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-探索再開①-


あれから練習を重ね、少しずつではあるが魔法のコツを掴めてきた。

実戦は正直怖い。それでも、どこかでワクワクしている自分がいる。

やはり経験に勝るものはないのだろう。


思えば不思議なものだ。かつては何もかもにあらがうことを諦めていた人生だった。

それが今は、自分の意志で進むことにこれほどまでの高揚を感じている。


「それにしても、結構音を立ててるのに、モンスターが寄ってこないな。」


魔力の枯渇を防ぐためにある程度抑えているとはいえ、魔法の練習中はそれなりに派手な音が響いている。

それなのに寄ってくるのは、せいぜい鳥やリスのような小動物だけだった。

……まあ、来ないなら来ないで好都合だ。


「まあでも食料も心許こころもとないから、どちらにせよ狩りに行くんだけどな。」


正直安定するまでは魚や森の幸の方が良いかもしれないが、いつ強敵が出てくるのかも分からない。

だからこそ少しでも早く、少しでも強くなる方を優先したのだ。


目的地だが、とりあえずは前回戦闘した場所から真逆にした。

アレを複数体倒すような敵が近くにいるかもしれないのだ。

そんな場所にわざわざ戻る必要もないだろう。


「というか、普通転移って国に召喚されて勇者扱いされるもんじゃないのか?」


歩きながら、ふとそんなことを呟く。

あの廃屋はいおく以外に人の気配もなければ、ステータスやスキルのような"お約束"のシステムも存在しない。

色々試してみたが、反応はなかった。

どうやらこの世界には、そういった都合の良い仕組みはないらしい。


「国の魔術師に勇者として召喚されて姫から魔王討伐を依頼されて、異世界で得た強大な魔法で無双していく!ってのがセオリーだろうよ。」


そもそも何で転移したんだ。誰かが召喚したのなら転移先に召喚主がいないってのも変だ。

唯一あったのはあの無人の廃屋であり、村ですらない。


「せめてステータスが確認できれば魔力総量とか使える魔法が分かったりするんだけどな。」


数値化されてなければ、感覚でやるしかない。

ステータスという概念もなければ、転移した先にこの世界を説明してくれるキャラもいない。

とんだ鬼畜難易度だが、ないそでは振れないのだ。やるしかない。


暫く足を進めていると、いのししのようなモンスターが見えた。

まるで岩のような装甲そうこうを纏っており、防御力にでていることが伺える。


「……いたな。新しいモンスターが。」


土色の魔力もまとっているようだ。あの水弾を放った犬は水色の魔力であった。


恐らくではあるが、纏う色によって扱う魔法が変わるのだろう。

こいつは色合い的に土系統というところだろうか。

まあ土系統の魔法がどういうものか分からないのだが。


木の根元に生えた大きなキノコを食している最中のようだ。

こちらに気づいていない。今がチャンスだ。

魔力を圧縮し、指先に集中させていく。

掌に集めるよりも、全身から一気に流し込んだ方が効率が良いと分かってきた。


〈ブモォォオオ!〉


魔力を感じたのかこちらに気付いたようだ。

だが、今更いまさら気付いたところでもう遅い。


光線レイ!!!!!!!」


放たれた光線が一直線に獣へと走る。

次の瞬間、炸裂音と共に砂埃が舞い上がった。


〈ブモォォオオ!〉


直撃だ。

高威力の光線によって外皮が砕けたのか少しの破裂音も伴って周囲に砂埃すなぼこりが生じる。


これで終わりではない。

直撃したが、一発で仕留められたという手応えはない。


「やはり倒しきれなかったか、見かけ通りの防御力だな。」


だが当然無傷という訳ではない。

光線レイを受けた箇所の装甲が剥がれ、血がにじんでいるが、致命傷には至っていないようだ。


〈ブモォォオオ!〉


警戒しながら構えを整えると、いのししの地面、正確には猪の足元に”紋”が生じた。

次の瞬間、そこを起点に岩のとげが道のようにこちらへと迫ってくる。


「っ、危ねぇっ!」


反射的に横へ転がり、間一髪で回避。

やはり、土属性の魔法。水弾より遅いが、一撃で終わる危険がある。

もしかしたら複数の魔法も扱える可能性もある。これだけだと思わないようにしないとな。


水弾と違って、一撃でも当たったらその時点で終わりだ。

だが、水弾よりは遅い。

この魔法であれば、距離をとって戦っても大丈夫そうだ。

他にも魔法があるかもしれない状況で安易に距離を詰めるわけもいかない。


だからやることは決まってる。

それに既に魔力は圧縮済みだ。


光線レイ!!!!!!」


蒼空もボーっと敵を分析していた訳ではない。

いつでも次発が打てるように魔力を圧縮していたのだ。


〈ブモォォオオ!〉


再度放った光線は、狙いからやや外れたものの確実にダメージを与えたようだった。

モンスターは立ち上がろうとするが、その身体は明らかに限界を迎えている。


ゆっくりと起き上がろうとするも、ダメージで立ち上がるのもままならない状態のようだ。

蒼空は警戒しながらもゆっくりと近づき、ささやいた。


「……ごめんな。恨みはない。でも、こっちも必死なんだ。」


魔力を丁寧に圧縮する。相手を苦しませないために。


光散弾レイバースト!!!」


放たれた最後の一撃が、猪の動きを完全に止め、静寂せいじゃくが訪れる。


戦いは終わった――。

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