-探索再開②-
「くそっ、こいつ重過ぎる!」
倒した猪を持って帰ろうとしたが、あの犬とは違い、引きずって運ぶことすらできなかった。
仕方ない。
危険だが、ここで捌くしかなさそうだ。
周囲にモンスターの気配は感じない。だがここは森の中。
無数の木々が死角となり、よほど近づかない限り接近にも気付けない。
本来なら多少見通しの利く、あの廃屋まで運びたかった。
だが、せっかく仕留めた獲物を手放すという選択肢はない。
そこからは苦労の連続あった。
まず、捌くのに手こずった。
岩のような外皮には刃が通らず、唯一損傷していた部分から何とか切り開いた。
おかげで手元に一本しかない鎌の刃はボロボロだ。
その次に、モンスターの接敵であった。
またあの犬だ。しかも2匹。
どうやらこの種は複数で行動するのが常らしい。
群れで生活しているのかもしれない。これまでは、そのうちの“出稼ぎ部隊”だったというところか。
「またお前らか……血の匂いに釣られてきたのか?」
ふう、と一息つきながら呟いた。
「悪いが、昼食に招いた覚えはないんでな。――お前らも糧にしてやるよ!」
そこからの戦闘は拍子抜けするほどあっさり終わった。
これは相性が良かった。という一言に尽きるだろう。
犬型モンスターの強みは回避能力と遠距離攻撃である水弾。
だが、蒼空の放つ光線は、回避不能なほどの速度を持つ。
敵のほうが優れている点を挙げるとすれば、魔法の発動速度。
悔しいが今の段階では、蒼空はあの猪よりも発動が遅いだろう。
とはいえ、魔法の性質は個体ごとに差がないのだろうか。
この犬たちも例外なく水弾を使ってきた。
別の系統の魔法を使う個体がいてもおかしくないと思うが、そうした兆候は今のところ見られない。
とはいえ、警戒は怠らないに越したことはない。
猪と比較すれば、水弾の射出速度は確かに速い。
だが、放つ前に必ず“紋”が生じる。
それが分かっていれば、避けるのはそれほど難しくない。
「光線!!!!!」
最後の一匹が力なく倒れたのを確認する。
以前に比べ、戦闘の質も落ち着きも段違いだった。
「二匹程度なら問題なく倒せるな。だが群れを想定するなら、魔法の発動時間をもっと短縮しないと……」
短期間での成長を実感し、蒼空は自らの手を見つめ、ゆっくりと握りしめた。
さて、収穫としては十分だ。
あらかじめ廃屋から籠を持ってきておいて正解だった。
おそらく、もとは農作物を収穫するための道具なのだろう。
流石に丸ごと入れることはできないが、捌けば収納には問題ない。
蒼空は慎重に周囲を警戒しながら、モンスターを丁寧に捌き、再び廃屋へと戻っていった。