-魔法の習得-
目を覚ましたときには、あたりはすでに明るくなっていた。
正直、死ぬかと思った。あのまま終わるのかと――。
もう、あの肉は口にしない方がいいな……そう考えていた、そのとき。
「……あれ?傷が……治ってる!?」
昨日の戦いで負った傷を確かめる。
水弾による打撲も、爪で裂かれた傷も、どこにも見当たらない。
まるで夢でも見ていたかのように、肌はつるりと滑らかだ。
それだけじゃない。身体の奥から、力が湧き上がってくる感覚がある。
魔力を全身に巡らせてみる。
昨日よりも、遥かに多くの魔力がはっきりと感じ取れる。
「やっぱり……。あの発作みたいな現象は、魔力の順応だったのか?」
あの肉には、まだ不思議な力が宿っている。
もし、これを食べ続ければ――もっと強くなれるのかもしれない。
そのためにも、魔法を自在に扱えるようにならなければ。
「よし……やるか!」
久しぶりに感じた、確かな光明に強く気合いを込めた。
ーーまずは昨日のようにやってみる
まずは、昨日と同じように試してみる。
ゆっくりと呼吸を整え、魔力を纏うことを意識する。
白い光がふわりと体の周囲を包み始めた。
よし、順調だ。
次に、それを手のひらへと集中させていく。
漂っていた魔力が、ゆっくりと一点に集まる。
ーーこれを圧縮して
「はぁっ!!!」
〈バンッ!!〉
鋭い発光と爆ぜる音が周囲に響いた。
「……威力はあると思うんだけどなぁ。」
だが、発動までが遅すぎる。
これでは、実戦で使うには危険が伴う。
特に問題なのは射程距離だ。近距離にしか届かない。
密着した距離なら十分に通用するが、それではリスクが大きすぎる。
この特性はまさにショットガンと言っていいだろう。
ん?ショットガン……銃か。
ちょっとやってみるか。
さっきと同じように魔力を纏い、手に集中させる。
ここからが違う。
手のひらに集めた魔力を、人差し指の先へ一点集中。
さらに圧縮。もっと――もっと強く。
放ってすらいないのに、指先がまばゆい光を放つ。
「いっけぇぇぇーーーーー!!!!!」
指から放たれたそれは、まるで光線銃。
一直線の光が遠くの木に突き刺さり、その奥まで貫通した。
「……これは使えそうだ。」
だが、同じように発射までが遅すぎる。
1.魔力を身体に纏う
2.魔力を手に集中させる
3.魔力を指先に集中させる
4.魔力を圧縮させる
5.発射
これらの手順を短縮、あるいは省略する必要がある。
当然魔力量も無限ではないだろう。試行錯誤の合間に肉を食らい、回復と強化を繰り返す。
その反復だ。
その日、警戒を怠らずに魔法の練習を続けた。
そうしていると、いくつかの発見があった。
まず、魔力が枯渇すると強烈な疲労感と頭痛に襲われるということ。
これは実戦では命取りになりかねない。
次にこの肉による魔力増加は食べ続けると鈍化するということ。
最初のような暴走は起こらず、多少の熱を感じるだけ。
むしろそれでいい。こんな無防備な場所で再び気を失うなど、あってはならない。
――もしかすると、個体ごとの魔力量にもよるのかもしれない。
他の魔物を捕食すれば、その答えは見えてくるだろう。
最後に、魔法の特性。
同じ魔力量でも圧縮すれば威力と射程は増すが、その分範囲が狭まる。
逆に広範囲を狙えば魔力量を大きく消費する。
まずは、発射速度を向上させること。
次に、魔力制御の精度を磨く必要がある。
「……レイ!」
この魔法を光線と名付けた。
少し安直かもしれないが、覚えやすいのが一番だ。
ちなみにショットガンの方は光散弾と名付けている。
こちらも命名はシンプルだが、しっくりくる。
さらに、放つ瞬間の閃光を利用すれば、フラッシュバンのような応用もできそうだ。
どんな敵が現れるかも分からない。
戦いに備えて、魔法のバリエーションは増やしておくべきだ。