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私の料理を泥と捨てた王国、飢え死に寸前で戻れと言われても遅いです ~帝国の料理番になった私は、冷徹な皇帝陛下に胃袋を掴めと命じられました~  作者: 花菱 結愛
第2章:復讐は黄金の焼き加減で――腐敗した王国を焼き尽くす断罪のフルコース

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第16話:隣国の王子は、パン一切れのために国宝を差し出す

「――陛下。此度は我がソル国に伝わる至宝を携え、親善の意を伝えに参りました」


 帝国の謁見の間。

 黄金の装飾が施された高い天井の下で、一人の男が不敵な笑みを浮かべて立っていました。

 隣国のソル国。太陽に愛された大地と謳われる強国からやってきた、第一王子レオン様。

 彼はその燃えるような金髪をなびかせ、傍らに立つ私を、まるで値踏みするような無遠慮な視線で眺めています。


「……そいつが、王国から逃げ出し、陛下の毒見役に収まったという例の『祝福の令嬢』ですか。ふむ、確かに美しくはありますが……」


 レオン様は一歩踏み出し、私の顎を指先で持ち上げようとしました。

 その瞬間、謁見の間の温度が、劇的に、殺意を孕んで氷点下へと叩き落とされました。


 パキパキ、と床が凍りつく音。

 私の隣に座るゼフィロス様が、音もなく立ち上がりました。


「……その指を落とされたいか。王国の不届き者め」


 地獄の底から響くような、重厚な声。

 ゼフィロス様の右手。包帯の隙間から漏れ出す青白い魔力が、レオン様の喉元を狙う刃のように鋭く研ぎ澄まされています。


「おっと……これは失礼。噂以上の独占欲だ。……だが陛下、帝国の食卓だけが『本物』であることに、大陸中の国々が不満を抱いておりますぞ」


 レオン様は平然と手を引きましたが、その瞳には焦燥の色が滲んでいました。

 私は、彼の全身から漂う「不快な臭い」に気づいていました。

 それは、第1話でジュリアン様たちが纏っていたものと同じ――魂の飢餓がもたらす、腐った魔力の臭い。


(この方も……もう、限界なのですわね。世界の理が壊れ、味が消えていく恐怖に)


「レオン様。……親善の儀は結構ですが、貴方、ひどくお疲れのようですわ」

 私が静かに告げると、レオン様の眉がピクリと動きました。


「……何だと?」


「お顔色がすぐれませんわ。……今朝、何をお召し上がりになりました? 干からびた肉、それとも、砂を噛むようなパンかしら?」


「貴様……っ!」


 レオン様が逆上して声を荒らげようとした、その時。

 私はセリーナさんに合図をし、用意させていた「一皿」を運ばせました。

 銀の皿の上に乗っているのは、なんの飾り気もない、一切れの黒パン。

 けれど、そのパンからは――目に見えるほどの黄金の『祝福』の光が、ゆらゆらとオーロラのように立ち上っていました。


「お近づきの印に、どうぞ。……私の『祝福』を込めた、ただのパンですわ。お口に合うかは分かりませんけれど」


「ふん……。我が国にも一流のパン職人はいる。このような無骨な――」


 レオン様は鼻で笑いながら、パンを千切り、口に運びました。


 ――次の瞬間。


 レオン様の手が、ガタガタと震え始めました。

 彼の瞳から、大粒の涙が溢れ出しました。


「…………ぁ、……ああああ……っ!!」


 彼はパンを口に含んだまま、その場に崩れ落ちました。

 美味しいから。……いいえ、それだけでは足りません。

 数ヶ月間、何を口にしても砂の味しかしなかった彼の絶望の底に、エリアナの『命の輝き』が直接流し込まれたのです。


「味が……する! 麦の、香ばしさが……大地の、力強い息吹が! ああ……、私は……私は今まで、死んだ世界にいたのか……っ!!」


 レオン様は、床に落ちたパンの欠片すらも貪るように拾い上げ、恥も外聞もなく泣き叫びました。

 かつての傲慢な第一王子の姿は、そこにはありません。

 ただ、たった一口の「真実の味」に救われた、哀れな迷い子がいるだけです。


「レオン様。……私のパンは、帝国に忠誠を誓う者にしか、その輝きを保ちませんの。……次は、何を差し出してくださるかしら?」


 私は扇を広げ、跪く王子を見下ろして微笑みました。

 

 レオン様は、震える手で自らの腰に差していた、ソル国の象徴である『太陽の聖剣』を抜き放ちました。

 それはかつて、帝国ですら手に入れることができなかった、大陸に数本しかない神代の遺物。


「……これだ。これを、我が国の魂であるこの剣を捧げる……! だから、頼む! エリアナ様……。もう一度……、もう一度だけ、あのパンを……私に、我が民に与えてくれ!!」


 謁見の間が、帝国の貴族たちのどよめきに包まれました。

 パン一切れで、一国の宝が差し出された。

 エリアナの価値が、今、武力や権力を超え、世界の『生存権』を握るものへと変貌した瞬間でした。


「……フン。国宝一本で、私のエリアナのパンを求めるとは。……安く見積もられたものだな」


 ゼフィロス様が冷酷に言い放ちながら、私の腰を抱き寄せました。

 彼の瞳には、屈服した王子への嘲笑と、そして「誰にも渡さない」という、さらに苛烈になった独占欲が渦巻いています。


「おーっほっほっほ! 陛下、そんなに意地悪を仰らないで。……レオン様、その聖剣。……我が帝国の厨房で、お肉を切るための『ナイフ』として使わせていただきますわね?」


「……っ、ああ……ありがたき、幸せ……っ!」


 国宝を肉切り包丁代わりにされるという最大の侮辱。

 けれどレオン様は、ただ至福に満ちた顔で、私の靴の先に額を擦り付けるのでした。


 その頃、没落の途にある王国では。

 この「奇跡」の報せを聞いたジュリアン様が、自分の喉を掻きむしりながら、絶叫していました。

「パンだと……!? 私の、私のエリアナが……他国の王子に、パンを与えたというのか!? 許さん……許さんぞ!! 奪い返せ! 何をしてでも、あの女を鎖で繋いで連れ戻せ!!」


 狂気に駆られた王国の、最後の悪あがき。

 けれど、エリアナのパン一切れの価値に気づいた列強諸国が、今、帝国を囲むように集結し始めていたのでした。

最後まで読んでくださって、ありがとうございますわ!


第2章、開幕早々「パン一切れで国宝ゲット」!

おーっほっほっほ! これぞわたくしたちが待ち望んだ、圧倒的な価値の逆転劇ですわ!

レオン王子、不遜な態度だったのに、一口食べた瞬間に「靴にキス」なんて……。

エリアナの祝福は、もはやお腹を満たすだけでなく、人の誇りまで書き換えてしまうようですわね。


でも、陛下。聖剣を「肉切り包丁」にさせるなんて、相変わらず過保護で素敵ですわ。

さて、次回は「帝国だけが潤うのは不公平だ」と、さらに多くの国々が押し寄せてまいります。

エリアナの木ベラが、今度はどんな奇跡を(そしてどんな絶望を)振り撒くのか。


続きが気になる!と思ってくださったら、ぜひ【ブックマーク】と【評価(★★★★★)】で、エリアナの新しい厨房を応援してくださいませね!

あなたの星が、彼女の焼くパンにさらなる輝きを宿すのですから!

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