光の国06
さて……茶で一服した。
ここが異世界であることも認めた。
ここは異世界の何とやら大陸の光の国。
その王都。
その中心に建てられた王城。
ライト王が統治する国らしい。
そして自分の持っているモノの確認。
パジャマ。
パジャマの袖に隠してある暗器……つまりクナイ。
それだけ。
「…………」
沈黙以外の反応があるのなら聞いてみたいものだ。
僕はクナイの柄を持ってクルクルと回して遊んでいると、
「何ですその物騒なモノ……短刀ですか?」
フォトンが食いついてきた。
「クナイと呼ばれる武器だよ」
「どこにそんなモノを……」
「寝巻の裏に……ね」
「なにゆえ?」
「そりゃまぁいつだって何かしらの危機に対応できるように、かな?」
まぁ簡単に異世界にさらわれておいて何言ってるんだ……って話ではあるけどさ。
「そんな寝る時まで護身を考えないといけないほどそちらの世界は物騒なのですか?」
「そんなことないよ。まぁ国によって経済格差が激しい所もあるけど僕の住んでいる国は治安に関しては随一だったよ。そもそもこんな温和でアホウな民族が生まれたのか不思議なくらいにね」
「ふーん」
「ま、そんなことより……」
僕はクナイをクルクルと回しながらフォトンに問うた。
「僕の服を用意してくれない? 寝ているところを連れてこられたから寝巻しか持ってないんだ……」
「そうですね。そうしましょう」
そしてフォトンはチリンチリンとベルを鳴らす。
水色の髪のメイドさん……メルヘンというらしい……が恐縮しながら現れた。
「如何な用でございましょうフォトン様」
「マサムネ様の服を用意してください」
「バーサスの騎士として……でしょうか……?」
「はいな」
にこやかにフォトンは頷いた。
「ではその通りに」
そう言ってメイドさん……メルヘンは一旦部屋を出て、それから煌びやかな服装を持ってきた。
どうやら騎士としての服装らしい。
「却下」
と僕は無下にする。
「スーツとかないの?」
「ありますが……労働者の服装ですよ?」
「それでいいよ。できれば喪服なら文句なし」
「はあ……」
フォトンは納得いかないらしいが、そもそも忍は騎士道精神とはかけ離れた存在だ。
相手を殺すのは戦場ではなく寝床。
相手を騙すならその身さえ売る。
それが忍だ。
ならば黒い姿が闇夜に溶けて都合がいいのである。
そう言うと、
「シノビ……というのはわかりかねますがマサムネ様がそう言うのならそうなのでしょうね……了解しました」
フォトンは視線を僕からメイドさんへとやる。
「話は聞きましたね?」
「はい。ただちに」
そう言ってメイドさんは消えた。
次に現れた時、メイドさんはスーツを持っていた。
「こちらでよろしかったでしょうか?」
そう問うメイドさんに、
「うーん」
と黒のジャケットにパンツ……黒いネクタイに白いシャツを見て、
「うん。いいと思う。ありがとう」
僕は謝辞を述べた。
「恐縮です」
メイドさんは慇懃に一礼する。
「それから……」
と言葉を続ける。
「一応のところマサムネ様の寸法を見切って用意したつもりですが……実際には着てもらわねば正確なところはわかりませんので恐縮ですが一度このスーツに着替えてはもらえないでしょうか?」
ある意味当然の理だ。
「わかったよ」
僕は頷いてスーツに着替える。
シャツ、パンツ、ベルト、ネクタイ、ジャケット。
順々に着て、型を組んでみる。
「うーん、ちょっと大きいかな」
それが僕の率直な感想だった。
「そう思いまして準備してきました」
そう言うとメイドさんは裁縫道具を露わにする。
僕の体をスーツ越しにペタペタと触って、
「マサムネ様……少し動かないでもらえますか?」
そう僕に問うてくる。
許諾する僕。
拒否する理由もないしね。
「恐縮です」
そう言ってチョークで僕の着ているスーツに線を引くと、裁ちバサミでスーツを切りさいて糸で縫合……僕の寸法にピッタリと合うまでにスーツを縮めるのだった。
神業を僕は見た。
あっという間にスーツを僕専用に仕立て直したのである。
それから僕は鏡を見る。
葬式にでも出るのかと言わんばかりの死んだ目とボサボサの髪に喪服のスーツを着た少年が映った。
まぁそれが僕なんだけども。
ついでにフォトンも魔術師らしい黒装束に白マントを着た姿へと衣装替えした。