表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廃屋に潜む、闇の中  作者: 秋原かざや
第2部 ラナ編
8/11

いつもの狩場で

長らくお待たせしました、ラナ編の開幕です!

 いつからだっただろうか。

 僕には、他人にはない『力』が備わっていた。

 手を使わずに物を運ぶこと。

 人の心を読むこと。

 自分の知っている場所なら、一瞬で移動できること。

 それが、自分だけのものだと知るには、そう時間がかからなかった。


 それに……。

 その『力』は、恩恵だけではなかった。


 維持するために、『魂』の力を必要としたのだ。


 もちろん、食物で維持することも可能……なのだが、それは微々たるものだった。

 最初に選んだものは、虫。

 だが、小さい虫では、補えない。

 次に選んだのは、ハムスター。

 多少はよかったが、それでも足りなかった。

 かといって、人を殺めることはできない。

 そこで目をつけたのが……『幽霊』だった。


「さて、今日はあの廃病院に行こうかな。そろそろ霊も増えてる頃だし」

 僕は大学生になり、力のための『狩場』を整えることにした。

 とはいっても、僕ができるのは、いくつかの心霊スポットにいる数体の霊を残して、後は狩り尽くすというものだった。それだけで、霊は何故か寄ってきたし、霊を駆逐することで、周りも一時的に平和が保たれる。

 ついでに、対魔的な仕事も請け負うようになった。中には嘘っぱちなものも入っていたが、給料が入るならとそのまま受けたものもある。


 僕は父のお下がりの車で、いつもの狩場へ向かうことにした。

 もちろん、力を使って、そこまで行ってもいいのだが、無駄な力を使うことで力が不安定になるのは避けたいところ。

 幼い頃、力が抑えきれずに友達を傷つけたこともあるし、自分が倒れたことも幾度となくあった。

 だからこそ、移動手段はきちんと用意しておきたい。

「さてっと、到着ー……って、そういえば、コレ積んだままだったっけ」

 懐中電灯を探そうとして……止めた。

 時々、姉が趣味の物を親に隠すために僕の車を利用している。そのときのものがまだ積んだままだった。

「はあ、姉さんの趣味に口出しするつもりはないけど、自分のものは自分で何とかしてもらいたいよ」

 思わず、愚痴が出てしまう。

 と、さっそく、何かが近寄ってくる気配を感じた。

 僕はばたんと、車のトランクを閉めて振り返る。

「こんにちは、僕に用?」

『………』

 営業スマイルで声をかけたというのに、相手は何も言わない。

 まあ、言わなくても『感じること』は可能だ。


『その体を寄越せ!』


「誰がお前なんかに渡すかよ」


 攻撃を避けようかと思ったが、そうなると車に被害が来そうだったので、バリアを展開して、相手を吹き飛ばす。

『ぐあっ!?』

「少々、燃費が悪いけど、この体、気に入ってるんでね」

 飛ばされた霊の側に間髪つけずに接近。

 そのまま蹴り飛ばし、更に追い討ちを与える。

「不思議でしょ? 幽霊なのに痛みを感じるとか、壁にぶつかるとか」

 倒れた霊は意味が分からぬといった表情で、僕を見上げていた。

「君の中に僕の力の一部をちょっと入れてみたんだ。懐かしいでしょ、その感覚」

 ずれた眼鏡を直して、僕は彼女に近づいていった。

「けど、それもこれでおしまい。僕の力が、君を欲しているんだ」

 にこっと微笑んで告げる。

「僕の一部になってもらうよ」

 逃げようとする霊を掴んで、首元に噛み付く。

「あ、意外と君、美味しいね?」

『うああああああ!!!』



 女性の霊だけでなく、数体の霊を美味しくいただいていると、遠くからまた何かが来る気配を感じた。

 そのとき、僕は廃病院の屋上に来ていた。

「車?」

 ライトの消えた車から5人の男女が出てきたのが見えた。

「まあ、注意しにいっても僕の言うことなんか聞かないだろうし、放っておいても……ん?」

 その中の一人に、僕の目は釘付けになった。



「……ラーナ、君」

「こら、もう少しで筆を落すところだったよ、サナ」

 いつの記憶だか分からないけれど。

「うーんもう。すぐ分かっちゃうんだから。ねえねえ、一緒に本読まない?」

「今日は何?」

「シェークスピアのロミオとジュリエット」

「それ好きだよね、サナ」

 着物を着た彼女と、僕が本を手に演じる。

 僕がロミオで、彼女がジュリエット。

 そして、最後にはキスを落して……。



「間違いない、サナだ」

 どくんと、僕の心臓が波打つのが分かった。

 ずっと、視線の片隅で、彼女の姿を探していた。

 けれど、今まで出会うことは叶わなかった。

「どうしよ、心の準備が出来てない」

 そうこうしているうちに、彼女らは廃病院の中に入っていってしまった。

 確か、この病院の中には、今、大量の霊が潜んでいる……はず。

「やばっ!! 他のやつはどうでもいいけど、サナだけは助けないと!!」

 僕は急いで掴んでいた霊を取り込むと、力を使って、サナの居場所を探し始めたのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ