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ヤカツの血  作者: 十和
10/13

第10話(閑話) 他人から見た二人

「本当につき合ってないの?」

「うん」

「てかなんでつき合ってないの」

「なんでって。どっからどう見てもそんな空気無いでしょうに」

「そうかなぁ」

「むしろどっからどう見ても二人の世界作ってるでしょうに」

「なぜ」


 二人の友人――椎名友里絵(しいなゆりえ)岡野真希(おかのまき)からすると、どうも私と薫がつき合っているように見えるらしい。

 よく本当につき合ってないの、なんでつき合わないのと聞かれるが、そんなことを言われても正直困る。つき合っていないものはつき合っていないし、お互いの間につき合おうという意思も無い。

 私は薫と友達になりたくて、薫は私が嫌いじゃない。ただそれだけだ。


「じゃあさ、最初はどうして柳田君に声をかけようと思ったの?」

「できたら仲良くなりたかったからだよ」

「……で? それから?」

「それから……? それだけだよ」


 むしろそれ以外に何があるのだろう。私と薫の間に、妙に甘やかな空気など欠片も感じられないだろうに。

 そんな私を見て友里絵は苦笑し、真希は呆れたように肩を竦めた。


「……ま、あんたがそういうなら別にいいけどさ。よくやったとは思うしね」

「何が?」


 真希の気の強そうなツリ目が弧を描く。楽しいことでも思いついたような顔だ。


「うちら、二年じゃん?」

「うん」

「そうだね」


 友里絵と私はまだ意図が読めず、とりあえず素直にそう返す。


「ニ年ってことは修学旅行があるでしょ」

「うん。京都、奈良それから大阪だっけ」

「で、三日目と四日目は私服オッケーじゃん?」

「あ、うん」


 四泊五日の修学旅行のうち、行き帰りが主体となる初日と最終日、それから集合写真を取る予定がある二日目は制服だが、自由時間が主な三日目と四日目は私服が許可されている。

 もちろんあまり派手なものは禁止されているし、そういった場合の常識や節度を学ばせるための機会でもあるのだろう。修学旅行とはそういうものだ。


「あんなイケメンの私服姿とかレアもレアでしょ。ってことで飛鳥、柳田君グループ組もうって誘ってきてよ」

「あー……」


 確か三日目の自由時間では好きなグループを組み、旅行先でどういった場所を回るか予定を立て、それをグループごとにまとめて提出する必要があった。

 といっても遊びやお楽しみばかりで行き先を固めることはできない。最低三ヵ所は寺院等を回る必要があり、歴史と文化に造詣を深めることが目的とされている。

 さて肝心なグループの編成だが、各自自由に組んで構わない。しかしなるべく男女混合になるようにとのことだった。そんな風に投げられては当然男女で別れることになってしまいそうだが、その辺りは仕方ないのかもしれない。

 記念という意味もあるのだし、友人と存分に楽しめるようにという配慮なのだろう。


「別にいいけどさ。私が誘ったって組んでくれるとは限らないよ?」

「それならそれで仕方ないけど、いっちばん望みあるのがアンタなんだしお願い~」

「……薫はこっちが質問したら、私じゃなくてもちゃんと答えてくれるよ」


 あの冷徹な目と美貌と呼べる顔立ちに尻込みするのはわからないでもないが、彼は決して他人に対して嫌な態度を取るようなことはしない。

 私に対して近付くなと牽制していた時も、淡々と自分の希望やそう考える理由を伝えるだけで、無粋な視線や物言いをすることなど一切無かった。

 だからこそ私は薫と仲良くなりたかったし、当初は拒絶されようとも諦めたくなかったのだ。


「まずそれが平然とできるアンタがおかしいっての。あんなクールイケメン前にしたらそれだけで何言おうとしたか忘れそう」

「フツーに話せばいいだけなのに」

「そんな冷たいこと言わないでよー飛鳥様ー」

「……真希って、彼氏いたよね?大樹(だいき)君が可哀想だよ」


 少し呆れを滲ませた声で問うと、真希はしれっと「それはそれ、これはこれ」と答えた。


「彼氏いるからってイケメンウォッチしちゃいけないという法律はない」

「真希、イケメン好きだもんね」


 先程まで私に向けられていた友里絵の苦笑は、今は真希に向いている。


「あぁ友里絵、福山(ふくやま)君もバッチリ誘っとくよう大樹に頼んどいたから」

「えっ!?」


 何でもないことのように口にした真希に対して、友里絵が明らかに狼狽する。

 福山君というのは真希の彼氏である伊藤(いとう)大樹君の友人で、友里絵の片思いの相手だ。真希は二人をくっつけようと度々こういったことを画策し、私としても優しい雰囲気のある彼とおっとりとした友里絵はお似合いなんじゃないかと、密かに応援していたりする。


「うん、いいんじゃない?旅行先ってまた違った雰囲気になれそうだし、がんばれー」

「あ、飛鳥まで……」


 狼狽えまくる友里絵を尻目に、真希は楽しそうに宣言する。


「じゃあトリプルデートできるの、期待してるねー。飛鳥、あとは任せた」

「はいはい。行ってきますよ」


 仮に薫を誘うことに成功したとしても、トリプルデートにはならないだろう。私と薫にそういった感情は存在しない。

 ……いや、でも男女が並んで歩いているだけでもデートとしては成立するのかな?などと考えているうちに、薫の席へと辿り着く。

 彼は私が話しかける時以外は大抵頬杖をつきながら窓の外を見ていたり、読書していたりする。今日は前者だった。


「薫」

「……」


 名前を呼ぶと、いつものように無言でこちらに顔を向けてくる。

 私はこれが彼なりの返答だとわかっている。が、なるほど確かに彼をよく知らない他人に対しては、余計な威圧を与えてしまうのかもしれない。


「ちょっと聞きたいことがあって来たんだけどね」

「なんだ」

「今年、修学旅行あるでしょ」

「……ああ」


 少し考える素振りを見せた薫が、思い出したというように相槌を打った。


「先生がさ、自由時間で好きなグループ組んでいいって言ってたでしょ? で、よかったら私達と組まない?」

「……私達?」


 他に誰がいるんだとその目が問いを投げかけてくる。


「私と、あそこに座ってる真希と友里絵。それから真希の彼氏の伊藤君と、伊藤君の友達の福山君。で、薫が入ってくれるなら六人かな」

「……」


 私が指差した先に薫が視線を向ける。そこでは真希が笑顔で手を降り、友里絵が軽い会釈をして答えていた。


「どうかな?いい感じに男女混合になるし、私も薫と回れるなら嬉しいけど」

「……」


 真希と友里絵に向けていた目線を戻し、こちらをじっと見つめる薫の目を少しの期待を持って見返した。

 そう、私自身薫といろいろ見て回れるなら嬉しいし、より楽しめるだろうと思っている。だから薫を誘うこと自体はやぶさかではないが、先程はどうにも彼が誤解されているようだったので、私でなくとも誘えると助言したかったのである。

 ややあってから薫が口を開いたが、その前に私達に別の声がかかった。


「あの、京池さん」

「はい?」


 名前を呼ばれたので目線を向けてみれば、そこにはクラスメイトの女子が二人並んでいた。

 普通に話すこともあるが、取り立てて仲良くしているわけでもない。いったいどうしたのだろう。


「あの、修学旅行なんだけど」

「うん」

「グループ行動あるでしょう? よかったら一緒に回らないかと思って」


 私に対してそう言いながら、彼女らの視線はチラチラと薫に注がれている。

 ああそういうことかと合点して、私はにっこりと笑った。


「あー、せっかくなんだけどゴメンね。もう組もうって話してる友達がいて」

「そ、そう。こっちこそごめんね」


 あからさまにがっかりとした顔をして、彼女達は離れていく。

 その様子を始終無言で見送っていた薫が、私に向き直ってからぽつりと呟いた。


「随分と人気者だな」

「んー?ああ、アレ?さっきの子達は私と組みたかったわけじゃないよ。薫と一緒に回りたかったんだよ」

「……どういうことだ?」


 訝しげな薫は、どうしてそうなるのか意味がわからなかったらしい。私は丁寧に解説することにした。


「つまりね、私が釣れれば薫も誘ってもらえるんじゃないかってわけ。みんなイケメンの私服姿を拝みたいもんなんですよ」

「イケ……? 私服に何かあるのか?」

「まぁ、ある人にはあるんですよ。ギャップ萌えってやつ? 私が誘ったからって薫が頷いてくれるとは限んないのにね」

「……」


 あまり彼の疑問は晴れなかったようだが、それ以上何か聞くことはしてこなかった。

 代わりに返ってきたのは、直前に遮られた短い返答。


「……構わない」

「え?」

「別に誰とも約束をしてるわけじゃない。だからお前のグループに入るのは構わない」

「本当!?」


 私があまりにも嬉しそうに目を輝かせたからだろうか。薫は驚いたように一瞬目を丸くする。

 うん、やっぱり彼は話しづらくなんかないと思う。人並みに戸惑ったり、驚いたりだってするのだ。


「やった、ありがとね!」

「……そんなに嬉しがることか?」

「そりゃそうだよ! 楽しみだなー」

「……そうか」


 彼がわからなくても構わない。私は心底嬉しかったし、より旅行が楽しくなることだろう。

 そして……彼にも、少しでもいいから修学旅行を楽しいと思ってもらえたらいいなぁと、密かに願っていた。




「……ねぇ、友里絵。アレって、つき合ってないの?」


 そんな二人の様子をずっと見ていた真希が、友里絵に疑問を投げかける。

 飛鳥の喜びようからして、誘いは上手くいったのだろう。しかしそれよりも、真希と友里絵には薫の表情が印象深く残っていた。

 こちらを見た時やクラスメイトが話しかけてきた時に彼が向けていた目は、なんの感情もない冷徹そのものだった。だというのに、飛鳥に対するそれは簡単に戸惑いや疑問、そして驚きを浮かべたりする。

 微かではあるが、普段が普段だけに、その変化は顕著に現れる。


「うーん。本人は、そう言ってるけどね。たぶん柳田君に聞いても同じだと思う」

「納得いかない」

「あはは。そういうのもあるんじゃないかな。……そこからいつの間にか始まってたっていうことも、きっとあるよ」

第三者視点から見た二人はこんな感じ。


そして閑話ですがこれが最長になるという(笑)

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