僕の大事な人たちを殺そうとした……」
「間違ってはないね」
「まぁこの際それは水に流すとして……」
「流すんだ……」
とこれはイナフ。
「君も一緒に観光旅行しない? 僕たちと一緒にさ」
「マサムネちゃんと二人で……じゃないんだね……」
「フォトンもツナデもイナフもウーニャーも僕のことが好きだからね。君だけを優先させるわけにはいかないよ」
僕は肩をすくめてみせる。
薬効煙が欲しい所だったけど……今は後回しで。
「ウーニャー。でもフィリアは危険だとウーニャーは思うな」
それは当然の思考だろう。
ウーニャーだけでなく、かしまし娘もそう思っているに違いない。
「ま、ね。だから契約しようフィリア」
「契約?」
「僕は僕の範囲内で君に愛を注ぐよ。だから君も僕たち……僕の女の子たちに危害を加えない事」
「側室……ということかな?」
「まぁそうとってもらっても構わないよ。僕にとっての君への愛情は水物だ。君に好感を持てばそれだけ好きになるし逆もまた然り。少なくとも僕の女の子たちを害する気がまだあるなら僕は君を殺すしかない」
そう言ってトライデントでフィリアのおとがいを持ち上げる。
フィリアは「はあ」と呟いた後、
「あいわかりました。マサムネちゃんの旅に同行しましょ。それでマサムネちゃんはいいんでしょう?」
僕に鋭い視線をやる。
「そゆこと。いやぁお姉さんタイプがいなくて寂しい思いをしてたんだ。大人の魅力を持つフィリアが旅に同行してくれるなら花が増えていい感じ」
「お兄様……まさか巨乳がお好みですか……!」
「まぁ無いより有った方がいいよね」
ツナデの驚愕に僕はあっさりと答える。
ちなみにイナフとウーニャーは幼女の範囲でフォトンとツナデは少女の範囲で多少なりとも胸はあるけどフィリアのように成熟しきってはいない……いや充分あるんだけどさ。
「ふむ……。マサムネちゃんが私の胸を御所望だというのならそれに応えないわけにもいかないよね」
フィリアはそう言って納得した。
これ以上危険はないだろうと判断して僕は持っていたトライデントをフィリアに返す。
「いいの? この膨大な力を私に預けて?」
「元々フィリアのものでしょ? 持ち主が持ってなくてどうするのさ」
「これで私はマサムネちゃん以外の人間を瞬殺できる能力を持ったことになるんだよ?」
「まぁ死んでも無限復元がいるし問題ないんじゃない?」
気楽にそう言う僕に、
「あるんですけど」
「あるね」
「ウーニャー。あると思ふ」
ツナデとイナフとウーニャーが反論する。
「ともあれ強力な力が僕たちのパーティに加わったわけだ。だんだんハーレム化していってるけどそれは気にしない方向で」
そんな僕の言葉に、
「「「「むう」」」」
とかしまし娘とウーニャーが唸った。
スルーする僕。
魔術で薬効煙を作りだし火をつけると、僕は煙をプカプカ。
「じゃ、朱桜を見にいこっか」
フィリアを加えたパーティにそう言う僕に、
「マサムネ様がそう仰るなら……」
「お兄様がそう言うのなら……」
「お兄ちゃんが言うのなら……」
「パパが納得するなら……」
「マサムネちゃんに従うよ……」
女の子たちは肯定するのだった。
まぁ諸所の問題は考えない方向で。