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桜の国12

 馬車は進み一つの村に着いた。


 日が傾きかけている。


「今日はこの村に泊まりましょう」


 という護衛している商人の言葉に逆らう者は出なかった。


「じゃあ宿を取ってきますね」


 というフォトンに商人が待ったをかけた。


「何ででしょう?」


 と不思議そうに首を傾げるフォトンに商人は言った。


 夜中の馬車の護衛も仕事の内だと。


 たしかに。


 馬車を何処かに止めなきゃいけない以上、護衛全員が宿に泊まれば商品を乗せている馬車が狙われるのは当然の理だ。


「ではいったい誰が……」


 とツナデが疑問の本質をつくと、


「僕でいいよ」


 僕が安請け合いをするのだった。


「まさか」


 ツナデは「ありえない」という。


「お兄様を起こしたままツナデがぐっすり寝れるわけないじゃないですか」


「まぁその辺は割り切ってもらって」


 ぽやっと僕は言う。


「たとえこの村の人達の中に商品を狙おうとする不埒者が出ても叩きのめせるしね。それに僕は一週間寝ないで活動できることくらいツナデは知ってるでしょ? 代わりに明日の昼間、馬車の上で寝るから問題ないよ」


「しかし……」


 渋るツナデに、僕はよしよしと頭を撫でた。


「いい子だからお兄ちゃんの言う事を聞いて……ね?」


「はい……」


 カァーッと赤くなって俯くツナデだった。


 そしてフォトンとツナデとイナフのかしまし娘と真竜王ウーニャーは村の宿に泊まるのだった。


 無論自腹である。


 護衛の報酬はあくまで食事の提供。


 宿に泊まるのは報酬の内に入らない。


 そんなわけで僕は日が明るい内に風呂だけ利用させてもらって汗を洗い流し、夜が来ると馬車の中で寝っ転がるのだった。


 商人もそれに倣う。


 僕が「宿に泊まらなくていいのか」と聞くと「依頼者のブツを盗む冒険者もいるから油断はできない」という答えが返ってきた。


 納得。


 そんなこんなでオーラを半径五百メートル……直径で一キロメートルまで広げ村全体を囲むと半分昏睡半分覚醒の状態を維持する。


 脳の機能のスリープモードとでも言えばいいのだろうか。


 オーラで悪意を感じた時にはすぐに起きれるような睡眠状態を維持しているのだ……要するに。


 そして夜が更ける。


 太陽の代わりに月が昇り、夜風が馬車の上にも降りかかる。


 心地よく眠る僕の目を覚まさせたのは村人だった。


 月の位置から考えうるに既に丑の刻に近い時間だろう。


 そんな草木も眠る真夜中で、僕は悪意を感じて覚醒した。


 それも一つや二つじゃない。


 三つや四つでもない。


 二十を超える悪意の数々。


 村全体が僕……というより僕の乗っている馬車に向けて悪意を放っていた。


「よっ……と」


 僕は腹筋運動の要領で上体を起こす。


 村人たちは鎌やら鍬やらを握って馬車を包囲していた。


 いやまぁ起きる前からオーラでわかっていた陣形だけどさ。


 ちなみに商人はグースカ寝ている。


 ちょっと危機感足りないんじゃない?


 商人を叩き起こして現状を把握させ、それから僕は村人たちに尋ねた。


「物騒だね。僕たちが何かした?」


 答えて村人曰く、


「何もしておらん。だが商品を置いてってもらう。出来なければ貴様らを殺してから奪わせてもらう」


 とのこと。


「やれやれ」


 物騒なことだ。


「いいよ。出来ると思うならやってみればいいさ」


 僕はコキリと首を鳴らして両手にクナイを構えた。


 村人たちも鎌やら鍬やら包丁やら物騒なモノを構えた。


 僕は言う。


「かかってきてどうぞ?」


「「「「「上等!」」」」」


 中略。


「「「「「がう……!」」」」」


「「「「「うげ……!」」」」」


「「「「「ぐえ……!」」」」」


 村人を残らず叩きのめす僕だった。


 オーラで確認するに後一人残っているのだけど、まぁ無視しても誤差はあるまい。


 護衛している商人は僕の強さにキラキラと敬意のこもった視線を向けていた。


 一銭の得にもならないからあんまし嬉しくないけどね。


「さて、どうしたものかな」


 僕は困っちゃって薬効煙を作りだし火をつけると煙を楽しむ。


 と、見逃していた最後の一人が、


「うわああああああああ!」


 と絶叫を上げて包丁を振りかざし僕に襲ってきた。


 幼女だ。


 外見年齢だけならイナフと同程度だろう……おそらく外見通りの年齢なのだろうけど。


 そんな幼女の持っている包丁を無刀取りで取り上げて首筋にクナイを押し付ける。


「それで……これは何のつもりさ?」


 僕が幼女を脅しながら村人に問うと、村人はポツリポツリと事態の説明を始めるのだった。


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