表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/512

日の本の国01

 僕は義理の妹であるツナデと対峙していた。


 ツナデは人目を引く美人だ。


 そのことについて僕は否定をするつもりは一切ない。


 長く黒い髪は光を反射してエンジェルリングを作っており、一分の乱れもない。


 瞳に宿るのは静謐な情熱という二律背反する不思議な意志。


 唇は桜の花弁のよう。


 顔立ちはミケランジェロでもこうは再現できないだろうという絶世の美を持つ。


 今着ている服は胴着だけど一向学園高等部の制服を纏えば可愛らしくも美しい……そんな女子高生が出来上がる。


 そう。


 胴着。


 妹のツナデが着ているのは胴着なのである。


 そしてそれは僕も同様だ。


 ツナデと同じく胴着を纏って、そしてツナデと対峙している。


 時は朝早く。


 場所は加当の屋敷の道場。


 僕とツナデが朝早くから道場で無手にて対峙しているのは当然理由がある。


 そして第三者である義理の父が、僕とツナデとの正三角形に位置する場所にてかざしていた手を振り下ろすと同時に、


「始め!」


 と言い放った。


 同時に、


「ふっ……!」


 と呼吸法を使ったのだろう独特の呼気を吐き出したツナデが僕へと間合いを詰める。


 要するに襲い掛かってきたのだ。


 当然だ。


 これは訓練なのだから。


「…………」


 僕は間合いを詰める必要性を感じず、その場に止まってツナデを迎え撃った。


 ツナデが右手で貫手を放ってくる。


 僕はそれを左手で受け流す。


 同時に右手で一本拳を作りツナデの喉を狙う。


 次の瞬間、ツナデは右手で僕の左腕を掴み、合気の要領で僕を転ばせた。


「……っ!」


 さすがにこれは予測していなかった。


 また知らない内にツナデはいらん技術を修得したらしい。


 頭が下がるね。


 たたら踏んだ僕の首を狙って手刀を振り下ろすツナデ。


 が、甘い。


 僕は倒れる作用に逆らわず地に伏せて手刀の射程外に身を置き、同時にツナデに対して足払いをかける。


 跳んでこれを避けるツナデ。


 僕は跳ね起きる。


 空中で身動きのできないツナデを狙った……つもりだったけど、


「……?」


 空中にツナデはいなかった。


 ムーンサルト。


 そう察した瞬間、


「……っ!」


 僕は全力で回避行動にうつっていた。


 ヒュンと風切り音。


 僕の首すれすれで手刀が振るわれる音がする。


 そして僕は僕の背後をとったツナデへと振り返る。


 それはツナデが地に足をつけるのと同時だ。


 そしてまた間合いが零になる。


 コマ落としのように一瞬にして僕とツナデは間合いを踏み潰す。


 ツナデは貫手を。


 僕は拳を。


 それぞれ放った。


 とはいえ不世出の傑物と呼んで差し支えないツナデの顔をぶつことはしない。


 あくまでツナデの貫手の迎撃に使用するのみである。


 一手。


 二手。


 三手。


 ツナデの全ての攻撃を僕は防いでみせる。


 そして反撃。


 ツナデの鳩尾を狙って一本拳を振るう。


 それがツナデに吸い込まれようとした瞬間、


「っ!」


 独特の呼吸法を行なったツナデが軸回転して僕の一本拳を受け流した。


 同時にツナデは僕の一本拳を放った腕を掴み、固定して、


「ふ……っ!」


 と呼気を吐き、零距離で貫手を放ってくる


 僕は片腕を奪われた状態だったが、それはツナデも同じである。


 ツナデの貫手を僕は自由になっている方の手の拳で迎え撃つ。


 指を伸ばしたツナデの貫手と拳を握った僕の拳。


 勝敗は明らかだった。


 いくらツナデの貫手が鋭いと言っても、それは無防備な質量……あるいは存在に対して発揮されるものなのだ。


 貫手と拳なら仕手の技量に大差がない限り拳が勝つ。


「……っ!」


 僕の拳の迎撃を受けたツナデは痛みを無視して掴んでいる僕の腕に対し合気の要領でグルンと僕を回す。


「…………!」


 僕は流れに逆らわず回転した。


 同時にツナデの足刀が僕の鳩尾にめり込む。


「……が……ぁ……!」


 苦汁の呼気を吐き出す僕。


 そして僕の義父が、


「そこまで!」


 と試合を止めた。


 まぁ当然だろう。


 僕は鳩尾を蹴りぬかれて悶絶する他ない。


 それは義妹も義父も承知しているはずである。


「ふん……! やはり雌犬の子はこの程度か……」


 義父は僕を睥睨してそう言った。


「お兄様……」


 ツナデは悶絶する僕を見降ろしてそう呟く。


 此度の試合はツナデの勝利であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ