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桜の国16

 おはぎを食べ終えて、緑茶を飲み終えて、会計を済ませ、僕たちは桜の国の王城へと続く門前市を渡り歩いた。


 途中で露店や何やらをひやかしながら桜の国の王都……その中心にそびえる王城へと辿り着くのだった。


 王城は例によって例の如く高い城壁に囲まれ、そして威圧感たっぷりの門が外界と内界とを区切っているのだった。


 門前市は既に背後。


 僕たちが無造作に城門に近付こうとすると戦斧を構えた門番二人が警戒するように僕らを見据えた。


「何用だ?」


 門番の一人が問うてくる。


「桜の国のチェリー王に謁見を」


 遠慮もなくフォトンが言う。


「誰とも知らぬ者が王に謁見などできるものか」


「えー」


 フォトンはわざとらしく言って、


「一応有名なんですが私」


 肩をすくめた。


「何者だ」


「無限復元……セブンゾール……と言えば伝わりますか?」


「無限復元……!」


「セブンゾール……だと……!」


「然りです」


 やはり屈託なくフォトン。


「深緑の髪……フォトン様でいらっしゃいますか!?」


「そ。賞金首の手配書が回っているはずでしょ? こっちが……」


 とフォトンは僕を指して、


「私のバーサスの騎士たるマサムネ様です」


 そう紹介するのだった。


「金貨二十枚の賞金首……フォトン様のバーサス……!」


「はぁ。どうも」


 ペコペコとお辞儀をする僕。


「ちなみにマサムネ様の頭の上に乗っているのが真竜王……七色竜王ウーニャー陛下よ。頭が高いですよあなた方」


「真竜王……ですと……! 何故桜の国に!?」


「ウーニャー! いいじゃん。ウーニャーが何処にいても」


「というわけで四の五の言わずに門を開けてくださいな」


「しばしお待ちを! チェリー陛下に裁可をもらってきます故」


「早くしてくださいね。長引くようなら力づくで門を破らせてもらいますから」


「ウーニャーのレインボーブレスなら門なんか熱湯の中のバターだよ」


 ちなみにこの世界にも牧農はあり、チーズやバターも存在する。


 ついでに本当にウーニャーがレインボーブレスを放てば門どころか城ごと地平線の彼方へと消え去ることだろう。


 どうせ賞金首だし恐れることは何もないけどさ。


 そんなわけで恐縮しきった門番の一人が慌てて城内の兵士へと意図を伝えて、伝えられた兵士もまた慌てて城の中へと入っていくのだった。


 門の前で立っているのも何なので僕たちは休憩するために門前市へと戻った。


 どこそこの喫茶店で待っていると残りの一人の門番に伝え、その通りの喫茶店に入るのだった。


 そして僕とツナデはチョコレートを、フォトンとイナフは紅茶を頼んで喫茶店でまったりとした時間を過ごすのだった。


 虹色のドラゴン故にウーニャーは目を引いたが、そんなものは今更である。


「こっちではまだチョコレートの固形化は起こっていないのですね」


 ツナデが感慨深げにそう言ってチョコレートを飲む。


「お兄ちゃんとツナデお姉ちゃんの世界ではチョコレートは薬じゃないの?」


 コクリとイナフが首を傾げる。


「お菓子としての認識が一般的ですね」


「お菓子……」


「はい。チョコを固形化して砂糖やバターやミルクを混ぜて甘くし、食べれるようにしたものが主流です」


「本当? お兄ちゃん……」


「本当だね」


 僕は砂糖をたくさん入れたチョコレートを飲みながら言う。


「まぁチョコレートが滋養強壮の薬だったのはすでに過去のことで今はおやつの域は出ないね……」


「な……わけですからあっちの世界はこっちの世界より文明がいくらか進んでいるというわけですね」


 ツナデが皮肉を込めてそう言った。


「でも魔術があるんだ。僕たちの世界より文明が遅いのはしょうがないんじゃない?」


「お兄様の言はおそらく正しいです。なんでも魔術に頼りっぱなしですから文明が二の足を踏んでいるのは事実でしょう」


「そういえばお兄ちゃんたちの世界には魔術は無いんだっけ?」


「然りです。遁術はありますけどね」


 コックリとツナデが頷く。


「エルフ魔術だね」


「そう執られるのは不本意ですけど」


 むぅと唸るツナデだった。


「そもそも遁術は逃げるための術です。霧遁の術や雪遁の術……変化の術や分身の術……それらが遁術の本質。刃遁の術や火遁の術はあくまで相手を苦しめてその間に逃げるために存在するものです」


「でも実際にはクオリアに干渉して殺戮を行なえる……よね? お姉ちゃん」


 試すようなイナフの言に、


「そうですけど」


 不満そうに認めるツナデ。


「ウーニャー! ウーニャーにも遁術使える?」


「ドラゴンの姿じゃ印は結べないから無理じゃないかな?」


 ウーニャーの言葉を僕は退ける。


「まずはオーラを感知しなきゃね」


「オーラ?」


「そ。オーラ」


 そう言ってチョコレートをクイッと飲むと、門番の内の一人が喫茶店に入ってきた。


「フォトン様……ウーニャー陛下……チェリー陛下が謁見を望まれました。案内しますのでどうぞ外へ」


「あいあい」


 そして僕たちは会計を済ませて外に出るのだった。


 目指すは桜の国の王城。


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