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-不運な探検-

あの夜、見上げた空に浮かぶふたつの月は、心に深く焼きついたままだった。

だが朝は容赦なくやってくる。鳥のさえずりと共に、異世界での二日目が始まった。


まずはご飯を調達しないとな。

普段から運動ができていない蒼空は若干の筋肉痛を感じながらゆっくりと身体を起こした。


外にはどのような生物が生息しているのかも分からない。

昨日持ち出した鎌ではいざという時にリーチ面で不安が残る。


「これしかないか・・・仕方ない。」


鎌はあるにはあったが、あの刃渡りではリーチが短すぎる。

仮に獣に遭遇したとして、戦える気がしない。

蒼空はため息をつきながら、壁に立てかけてあった鍬を手に取った。

びてはいるが、は長く、先もそこそこ鋭く、鈍器としても使えるだろう。


まずは昨日行った川へ向かい、食料と水を確保する。

その後は川沿いに下に降りて行く予定だ。

文明というのは水の近くに出来るのは常識であるからだ。

この世界に人がいるのか分からないが、いるとしたら川の付近である可能性が高い。

地球での常識がどこまで通用するのかは分からないが、ここでジッと生涯を過ごすつもりもない。


この異世界では、危険は山ほどあるだろう。

それでも、誰にも縛られずに生きられるこの世界は、確かに自由だった。

せめてこの世界では、その自由を精一杯噛みしめたい。


昨日と同じように魚をり食事を終わらせた蒼空は気合を入れる。


〈バシッ〉


「よしっ!行くか!」


ほほを叩き、勢いよく立ち上がる。

周囲を警戒しながら足を進めた。


それから30分程度川沿いを歩いた蒼空は異変を感じた。


「なんだ。この何かが腐ったような腐臭ふしゅうは・・・・」


風に乗って、鼻をつんざくような異臭が流れ込んできた。

まるで腐った肉のような、生臭さと獣の体臭が混ざったような……そんな匂い。


森の奥から漂ってくる。思わず足がすくむ。だが引き返す理由にはならない。

蒼空は鍬を強く握りしめた。


数分も歩かないうちに、その正体が目に飛び込んできた。

風に流れて異臭が鼻をつく。


それは犬のようだった。だが、大きすぎる。そして、異常だった。

青黒く染まった毛並み。異様に発達した筋肉。頭部には猛々しい角が突き出ている。

四体。そのすべてが腹を裂かれ、内臓がえぐり取られていた。


この世界における“生存競争”がどれほど過酷なのかを、まざまざと見せつけられた気がした。


周囲の木や地面が爪で切り付けられたような跡が残っている。

死体に目を向けるとどれも腹回りがなくなっていたため、食事として狩られたことが伺えた。


腐臭からして、昨日今日のものではないのだろう。

鼻の付くツンとした腐臭で吐きそうになるが、何とか耐えることができていた。


この立派な角や鋭利な牙。

まともに食らったら命に関わるのは言うまでもない。

分かっていたことだが、ここが”異世界”であることが分からされる。


だが、問題なのはこの犬を捕食する存在が近くにいるということだ。

この爪の形跡の大きさから、これを捕食したやつのサイズが想像できる。


「くそっ!いやなご近所さんができちまったな。」


地球の常識に当てはめると基本的に生物は鼻が利く。

腐臭が漂うこの近くにまだいるということはないだろうが当然確証はない。


いつか自分がこうなる可能性もある。

もしかしたら、あの廃屋の家族もこうしたやつらにやられてしまったのだろうか。

そんなこと考えても仕方ないか。


その場を後にしようとした時だった。


〈ワオォォォーーーーーーーーーーーーン!!!!!〉


ーーー!!!!!


即座に鳴き声の方向に目を向けた。


大きな角に鋭い牙と爪。青黒色。

そう。やられていたあの犬と同じやつだった。


「ちくしょう!こいつらの生き残りか!」


数は2匹。

ただの犬であればどうということはないが、思ったよりも大きい。

死体は食われていたため、正確なサイズは分からなかったが実物は大きかった。

当然個体差はあるだろうが、それでも元の世界で見てきた犬よりはるかに大きい。

凶暴性も言うまでもない。今にでも襲い掛かってきそうである。


こんな軽装で武器もこれだ。

まともに戦えるわけがない。


「ははっ・・・本当に運がないよな俺は」


そう絶望するが、同時に怒りが込み上げてくる。

どうして毎回こんな目に合うのだ。と。

思わず声が漏れる。この世界に来て、まだ2日目。

なのに、もう命の危機だ。


湧き上がるのは、恐怖と……怒り。


「来るなら来いよ。その代わり、死ぬ気で来い。俺はまだ……終われないんだ!」

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