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私の料理を泥と捨てた王国、飢え死に寸前で戻れと言われても遅いです ~帝国の料理番になった私は、冷徹な皇帝陛下に胃袋を掴めと命じられました~  作者: 花菱 結愛
第2章:復讐は黄金の焼き加減で――腐敗した王国を焼き尽くす断罪のフルコース

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第20話:黄金のハーブティーと、騎士団長の忠誠

「……そこまでだ、呪われた皇帝。その気高き令嬢を、貴様のような魔物に汚させるわけにはいかない」


 白銀の鎧を月光に反射させ、アルフレッドと名乗った聖騎士は、抜剣した『光の聖剣』をこちらへ向けました。

 その瞳には微塵の疑念もありません。自分こそが正義であり、囚われの令嬢を救い出す英雄であると、魂の底から信じ切っている――その真っ直ぐすぎる光が、今の私にはあまりにも、眩しくて不愉快でした。


「アルフレッド様、と仰いましたかしら」

 私は、ゼフィロス様の剥き出しの右手にそっと自分の手を重ね、彼の怒りを鎮めるように指を絡めました。

「救い、だなんて……。まあ、なんて身勝手な独り言ですの。おーっほっほっほ!」


「……!? エリアナ嬢、何を笑うのです。君はあの男の魔力に当てられ、正常な判断ができなくなっているだけだ。さあ、その怪物の手を放しなさい!」


「怪物……?」

 私の隣で、ゼフィロス様の喉の奥から、地鳴りのような低い笑い声が漏れました。

「聞こえたか、エリアナ。これが外の世界の『正義』だ。私を殺し、お前を奪い、それを『救済』と呼ぶのだ」


 ゼフィロス様の右手が赤黒く拍動し、バルコニーの石床がみしり、と凍りつきました。

 殺気が膨れ上がるその瞬間、私は一歩前に出ました。


「お待ちなさい、陛下。……このような『乾いた』お客様に、陛下の貴重な魔力を使うまでもございませんわ。……セリーナさん、準備を」


 影から音もなく現れたセリーナさんが、すでに用意していた銀のトレイを差し出しました。

 その上に乗っているのは、琥珀色に輝く一杯のハーブティー。

 私が今朝、帝国の薬草園で『祝福』を込めながら摘み取った、太陽の香りがする雫。


「……お茶? この状況で、何を……」

 困惑するアルフレッド様。私は優雅な動作で、そのカップを彼の方へと滑らせました。


「アルフレッド様。貴方は世界を救うために、一ヶ月もまともに眠っていないのではありませんか? 貴方のその『光』は、ご自身の命を削って無理やり燃やしている、焦げ付いた灯火ですわ」


「なっ……」


「一口、召し上がれ。……貴方のその薄っぺらな正義が、どれほど『飢えている』か、教えて差し上げますわ」


 アルフレッド様は、私の気圧されるような視線に抗えず、呪われたようにカップを手に取りました。

 そして、一口。


 ――その瞬間。


 白銀の鎧が、ガタガタと音を立てて震え始めました。

 彼の目から、堰を切ったように涙が溢れ出しました。


「……温か、い……。なぜだ、喉が焼けるように痛んでいたのに、このお茶が通るだけで……心が、解けていく……」


「貴方が救おうとしているのは、私ではなく、自分自身の『功名心』ではありませんの? ……陛下を怪物と呼び、私を悲劇のヒロインに仕立て上げることで、貴方は自分の空虚な心を埋めようとしている。……そんな乾いた魂で、誰を救えるというのです?」


 アルフレッド様は膝を突き、剣を杖代わりにして、無様に頭を垂れました。

 聖騎士の輝きが、みるみるうちに萎んでいく。

 料理人としての私の瞳は、彼の「極限の栄養失調」を見抜いていました。正義という名の重圧に押し潰され、味も温度も忘れていた哀れな男。


「……私の陛下は、怪物などではありません。……私を雪山から拾い、誰よりも温かく抱きしめてくださった、世界で唯一の、私の理解者ですわ」


 私は、バルコニーの下に集まっていた帝国の騎士たちを見下ろしました。

 彼らは、主君を辱められたことに憤りながらも、私の言葉を、固唾を呑んで見守っていました。


「騎士の皆様! 聞きましたか? この方は、貴方たちが命を懸けて守るこの国を、貴方たちの誇りである陛下を、怪物と呼びましたのよ!」


 私の凛とした声に、騎士団長ハンスが、そして数百の騎士たちが、一斉に抜剣し、跪きました。


「――エリアナ様。……我ら帝国の騎士、陛下の名誉、そして貴女の『食卓』を守るため、この命、捧げる覚悟にございます!」


「よく言ったわ! おーっほっほっほ! さあ、この『迷子』の聖騎士様を、客室へお連れしなさい。……たっぷり三日三晩、私の特製重粥おもゆで、その凝り固まった脳みそを解して差し上げますわ!」


 圧倒的なカリスマの勝利。

 ゼフィロス様が、私の腰に再び手を回し、満足げに目を細めました。

「……恐ろしい女だ、エリアナ。力ではなく、優しさという名の毒で聖騎士を無力化するとは」


「毒だなんて心外ですわ、陛下。……あ、でも、陛下。あの方の鎧、後で溶かして新しい『大鍋』の材料にしてもよろしいかしら?」


「クク……好きにするがいい」


 平穏が戻るかと思われた、その時。

 帝都の遥か南――市場の方角から、夜空を真っ赤に染めるほどの爆炎が上がりました。


「……なっ、何事ですの!?」


 セリーナさんが、顔色を変えて報告に飛び込んできました。

「陛下、エリアナ様! 王国の放った間者たちが、帝都の穀物庫に火を放ちました! ……それだけではありません。避難する民衆の中に、味覚を狂わせ、理性を奪う『腐敗の瘴気』が撒かれています!!」


「ジュリアン……っ。どこまで卑劣な真似を!」


 聖騎士との対話で生まれたわずかな隙を、王国は逃しませんでした。

 かつての婚約者が仕掛けた、民を人質に取った最悪の『毒』。

 エリアナの木ベラが、今度は一国すべての民を救うために振るわれる時が来たのでした。

最後まで読んでくださって、ありがとうございますわ!


「お茶一杯で聖騎士を泣かせる」エリアナ様、最高にクールですわね!

おーっほっほっほ! 正義だなんだと騒ぐ前に、まずは温かいものを飲んで落ち着きなさい、という余裕。

これこそが「帝国の女帝」の器ですわ。


でも、ジュリアン殿下。

聖騎士を囮にして、罪のない民衆を狙うなんて……。

「味覚を狂わせる瘴気」ですって? それ、料理人にとって一番許せない禁忌ですわよ!


次回、第21話。

「王国の密偵が見た、地上の楽園と絶望の対比」。

瘴気に侵された民を救うため、エリアナ様が帝都の広場で「巨大な魔法の鍋」を振るいますわよ!


続きが気になる!と思ってくださったら、ぜひ【ブックマーク】と【評価(★★★★★)】で、帝国の民に加護を授けてくださいませね!

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