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21輪目 壊された平穏

きゃあぁぁぁ——

「悲鳴!?」

さっきまで陽気だったセファルは、悲鳴を聞くや否や、瞬時に窓に駆け寄った。

私とハナもそれに続き、大きな窓から外を眺める。

「魔物……!?」

「どうしてアルタイアにっ!?今までそんなことなかったのに……」

ハナは恐怖をあらわにし、セファルは取り乱している。

「……スタンピード」

口から言葉が漏れるのと同時に、私の体は動き出していた。百数年に一度起こる、大量の魔物が人里に押し寄せてくる大災害。私でも一度しか経験したことがないそれが、よりにもよってこの町で起こってしまった。ここに入る前に感じた違和感は、気のせいじゃなかったのだ。

「ヨミノちゃん!?待って、どこ行くの!?」

セファルが顔を青くして、私を引き留めた。

「……危ないから、二人はここにいて」

振り返ることなくそう告げ、私は窓から飛び降りた——


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あたしは何が起こったのかすら分からず、一瞬固まっていた。そしてようやく、あの幼い少女——ヨミノちゃんが窓から飛び降りたことを理解した。

「えっ、ちょっ!?嘘でしょ!?ここ三階だよ!?」

「落ち着いてくださいっ!ヨミノさんなら大丈夫です!!」

「そんなわけないって!あたし、外の様子見てくる!ハナちゃん、シロちゃんをお願い!」

「あっ!セファルさんっ!」

今は一刻を争う事態だ。ヨミノちゃんを探さないと、あの子がいつ死んでしまうかわからない。ハナちゃんには悪いけど、行かせてもらうよ。そうしてヨミノちゃんの後を追うように、私は窓から屋根に飛び移り、上から町を見下ろした。

「嘘でしょ……」

変わり果てたアルタイアの姿を見て、絶句した。逃げ惑う見知った人たち、そこに押し寄せる大量の魔物——ふと、ヨミノちゃんがさっき呟いた言葉が、頭の中で反芻した。

“スタンピード”

もしそれが本当なら、この町は——アルタイアは、崩壊する。

「って、違う!弱気になるな、あたし!」

恐怖で引き攣っていた自分の頬を、思いっきり両手で叩いた。バチンッ、という音と共に、顔に痛みが広がる。よし、冷静になってきた。まずあたしがやるべきなのは、ヨミノちゃんを探すこと。まだそう遠くには行ってないだろうし、すぐに見つかるはず。急いで見渡すと、見慣れた白い髪が目に入った。

「いた……!」

安心したのも束の間、ヨミノちゃんの後ろに、何匹もの魔物が迫っていた。

「っ……!?ヨミノちゃんっ!!」

あたしは考えるよりも先に走り出していた。必死に呼びかけるが、ヨミノちゃんは振り返らない。そして無情にも、魔物はヨミノちゃんへ向かって飛びかかる寸前だった。ダメだ、間に合わない。どうして、いい人から死んでいくの……?そう、絶望した時だった。

魔物の体が、真っ二つになった。

「はっ……?」

目を疑ったけれど、見間違いじゃない。その後から迫ってくる魔物も、全て斬られていく。そしてその筆頭にいるのは——他でもない、ヨミノちゃんだった。その真っ白な少女は、魔物の返り血で赤く染まっている。それはまるで、人じゃない何かを見ている様だった。でも、なんでだろう。その姿を見て、あたしは怖いとは思わなかった。むしろ、ヨミノちゃんの瞳には寂しさが宿っている気がした。あたしの思い過ごしかもしれない。だけど、そんなどこか儚くて美しい光景に、あたしは気づかないうちに魅入ってしまっていた。


どこかからの悲鳴で、あたしは我に返った。この馬鹿、今は一秒を争うってのに!ヨミノちゃんは、相変わらず魔物を倒し続けている。まだあたしの頭の中はごちゃごちゃだったけど、ヨミノちゃんを助けるという目的は、頭からすっかり消えて別のものへと変わった。多分、このまま行ってもヨミノちゃんの足手纏いになるだけ。武器を取りに戻ってから加勢したほうがいい。そう悟ったあたしは、すぐさま道を引き返した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……キリがないな」

魔物を斬りながら、考える。前にスタンピードを経験した時よりも、私は相当成長している。とはいえ、数が多すぎる。私一人では対処しきれないだろう。仕方ない、この際数人の犠牲は避けられない。あとはどれだけ犠牲を減らせるかだ。戦える人が他にもいればいいのだが、どうだろうか。そんな時、ふと後ろに気配を感じた。瞬時に振り返って魔物を捉え、短剣を振るう寸前——

一本の矢が、魔物を貫いた。魔物の可能性も捨てきれなかったため、矢が放たれたであろう場所へと、視線を向ける。そして私の目に映ったのは、意外な人物だった。

「……セファル?」

「ヨミノちゃん!ごめん、遅くなった!」

家で待っていろと言ったはずだが、出てきたのか。それにしても……彼女が弓を扱えるとは。そもそも戦えるなんて思っていなかった。戦力が増えるに越したことはないし、私にとっては良い誤算だった。

「……私は一人で十分だから、戦えるなら他の場所に行って」

駆け寄ってくるセファルに、私の旨を伝える。ここでまとまるよりも、分散して戦った方が効率がいい。

「わかった、ほんとに一人で平気なんだよね!?」

こくんと軽く頷くと、彼女は小さくため息を吐いて、いつものように笑みを浮かべた。

「おっけー、信じる!でも、一個だけ約束して。ぜっったいに死なないで!」

その思ってもみなかった言葉に、私は少し驚く。そして、蔑みを含んだ声で、こう言った。

「……大丈夫……”絶対死なないから”」


セファルと別れてからすぐ、私は屋根の上へ飛んだ。そこから見渡すと、ひどく凄惨な状況だった。アルタイアは三方向を山に囲われており、魔物がそこから降りてきている。人々はそれを理解しているようで、唯一山に囲まれていない方へ集まっている。しかし出入り口である門が壊れているのか、誰も外に出れていない状態であることが見てとれた。そこへ向かおうとも思ったが、町の戦力が総出で戦っていたため、なんとか持ち堪えられそうだ。そう判断し、すぐさま別の場所へと視線を移す。私が目を向けたのは、町の奥。前に花火を見た、開けている場所だ。そこには、何体もの大型の魔物がいた。どれも私が一人で倒すには手こずる程度の、厄介な魔物。そんな奴らが、一定の方向へと向かっていた。そう——町でただ一つしかない、門の方向へと。

「……あそこに行かせたら……まずいな」

さっきあの場所にいた人々は、小型の魔物だけでも手一杯に見えた。そんな場所に、大型が何体も乱入してしまえば、被害は尋常じゃないものとなる。それにその道中には、一人で戦っているセファルもいる。面倒だが、やるしかない。そして私は屋根から飛び降り、魔物共の前に立ち塞がる。

「……ここは、通さない」

我ながら、随分とお人好しになったと思う。こんなに効率の悪いこと、私は絶対にしなかった。これがいい変化なのか、悪い変化なのかは、私にはわからない。けれど、少しだけ思ったことがある。この呪われた命を誰かのために使えるのなら……それは、私にとってこの上ない祝福なのかもしれない、と。そんな空虚な妄想を抱きながら、剣を振るう。魔物の返り血で染まりきったこの服は、まるで舞踏会で着るドレスのように思えた。たった一人しかいないこの舞台で、私は剣舞を舞う。勝てる見込みなんてない、馬鹿馬鹿しい戦い。どれだけ斬っても終わりなど見えない。

「かはっ……」

——どれだけ経っただろうか。目の前に血が飛び散り、視界がぼやける。ここまで立て続けに攻撃をくらえば、当然再生が追いつかなくなる。ここまでか。結構な時間は稼いだはずだ、町の人たちが逃げれているといいけれど。骨が軋み、内側から潰れる感覚が広がる。久しく感じていなかったこの感覚は、己に不死という現実を突きつけてくれる。そして、倒れたまま動けない私に向かって、一匹の魔物が手を振り上げたのが見えた。刹那、ある人物の顔が頭に浮かんだ。


ハナ——


彼女は無事だろうか。他人を心配して外へ出ていないだろうか。いつもそうだ、他人を優先して、自分のことなんて気にも留めない。どんな危険も顧みず、私みたいな最低な者にすら手を差し伸べる。そんな人間と共に時間をすごしたからだろうか。今まで死ぬ方法しか考えていなかった私が、誰とも関わろうとしなかった私が——今こうして、一人の人間へと想いを巡らせている。死にたい気持ちが変わったわけじゃない。けれど、少しだけ。ほんの少しだけ。

一年という期間じゃなく、もう少し一緒にいてもいいと——そう、思ってしまった。

そうしたら、何か別のものが見えてくるかもしれない。ハナが言った通り、死にたいと思わなくなる日が来るかもしれない。彼女は、こんな我儘を受け入れてくれるだろうか。いや、彼女ならきっと、いつも通りの笑顔を浮かべて歓迎してくれるだろう。この騒動がひと段落したら、話してみよう。もう少しだけ、待っていてほしい。

そんな考えを巡らせていた私は、ある違和感を抱いた。何故か、一向に意識が途切れない。確かに私を殺そうとする一撃は見えたはずなのだが……不思議に思い、瞼を開く。

「……ん……?」

開けた視界は、ほとんどが白いもふもふとしたもので覆われていた。どういう状況か理解できないでいた私の耳には、魔物共の悲鳴と、そして——聞き覚えのある声が入ってきた。

「あ……主人……目が覚めた?」

そこには、いつもとは違う、”あの”シロがいた。

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― 新着の感想 ―
ヨミノちゃんこれもうハナちゃんこと好きってことだよね❤️セファルが思ったよりも強くて魔物と一緒に心まで射抜かれちゃった❤️最強のシロちゃんが来たからもう安心やね❤️
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