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私の料理を泥と捨てた王国、飢え死に寸前で戻れと言われても遅いです ~帝国の料理番になった私は、冷徹な皇帝陛下に胃袋を掴めと命じられました~  作者: 花菱 結愛
第1章:泥を啜らされた令嬢、極寒の帝国で至高のスープを振る舞う

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第4話:冷徹公都の温かな厨房

「……これが、帝国の誇る最高級の厨房ですの?」


 私が案内された場所を見て、思わず独り言が漏れました。

 広大な石造りの空間。並べられた銀の調理器具は曇り一つなく磨かれ、王国では見たこともないような魔力駆動のオーブンが鈍い光を放っています。

 けれど。

 そこにある「空気」は、あまりに冷え切っていました。


「どこの馬の骨とも知れぬ小娘を、陛下が直々に連れてこられたと思えば……。ヴェスタの追放令嬢だと?」


 厨房の中央で腕を組み、私を睨みつける大男がいました。

 帝国の宮廷料理長、ハンス。その背後には、彼を崇拝する十数人の料理人たちが、まるで獲物を見るような目で私を取り囲んでいます。


「ここには、大陸一の食材が集まる。だが、それを扱うのは我ら帝国の選ばれし職人のみだ。お嬢様のお遊びに貸してやる暇はないんだよ」


 ハンスさんの言葉に、背後のセリーナさんは何も言いません。ただ、眼鏡の奥で「どう切り抜けるのかしら?」と、私の出方を試すように静観しています。

 私は、手に持った古びた木ベラを強く握り締めました。


「お遊びではございませんわ。私は、あの方の『飢え』を満たすために参りましたの」


 私は真っ直ぐにハンスさんの瞳を見つめ返しました。

 王国で踏みにじられ、すべてを失った私には、もう守るべき体裁も、恐れるべき名誉もありません。あるのはただ、料理への誇りだけ。


「ハンス様。そちらの籠にある『虹色マスの卵』……そのままでは、死んでしまいますわ」


 私の指摘に、厨房の空気が一変しました。

 ハンスさんは顔を真っ赤にして怒鳴り散らします。


「何を抜かす! これは今朝、極北の湖から魔法凍結で届いたばかりの極上品だ!」

「ええ、食材としては最高ですわ。ですが、凍結の魔力が強すぎて、素材の持つ『喜び』が凍りついています。このまま焼けば、味はパサつき、後味に魔力の苦味が残るでしょう」


 私は迷わず歩き出し、作業台に向かいました。

 ハンスさんが制止する間もなく、私は腰に下げたままだったあの木ベラを、冷え切った鍋の中に浸しました。


「失礼いたしますわ。……少し、お節介を焼かせていただきます」


 私が木ベラを一回、静かに回す。

 すると、鍋の中に満たされていた冷水が、一瞬で柔らかい「春の陽だまり」のような温度に変わりました。

 そこへ虹色マスの卵を浸すと、凍りついて白濁していた卵が、魔法のように鮮やかな真紅へと色づき、宝石のような輝きを取り戻したのです。


「な……!? お前、今、何をした!? 無詠唱で魔力を通したというのか?」

「いいえ。私はただ、この子たちが一番心地よい温度を教えてあげただけですわ」


 私は微笑み、そのまま流れるような動作で調理を始めました。

 帝国の厨房にある最高級のバター。それを熱し、黄金色の泡が立った瞬間に、卵と刻んだ香草を投入します。

 ジューッ、という繊細な音が厨房に響き渡りました。

 立ち上るのは、濃厚なバターの香りと、春の訪れを告げるような爽やかな香草の調べ。


 ハンスさんや他の料理人たちが、言葉を失って私の手元を注視しています。

 私の木ベラが動くたびに、食材たちが歓喜の声を上げているのが、私には聞こえるのです。


「セリーナさん。これを陛下へ」


 ものの数分で完成したのは、『虹色マスの卵のコンフィ・草原の香り添え』。

 純白の磁器の上で、真紅の卵が宝石のように艶やかに輝いています。


「……確かに、お預かりいたしました」

 セリーナさんの声が、初めてわずかに揺れました。

 彼女は銀のトレイを掲げ、主君の待つ食堂へと足早に向かっていきます。


 厨房に残された私と料理人たち。

 ハンスさんは、作業台に残されたソースを指ですくい、恐る恐る口に運びました。

「…………馬鹿な」

 彼の目が見開かれます。

「この……暴力的なまでの『命』の味は、何だ……。俺たちがこれまで扱ってきたのは、ただの死体だったというのか……?」


 料理人たちの沈黙は、もはや蔑蔑ではなく、圧倒的な実力への戦慄へと変わっていました。


 その時。

 食堂の方から、地響きのような魔力の波動が伝わってきました。

 それは恐怖ではなく、何かに深く感動し、あるいは、激しく昂ぶっている――ゼフィロス様の「魂」の震え。


「エリアナを、ここに呼べ!!」


 壁を震わせるほどの陛下の声。

 私はセリーナさんに導かれ、再び食堂の扉を開けました。


 そこには、一皿を完食し、肩を激しく上下させているゼフィロス様の姿がありました。

 彼を見上げた瞬間、私は息を呑みました。

 彼の右手を覆っていたあの黒い包帯が、隙間から漏れ出すようなまばゆい光を放っていたからです。


「エリアナ……。お前は、一体、私に何を飲ませた」


 陛下が立ち上がり、大股で私に歩み寄ります。

 その瞳には、獲物を決して逃さないという執着と、初めて見る「熱い情熱」が渦巻いていました。

最後まで読んでくださって、ありがとうございますわ!


「無能」と笑っていた料理人たちが、エリアナの「木ベラ一回」で黙り込むシーン……わたくし、胸がすく思いですわ!おーっほっほっほ!

でも、本当の驚きは陛下のリアクション。

右手の包帯が光りだすなんて、エリアナの料理にはお腹を満たす以上の「何か」があるようですわね。


次回、ゼフィロス様がエリアナを「抱き上げる」以上の、さらに重すぎる独占欲を見せてくださいますわよ!

続きが気になる!と思ってくださったら、ぜひ【ブックマーク】と【評価(下の方にある☆☆☆☆☆を★★★★★に!)】をお願いいたします。

あなたの応援こそが、わたくしたちの物語を輝かせる最高のスパイスですわ!

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