-探索からの帰還-
ーー疲れた。
帰り道は行きの倍以上も時間がかかった。
傷を抱えた身体で、あの獣を引きずってきたのだ。
できれば二匹とも持ち帰りたかったが、大きさと体力を考えれば一匹が限界だった。
「いてて……ふぅ。何事もなく帰ってこれたな」
本当は少し休みたかったが、日が暮れるのも時間の問題だ。
その前に、こいつを捌いておきたい。
苦労して手に入れた、久しぶりの肉。
身体を癒すためにも、まずは食事が必要だ。
そこからは捌くのにも苦戦した。
まともな調理器具もなければ、正しい捌き方すら分からない。
可食部をかなり無駄にしてしまったのは否めないが、まあいいだろう。
そもそもこのサイズだ。一度では食べきれないほどの量だ。
火を起こし、肉を焼く。
焼ける匂いが空腹を刺激する。
「いい匂いだ。見た目も普通……でも……」
ずっと気づいていた。
こいつらは死後も魔力を帯びていた。
切り出した肉にも、淡く魔力が見える。
「不思議なもんだな。魔力って……。というか、食べても大丈夫なのかこれ?」
近づけて匂いを嗅ぐ。
特に変わった匂いはしない。
多少腹を壊す程度なら、問題ないだろう。
一口食べてみる。
「……うーん。美味くはないな。獣臭い。」
血抜きも臭み取りもしていなかったことを思い出す。
まだ焼いていない肉は水に浸けておこう。
決して美味しくはないが、贅沢は言えない。
この状況で肉にありつけるだけでも、十分幸運だ。
「ふーっ……腹いっぱいだ。久しぶりにこんなに食べたな」
まだ肉は残っている。明日も何とかなるだろう。
ーー直近の課題は
『今回のような遭遇戦で逃げられない場合の対処』
これはさっきの魔法を習得するのが急務だな。
『周囲にどのような敵がいるのか』
情報不足は致命的だが、現状では慎重に行動するしかない。
これからどうするかも考えなければならないが、まずは自己防衛が最優先だ。
〈ドクンッ〉
突然の異変。
「がはっ……な、なんだっ!?」
心臓が――いや、全身が熱い。
呼吸が荒くなり、身体の奥から沸き立つような熱がこみ上げてくる。
なんだ。何が起きている。
「こ……これのせいかっ……!」
魔力を帯びた肉。
その摂取直後に始まったこの異常。
原因はおそらく、それだ。
体の内側から魔力が膨れ上がっていく――そんな感覚。
「あ`あ``ぁぁぁあ``あああーーーーーっ!!!!!」
苦痛に身をよじりながら、意識が遠のいていき、やがて、ゆっくりと気を失ってしまった。