表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の料理を泥と捨てた王国、飢え死に寸前で戻れと言われても遅いです ~帝国の料理番になった私は、冷徹な皇帝陛下に胃袋を掴めと命じられました~  作者: 花菱 結愛
第1章:泥を啜らされた令嬢、極寒の帝国で至高のスープを振る舞う

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/35

第12話:王太子が仕掛けた『毒』の結末

「……そのお塩、新しいものに取り替えたばかりなのですが。……何か、お気に召さないことでも?」


 男の薄ら笑いが、厨房の低い天井に反響します。

 彼の瞳は爬虫類のように冷たく、その手は無意識に、調理台に置かれた重厚な肉切り包丁へと伸びていました。

 私は、銀の匙に乗った白い結晶――『呪いの塩』を見つめたまま、静かに息を整えました。


(……この男の背後から、あの腐った沼のような臭いがしますわ。ジュリアン様、あの方と同じ……卑劣な欲の臭いが)


「ええ。とても素晴らしいお塩ですわね。……ただ、少しだけ『不純物』が混ざっていますわ。……これを陛下に差し上げるわけにはまいりません」


「……何だと?」


 男の顔から笑みが消え、どす黒い殺気が溢れ出しました。

 彼は一歩踏み出し、私の喉元に包丁の先端を向けました。


「大人しくそれを使えば、楽に死ねたものを。……エリアナ・フォン・ヴェスタ。王太子殿下の命だ。帝国もろとも、その無能な命を散らして――」


「お黙りなさい」


 私が凛とした声で遮ると、男の動きが凍りつきました。

 私は腰に下げた古びた木ベラを抜き放ち、それを呪いの塩が乗った匙の上に、静かに、優雅に重ねました。


「無能、無能と……どなたもこなたも、同じ言葉ばかり。……私の木ベラが、そんな言葉をどれほど嫌っているか、教えて差し上げますわ!」


 私が木ベラに『祝福』を込めると、煤けたはずの木肌から、まばゆいばかりの黄金の光が溢れ出しました。

 パチ、パチパチッ!

 空気中で火花が散り、匙に乗っていた呪いの結晶が、苦しげにのたうち回り始めました。ドロリとした黒い霧が噴き出し、男の顔を汚していきます。


「なっ……何だ、その光は!? ただの木ベラではないのか!?」


「いいえ。これは私の誇り、そして陛下が認めてくださった『私の価値』そのものですわ!」


 一気に魔力を流し込むと、黄金の光が黒い霧を完全に飲み込み、焼き尽くしました。

 後に残ったのは、先ほどまでとは見違えるほど透き通った、星屑のように瞬く『祝福の塩』。

 呪いを「浄化」するだけではない。私の力は、悪意を糧にして、より高位の恵みへと「変換」させてしまったのです。


「馬鹿な……。あの呪いは、大陸最強の魔術師が作った、解呪不能の死の結晶だぞ……っ! それを、そんな棒切れ一本で……!?」


 腰を抜かし、尻餅をついた工作員を見下ろして、私は最高に優雅な笑みを浮かべました。


「おーっほっほっほ! 棒切れ、ですって? 残念ですわね。……この一本が、あなたのあるじが抱いた浅ましい野望ごと、今、すべてを灰にいたしましたのよ?」


 その時。

 厨房の扉が、凄まじい衝撃と共に吹き飛びました。


「――エリアナ!!」


 地響きのような声。

 現れたのは、漆黒の外套をなびかせ、魔力の嵐を纏ったゼフィロス様でした。

 彼の背後には、蒼白な顔をしたセリーナさんと、抜剣した騎士たちが控えています。


「陛下……っ」


 ゼフィロス様は一瞬で私の元へ駆け寄ると、工作員の存在など無視して、私の肩を抱き寄せ、全身を調べるように見つめました。


「……怪我はないか。……どこか、痛むところはないか!?」


「はい。……この木ベラが、守ってくれましたわ」


 私の答えを聞くと、ゼフィロス様は安堵のため息を漏らし、そのまま私を押し潰さんばかりの力で抱きしめました。

 そして、彼の視線が、床に転がっている工作員へと向けられました。

 その瞳に宿ったのは、この世の終わりのような、冷酷で無慈悲な輝き。


「……我が心臓を、汚そうとしたゴミがこれか」


「ひ、ひっ……陛下、私は……私はただ命じられただけで……っ」


 ゼフィロス様が右手をかざすと、工作員の足元から氷の棘が噴き出し、瞬く間に彼の四肢を拘束しました。

 陛下の包帯を巻いた右手から、どす黒い光が漏れ出しています。……怒りで、呪いが暴走しかけている。


「セリーナ。この男を地下の最奥へ連れて行け。……殺すな。王国の息がかかった毒が、どのような味か……自分自身で死ぬまで味わわせるのだ」


「御意、陛下。……お嬢様。お守りできず、申し訳ございませんでした」


 セリーナさんが深く頭を下げ、工作員を引きずり出していきます。

 静寂が戻った厨房で、ゼフィロス様は私の手を握り、その指先に何度も口づけを落としました。


「エリアナ……。私は決めた。……あの国を生かしておく必要はない」


 彼の声は、これまでにないほど低く、決意に満ちていました。


「明後日の夜。王国の使者を招いた、最後の晩餐会を開く。……そこで、世界に知らしめよう。……お前を捨て、お前に牙を剥いた罪が、いかに重いかをな」


「陛下……。では、私も準備をいたしますわ。……最高に『苦い』お別れの会を」


 私は、浄化されたばかりの星屑の塩を、そっと小瓶に詰めました。

 これをあの方たちに、食べさせてあげましょう。

 私の祝福を裏切った者にだけ、牙を剥く「真実の味」を。


 その頃、王国の王宮では。

 「計画は成功した」という偽りの予感に酔いしれたジュリアン様が、毒を吐き散らす料理を前にして、狂気の笑みを浮かべていました。


「クハハ……! そろそろ、エリアナが魔女として引きずり出される頃だ……。さあ、あの女の絶望を肴に、最高の酒を飲むとしようじゃないか、フィオナ!」


 彼らがその「酒」が、一滴残らず毒に変わっていることに気づくのは、もう、数時間後のことでした。

最後まで読んでくださって、本当にありがとうございますわ!


おーっほっほっほ! 呪いの塩を「星屑の塩」に変えてしまうなんて、エリアナの祝福はもう神の領域ですわね!

工作員が腰を抜かすシーン、わたくしも書いていて扇子が止まりませんでしたわ。

そして陛下……「我が心臓」を汚そうとした者への怒り、なんと苛烈で、なんと愛おしいことかしら!


王国側のジュリアン殿下、まだ自分が勝ったつもりでいらっしゃるなんて、本当にお可哀想。

次回からは、第1章の最終セット【第5部:クライマックス】へ突入いたしますわ!

王国の使者を招いた、運命の「最終晩餐会」。

そこでエリアナが振るう、最後の一皿とは……?


続きが気になる!と思ってくださったら、ぜひ【ブックマーク】と【評価(★★★★★)】で、エリアナの勝利に花を添えてくださいませね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ