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桜の国18

 今日は……というか数日は……正確にはチェリー王が王都の情報屋からラセンの情報を手に入れるまでは王城に厄介になることになった。


 部屋を割り当てられ、それぞれが個室を持つ。


 まぁ相部屋になるとかしまし娘がうるさいからこれはこれでいいんだけど。


 ウーニャーは相も変わらず僕の頭の上にいる。


 意味も無くパタパタと翼を羽ばたかせ、ペシペシと尻尾で僕の後頭部を打つ。


「ウーニャー。ウーニャーとパパ、二人きり」


「だね」


 否定するのも躊躇われて僕は頷く。


「ウーニャー。何する? 何する? パパとイケない遊びする?」


「さすがに零歳児に手を出すほどの勇者じゃないよ僕は」


「ウーニャーはいいよ?」


「ともあれ」


 僕は話題を強引に切り替えた。


「僕ちょっと野暮用で席を外すからウーニャーはフォトンかツナデかイナフのところに行っといて」


「ウーニャー! ウーニャーも行く!」


「楽しいことはないよ?」


「ウーニャーはパパと一緒にいるのが楽しい!」


「はいはい」


 僕は苦笑するしかない。


 そして望んだ座標を認識し想像創造にくわえて世界宣言を放つ。


「闇を以て命ず。空間破却」


 次の瞬間、僕とウーニャーは空間を越えた。


 眩暈は一瞬。


 意識が明瞭になると同時に僕は魔の国の国際魔術学院……そこで教授をしているクランゼの研究室にいた。


「マサムネ様?」


 燈色の髪に燈色の瞳をもった学者然とした美女……クランゼが僕の登場に驚いていた。


「ども」


 僕は頭を下げる……と同時にウーニャーが傾けられた頭にしがみつこうと強く僕の頭に抱きつくのだった。


「そちらの虹色のドラゴンはまさか……!」


「真竜王……七色竜王ウーニャーだよ。何の因果か気に入られてね」


「ウーニャー陛下を歓迎する準備などしておりません。申し訳ありませんが……」


「ウーニャー! 気にしなくていいよ! パパの付き添いだから!」


 そんなウーニャーの言葉を聞きながら僕は部屋の隅に待機している水の妖精ウンディーネに声をかける。


「お茶淹れてくれない?」


「ただいま」


 そう言ってウンディーネは紅茶の準備をするのだった。


「リリアは?」


「今書類を運ばせているところです。すぐ戻ってきますよ」


 そうクランゼが言った瞬間、コンコンとクランゼ研究室の扉がノックされ、


「クランゼ教授……書類……運び終わり……ました……」


 そんなリリアの声が聞こえてきた。


「入ってどうぞリリア」


「では……失礼します……」


 遠慮がちにそう言ってリリアは研究室に入ってくるのだった。


 利休鼠の髪を持った弱々しい印象の少女である。


 まぁそれが男心をくすぐるのだけど。


「マサムネ……?」


 リリアは僕の姿を認めるとポカンとして目を見開いた。


「ども。リリア」


「マサムネ……!」


 リリアは感極まったとばかりに僕に走り寄り抱きついてきた。


「久しぶり。元気にしてた?」


「はい……。マサムネの……おかげ……」


「アイタイラの家から圧力とかかけられてない?」


「全ての悪意は……教授によって……シャットアウト……されてます……から……」


「そ。ならよかった。ああそれから……」


「なんで……しょう……?」


「挨拶の印」


 そう言って僕はリリアにキスした。


 当然リリアは慌てふためいて顔を真っ赤にする。


 うん……可愛い可愛い。


 ほぼ同時にウンディーネが紅茶を僕とリリアとクランゼにふるまった。


 紅茶の香りがクランゼ研究室を満たす。


 僕はティーカップを傾けながら恥ずかしげに離れたリリアに問う。


「魔術の方はどう?」


「はい。少しは使えるようになりました」


「リリアは物覚えがいいですよ。不特定多数の講義を受けても魔術を使えませんでしたが個人授業を行なうとメキメキと力を発揮しました。火の属性が特に相性バッチリです」


 これはクランゼ。


「ちなみに何を覚えたの?」


「フレアパールネックレス……って言って……多数のファイヤーボールを……生み出して……操る術……」


 なるほどね。


 僕はグイと紅茶を飲みほすと、想像創造をし世界宣言をする。


「木を以て命ず。薬効煙」


 宣言通りに世界が変質し、僕の手元に薬効煙が生まれた。


「何です……それ……?」


「薬効煙。うちの家系に代々伝わる秘薬で鎮静効果をもたらすの」


 そして僕はまた想像創造をし世界宣言をする。


「火を以て命ず。ファイヤー」


 そして薬効煙に火をつける。


 僕は煙をスーッと吸ってフーッと吐いた。


 煙が生まれて消えていく。


「魔術で……薬を創りだした……の……?」


「まね」


「勿体ないと……思うな……」


「なんで?」


「攻性魔術に……ステータスを……割り振るべきじゃ……ないかな……?」


「せっかく便利な力なのに何が悲しくて攻撃魔術なんて覚えないといけないのさ? 魔術師が攻撃魔術を覚えなきゃいけないなんて強迫観念を持っているのは……ある意味で無意味だと僕は思うんだよね。どうせ神秘を覚えるならもっと楽しいことに使った方が有意義でしょ?」


「…………」


 リリアは答えなかった。


 僕は薬効煙をプカプカ。


「ウーニャー。パパには遁術があるしね」


 ペシペシと尻尾で僕の後頭部を叩きながらウーニャー。


「ま、それもある」


 否定はしない。


「マサムネは……まだフォトンと……旅してる……の……?」


「旅するメンツは増えたけどね」


 僕はフォトンの他にツナデやイナフやウーニャーについて説明する。


 リリアはそんな僕の言葉を聞いた後、提案してきた。


「リリアも……一緒に旅しちゃ……駄目ですか……?」


「駄目」


 僕はあっさりと言う。


「なにゆえ……?」


「足手纏いだから。僕とフォトンは賞金首だ。それ相応のリスクがある。そしてそのリスクに対してリリアは対応できない。見ればわかる」


「ふえ……」


「まぁそう悲観しなくてもいいよ。暇があればまた会いに来るからさ」


 煙を吸って吐いて僕はそんなおためごかしを言う。


 ウンディーネが新たな紅茶を注いでくれる。


 それを飲み薬効煙を吸って、ふうと吐息をつく僕。


「つまり……」


 とリリアが言う。


「リリアは現地妻?」


「あはは。間違ってはいないね」


 僕は薬効煙を吸いながら苦笑した。


 現地妻……そうとられてもしょうがない立場にリリアはいる。


 ツナデにしてみれば受け入れがたい現実だろうけど、それは考えない方向で。


「じゃ、リリアの無事も確認できたし僕とウーニャーはもう行くよ」


「ウーニャー! リリア! クランゼ! またね!」


「闇を以て命ず。空間破却」


 そして僕とウーニャーは桜の国の王城へと空間を越えた。


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