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ヤカツの血  作者: 十和
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第2話 京池 飛鳥と柳田 薫

「あ、薫おはよー」

「……ああ」


 高校へ向かう通学路。

 唐突に名前を呼ばれた柳田薫(やなぎだかおる)はゆっくりと振り返る。自分を下の名前で……しかも呼び捨てで呼ぶ者など、一人しか浮かばなかった。


「……そこはいい加減『おはよう』で返してほしいもんだけどね」


 目を向けた先にいたのは、やはり自分が想像した通りの人物だった。

 少し呆れたように笑っているので、別に気にしてはいないのだろう。隣に並ぶのを待って共に学校へと向かう。


「ツレないねぇ、一年の初めから仲良くしてるのに。もう二年の始業式ですよ」

「特に『仲良く』した記憶はない」

「またまたー。そろそろ『おはよう可愛い飛鳥ちゃん』とか言っても驚きませんよ」

「……俺にそれを言ってほしいのか」


 どこか飄々とした雰囲気のある彼女。京池飛鳥(きょうちあすか)は「そしたら話のネタになるね」と楽しそうに笑った。

 ネタにされるこちらとしては冗談じゃない。というか、そんな台詞を抜かす自分は正直気持ち悪いと思う。


「そういえばクラス替えどうなったかねー。また同じクラスになれたかな」

「さぁな。見てみないとわからないだろ」

「ま、違うクラスになったとしても通い妻すればいっか」

「……それは通い妻とは言わない」

「冗談くらいさらっと流したまえよ薫クン」


 ばしっと肩を叩かれた。

 このフランクさはなんなのだろう。というか、違うクラスになっていたとして、そこからわざわざ乗り込んでくるつもりか。

 自分は他人からすれば正直話しかけづらいタイプだと思うし、それを歓迎してもいた。しかしどんなに冷たく接しても、彼女はこの調子を変えようとはしなかった。むしろ楽しそうですらある。

 今では突き放す気も完全に失せ、大人しく彼女のペースに合わせて付き合い、時には適当に流すのが一番平和だと判断していた。


「しっかし式とかかったるいなー。話長いし、みんな『えー……』が多いんだよ。あの『えー……』が無きゃだいぶ時間短縮できるのにねぇ」

「……そうだな」


 その発言については、珍しく心から同意できた。




「……で、だ。また同じクラスになれたわけなんですけどー」

「……ああ」

「もうちょい嬉しそうな顔してもよくない?私一人だけ嬉しいみたいに見えるじゃん」

「それについてはまず俺もお前と同じクラスになれて嬉しいと思っている前提が必要なんだが」


 退屈な始業式と面倒な休み明けの試験を終え、部活がある者は活動場所へ向かい、ない者は続々と帰宅していた。

 そんな中、飛鳥は既に空席になっていた自分の席の前に移動してきたかと思うと、そこに陣取り話し始めたのだった。

 ……結果、早々に帰宅しようとしていたところを阻まれ付き合わされている。呆れ顔をしているであろう自分の前で、ニコニコできる彼女が不思議でしょうがない。


「なんだよなんだよー。あんまツレないとつねるぞ」

「やめろ」


 伸びてきた手首を掴んで止める。

 ややあってから、飛鳥はあははっと声を上げて笑い出した。


「どうして笑う?」

「だってさ、最初の頃だったら無言で振り払うだけだったろうなーって。やっぱ仲良くなってるよ、うん」

「……それだけで仲良くなったとまで言えるか?」


 だが確かに、最初の頃であればそうしていただろう。というか、そもそもこんな風に付き合ったりはせず、さっさと席を立っていたはずだ。

 まあ飛鳥のことだから、懲りずに付いてきて会話することになるのは変わらなかっただろうが、そう考えると自分たちの関係は少しずつ変わってきているのかもしれない。


「言えるでしょ。もう手ぇ繋いで帰る日も近いんじゃない?」

「それは無い」

「あははっ」

「だからどうして笑……」

「ねぇ薫」


 飛鳥は楽しそうに笑って、


「また一年、よろしくね」


 そう言った。

 その時の笑顔は、いつもの飄々とした言動とは違う……彼女の別な一面が、垣間見えた気がした。


「……ああ」


 素直に頷いてしまった自分に密かに驚く。いつもなら自分と一緒にいても楽しくはないだろうがと返すところだが、こういう時の彼女には調子を狂わされるためか、うまく言葉が出てこない。

 なぜそうなるのかは、考えてみてもわからなかった。

 そう、飛鳥と知り合ったばかりの頃から、ずっと。

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