桜の国15
「おおー」
ガタゴトと馬車が揺れて桜の国の王都についた。
染井吉野に枝垂れ桜に八重桜。
ありとあらゆる桜が所狭しと桜の国の王都を浸食していた。
その全ての種類の桜が永久桜らしく、季節が変わっても咲き続けるらしい。
無論それは城にも及んでいた。
王城は永久桜と有機的な統合をしていて、自然と一体になった様相を晒していた。
「眼福眼福」
僕は桜吹雪の花弁を掴みとりながらそう言う。
「ウーニャー! 綺麗な国だね!」
僕の頭に乗っているウーニャーがペシペシと僕の後頭部を尻尾で叩く。
これは喜色の感情の発露であることを既に僕は知っている。
「ではフォトン様一同……護衛のことありがとうございました」
商人はそう感謝して王都の市場へと向かっていくのだった。
「僕たちも市場にいこっか。桜餅とか無いのかな?」
「市場に行くのは賛成です。ところでマサムネ様……サクラモチとは?」
「ツナデも賛成です。さすがに異世界に桜餅は無いと思いますが……」
「イナフも賛成。で、サクラモチって?」
「ウーニャー! ウーニャー!」
ウーニャーはペシペシと僕の後頭部を尻尾で叩く。
僕とツナデは代わる代わるフォトンとイナフに桜餅がいったい如何なるものか滔々と説明をする。
そうこうしている内に僕たちは桜の国の王城の……その門前市まで行くのだった。
さすがに王都だけあって市場の流動性は凄まじいモノがある。
あらゆるところで貨幣交換や物々交換がしきりに行われている。
と、僕は一つの茶屋を見つけた。
それは岩や煉瓦でつくられた建物の中で一つだけポツネンと木材で造られており、圧倒的存在感を伴っていた。
その木造建築はそう……時代ドラマとかでよく見る道の途中にある団子茶屋に他ならなかった。
瓦の屋根。
障子の壁。
木造りの長椅子が店の外に置いてあり、その長椅子に影を差すように永久桜の樹が一本立っていた。
まるで旅の途中の侍がフラリと寄って長椅子に座って、桜吹雪の中で茶屋小町に団子と茶を出されるかのようなベッタベタな雰囲気を持っていた。
「おおっ。こっちの世界にもこんな店あるんだね」
「確かに。少し意外でした」
僕とツナデは少しだけ驚愕する。
「マサムネ様の世界にもあるんですか?」
「僕とツナデの国だけに……だけどね」
「実際ああいう木造建築は大陸の極東の文化らしいですよ?」
「極東の文化なんだ……」
うーん……シンクロニシティ。
「極東の国には桜を愛でる文化があって、桜の国は極東の国の文化を一部取り入れていると聞いています」
「それがこの茶屋ってこと?」
「そういうことらしいですね」
フォトンは頷くのだった。
「へえ~……」
と感心していると、接客小町が店内から出てきて茶屋の前で足を止めている僕たちに声をかけるのだった。
「お寄りになりませんか? うちの団子、美味しいですよ?」
ニコニコと営業スマイルな声だった。
「じゃあ団子を四人に二つずつ」
「はいはい。おやお客さん……ドラゴンを飼っていらっしゃるので? 虹色のドラゴンとはまた稀有な……。ドラゴンさんも何か食べますか?」
「ドラゴンは食事をしないんだよ?」
「では四人に団子を二つずつと……。お茶はどうしましょう?」
「何があるの」
「抹茶と緑茶とほうじ茶と……それからそれから……」
つらつらと茶の名前を並べる接客小町に、
「全員に抹茶を一杯ずつお願い」
僕はそう言った。
「イナフもこんな店初めて見るよ。情緒と調和があって趣ある風情だね」
「ウーニャー! ウーニャーも初めて!」
そりゃまぁイナフはエルフの里で引き籠っていたしウーニャーは生まれたばかりだ。
全てが新鮮に見えるのだろう。
僕としても自分の知っている文化だったためか……不思議なんだけど何かしら安堵のような感情を持っているのだった。
そして抹茶と団子が運ばれてくる。
団子を口に放り込んで抹茶で流し込む。
「ふむ」
「ほう」
「へえ」
「ふわ」
僕とフォトンとツナデとイナフはその美味しさに驚いた。
繊細で濃厚……涼やかな甘みに濃い香り。
そんな二律背反する食の美がそこにはあった。
団子も抹茶も申し分ない美味しさだった。
桜吹雪を見つめながら茶を飲み団子を喰らう。
これ以上の幸せが何処にあるというのか。
「どうですか?」
と問うてくる接客小町に、
「ん。美味しい」
と僕は褒める。
「うちはおはぎも美味しいですよ?」
「おはぎもあるの!?」
「はい。極東の……和の国で茶菓子の修業を積んだ店長自慢の一品です」
「じゃあそれを四人分お願い」
「はいは~い。あ、お茶のおかわりはどうでしょう?」
「ちゃっかりしてるね」
「褒め言葉と受け取っておきましょう」
「全員に緑茶をお願い」
「承りました~」
そしてまったりと団子茶屋で時間を感じる僕たちだった。