1いきなり旅にはでませんよ
俺は中学三年生、
楽師希 來
青春、真っ只中。
御多分に洩れず、俺は恋をしていた。
相手は定番のクラスメート、
触迦 稚鵺
俺の席は触迦の真後ろだから、
風になびく髪をいつも授業中
ぼんやり眺めてるのが、
もはや日課となりつつあった。
あ……シャンプー変えた?
いいよなぁ。あの柔らかそうな髪とか。
抱きしめたら、きっと気持ちよさそう。
いや、ここで敢えて否定はしておくけど
別に変態じゃないから。
思っても行動には移さないし、
それ以前にそんな度胸さえ
持ち合わせていない。
俺の中では、思っていても
バレたり、実行しなければ
セーフだという線引きがある。
何を思おうと思考は自由だし
他人に迷惑だって掛けないてないしな。
にしても、ホント綺麗だよなぁ。
顔も声も全部、好み。
そうそう、こういう風に振り向く顔が
特にイイんだよな。
「―――プリント回して、楽師希君」
「え?ああ」
ボケーっ見とれていて、プリントを
渡されてると分かるのに数秒。
怪訝そうに見られて焦ったが、渡した後、
振り向くとまだクスクスと
笑っている事に気づいた。
その笑い方も決して
バカにしてるとかではなく
ふんわり笑っている感じで、可愛いんだ。
だけど彼女いない歴=年齢の俺が
それを口にする事も、ましてや
気が利いたことなど言える訳もなくて。
「何、笑ってんの?前見ろよ、前」
あー俺のバカ!印象悪いだろ、ソレじゃ。
入学式で見掛けて以来、気になっていて
恋だと気が付いたのが今年、同じクラスに
なってから。
それなのに俺ときたら
愛想よくするどころか
ぶっきらぼうに接することしか出来なくて
絶対、触迦の目には
嫌な奴に映ってる筈だ。
触迦は美人で頭良くて性格も悪くない。
当然狙ってるのは俺だけじゃなくて
実際彼女が何度か告られたとかいう噂を
耳にしたことがある。
だけど誰かと付き合ってるとは
まだ聞いたことはなくて。
ってことは、
チャンスはこの俺にも残されている!?
なんて思うものの言動がどうも
伴なわない、悲しい現状がある。
だってだって、自慢じゃないが
今まで誰とも付き合った事ないんだぜ?
どうやって付き合えっていうのか
分かんないんだよ、マジで。
いや、それ以前に、何の取りえもない
普通の俺を好きになってくれるか
どうかすら怪しいし。
あーダメだ。どうも恋愛系の事になると
ネガティブになりがちだ。
「いやん、タケシったらぁ」
(……オイ)
視界にどこぞのバカップルが
自分たちの世界を作り上げて
見せつけるように
引っ付いているのがガッツリ視界に入る。
「良いじゃんこれくらい」
「…………」
ここ公共の場だろーが。
家に帰って見えないとこでやれっての。
この手の奴らは見られてる事に
快感を得るから非常に始末が悪い。
「ほらぁ~人見てるってぇ」
「お前が可愛いからじゃね?」
「もーう、嘘つけないんだからぁ」
マジ死ね。マジ死ね。
リア充、全滅しやがれ。
目の前でキャッキャ、うふふ
してんじゃねーよ。
お前ら人様の迷惑考えたことあんのか?
ここは天下の往来でそんなことするような
場所じゃねーんだよ。
欧米ならいざ知らず、わびさびを重んじる
奥ゆかしい日本なんだぞ。
お前らの所為で、今の若いモンはって
言われんだよ、自重しまくれよ。
ったくもう……
うぉぉぉぉ!!
イチャイチャラブラブしてみてー!!!!!
この話はシリアスです!