雪子が大変な事に
雪子が高熱を出し、救急車で搬送されたらしい。急いで病院に向かうと、文子が呆然としていた。
「雪ちゃんの具合はどうなんですか」
「骨髄性の急性白血病らしいの」
文子は泣き崩れた。
病室には面会謝絶という札が掛けてあった。叔父の正志も駆けつけてきた。
「それで雪子はどうなんだ」
「ドナーがみつからなければ、助かる見込みがないそうよ」正志と文子は検査室に入り骨髄が適合するか検査していた。
竜太郎は「僕も協力します」
3人は待合室で検査の結果を待った。
ナースがやってきて
「残念ながら雪子さんに適合しませんでした」
翌朝竜太郎は雪子のもとを訪れた。ずっと雪子の手を握り続けた。竜太郎はふいに佳恵の顔が浮かんできた。佳恵が女神に見えた。佳恵に電話をかけ雪子のことを説明した。佳恵はいとも簡単に骨髄の提供を了承してくれた。「今から病院にいくわ」佳恵はすぐに駆けつけてきてくれて、早速検査を行った。なんと雪子の骨髄と適合することが判明した。竜太郎は鳥肌が立つのを感じた。移植は三日後ときまった。
佳恵と雪子は初めて対面した。『お兄ちゃんの彼女なんでしょ。ご迷惑かけてすみません」
「沢村君の妹分なんでしょ。早く元気になって」
「もうだめかもしれない」
「諦めてはだめよ。みな応援しているんだから。」
骨髄の移植が行われたのは三日後だった。担当のナースが説明した。
「患者さんの拒否反応が起こらなければ大丈夫です。一ヶ月経過を見させていただきます。」
翌日竜太郎は佳恵と会った。
「お前大丈夫か」
「ぴんぴんしているわ」
『本当に恩に着るよ。雪子は回復してきたらしい。」
「竜太郎君も無理しないでね。貴方こそ寝る暇も無いくらい頑張ってるんだから。貴方まで倒れられたら、私の身ももたないわ」
一ヵ月後雪子が借退院した。術後の経過は順調で回復も早かった。
「お兄ちゃん、いろいろ有り難う」
「礼なら佳恵に言えよ、」
「落ち着いたら佳恵さんにお手紙書くわ」竜太郎は心の中で(一生懸命生きるんだぞとつぶやいた)
昼休みに学食で佳恵に会った。
「またチキンカレー食べてるの」
「うるさいな大きなお世話だ」
「これから海に行かない?たまには息抜きしなきゃ」
「おまえ、年中息抜きしているようだけど、大丈夫なのか?」
「試験はいつも友達に見せてもらってるわ」
竜太郎は呆れてものも言えなかった。
藤沢で江ノ電に乗り換え、由比ガ浜で降りた。海岸を歩き二人は鎌倉に行った。歴史の重みがそこにはあった。鶴が丘八幡宮を見学しみやげ物の店をのぞいた。
「竜太郎君楽しそうね。つれてきたかいがあったわ」
「うん凄いよ」
「竜太郎君、私の家に寄っていかない?」
「ちょっとだけお邪魔しようかな」
家自体は意外に簡素だった。佳恵のお母さんが出てきた。竜太郎は丁寧に挨拶をし、茶の間に通された。
「貴方が沢村君、いつも娘から聞いているわ」
「なに緊張しているのよ、いいのよそんな」
佳恵はいまにも吹出しそうだった。
竜太郎は北海道の話をした。佳恵のお母さんは興味深深と言った感じで聞いていた。
「春になると熊が出るんですよ。」
と大げさに言うと、
「熊、凄いわ。ヒグマなの?」
「そうです、相当なつわものです。」
「冬はたまにマイナス30度になります。」
「想像もつじゃないわ」
佳恵が
「私の部屋に行きましょう。」
「ぜひ行ってあげてくださいな」
と、こころよく許してくれた。
佳恵の部屋はきちんと片付いていて、清潔感が漂っていた。
「ママが掃除してくれるの」
竜太郎はどうせそんなことだろうと思った。
「なにかかける?」
竜太郎はバッハをリクエストした。二人は無言で聞いていた。
「そろそろ帰るよ、バイトもあるし」
「今日は楽しかったわ。有り難う。」
駅まで佳恵がおくってくれた。佳恵は人目もはばからずキスを求めてきた。竜太郎は優しく肩を抱き、その求めに応じた。
「どこへも行かないで」
佳恵は胸の中で言った。佳恵はしがみつくように竜太郎に愛の言葉を囁いた。