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桜の国14

 待っていたのは歓待だった。


「奇跡だ」


 と誰もが言った。


「本当に山賊を無力化したのか?」


 と誰もが問うた。


 僕は頷くばかりだ。


 そしてその証拠として暴行を受けていた女子たちに山賊の傷体があったことを説明されて事なきを得た。


 村は宴状態だった。


 まぁ山賊の支配から解放されたのだ。


 喜んで然るべき。


 畑の麦を山賊に渡す必要がなくなったのは大きい。


 後は人質だった村の若い女子が帰ってきたのも大きい。


 女子たちは大きなトラウマを抱えるに至ったが、それも時間という概念が解決してくれるだろう。


「「「「「……っ!」」」」」


 喝采が僕たちを包んだ。


 事を為したの僕一人だけど、そんなことは些事と扱われた。


 村に訪れたというだけで僕および一同が歓待されたのだ。


 気持ちはわからないでもない。


 ないが、


「何だかなぁ」


 というのが本音だった。


 クズの掃除をしただけで喜ばれても、


「さいですか」


 としか言えない。


 そもそもにして別に村人のために戦ったわけじゃないのだ。


 全ては村人が商人を襲わないように配慮した結果だ。


 つまり偽善。


 自分のためである。


 面倒だから言わないんだけどさ。


 だから、


「いやぁ……まぁ……」


 と詰め寄り褒めそやす村人にぼやけた言葉で返すのみだ。


 そうしている間にも村の若人たちが山賊のアジトに赴き、僕の言葉が真実だということを示した。


 そこは認めなければならない箇所だろう。


 僕は何も言わなかった。


 そして麦の蒸留酒が振る舞われ、


「飲め飲めぃ!」


 と山賊の支配から解放された村人たちが酒を迫った。


 僕?


 もちろん飲まなかったよ?


 未成年は呑んじゃいけないしね。


 代わりとばかりにフォトンとイナフが酒を呑んだ。


 フォトンはその性質上悪酔いはできない存在だし、イナフも酒には強いようで、宴会は次の夜まで続いた。


 本当は馬車の護衛として次の村へと進むべきだったのだろうけど、護衛対象である商人も勧められた酒にぶっつぶれて先に行こうにも行けない状況だった。


 まるで「救世主か」と思わせるほど僕らは歓待された。


「ウーニャー! パパは凄いね!」


 僕の頭の上に乗っている七色のドラゴンスケイルを持つドラゴン……真竜王ウーニャーはそう言った。


「相手が弱かっただけだよ」


 僕は肩をすくめる。


「ウーニャー! でもウーニャーにも声をかけて欲しかったな!」


「その内ね」


 僕は鶏肉の焼き鳥を食べて薬効煙を吸いながらそう言った。


「私がいれば楽勝だったでしょうに……!」


 これは酔っているフォトン。


「私の力なら一瞬で山賊を消滅できましたよ?」


「その対価として村も吹っ飛ばしただろうね」


 僕は皮肉る。


「お兄様……お兄様のいるところがツナデのいるところです。ツナデにも一声かけて欲しかったです」


「ツナデを煩わせるような案件でもなかったしね」


 僕は煙を吸って吐いてそう述べ立てる。


「イナフも! イナフもお兄ちゃんの役に立てたと思うな!」


「今度は頼ることにするよ」


 僕は軽く受け流した。


 そんな僕に旅のお供の女の子たちだけじゃなく村人たちも寄ってきた。


「わしの娘が無事ここにいれることが奇跡じゃ!」


「ようも俺の娘を助け出してくれた!」


「わいはもう死ぬまで娘に会えんかと!」


「飲めぇ! 飲んでくれぃ!」


 そんな感じで山賊にさらわれた女子の親たちが面倒くさく構ってくるのだった。


 僕は逃げ出した。


 正確には逃げたのではなく転進だ。


 正直山賊に支配されていようといまいと村の行く末に興味は無い。


 僕は正義のヒーローじゃないんだ。


 だから僕は早々に村を興しての祭りに参加する気にはなれず馬車の荷車に引き籠るのだった。


 薬効煙の煙をスーッと吸ってフーッと吐く。


「やれやれ」


 そう言う他ない。


 昨夜の案件で僕たちが商人を騙す可能性は排除できたと言っていいだろう。


 なにせ襲ってきた村人たちから馬車を守ったのだから。


 だから僕は宿の風呂を借りて入り、ドラゴンの姿をしたウーニャーを抱きしめて、宴会を続ける村人たちの喧騒を聞きながら眠りにつくのだった。


「…………」


 薬効煙を燃やし尽くして、ウーニャーを抱いて眠りにつく僕。


 おやすみなさい。


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