-新たな力⑪-
任務を終えた蒼空は、思わず深いため息をつきながら、足元を見つめた。
周囲は静かな森が広がり、木々の間を風が心地よく抜けていく。
誰もいないその場所は、蒼空にとって唯一、自由に自分と向き合える場所だった。
他の隊士たちは、任務がない日は訓練や警備に出るが、特務隊である蒼空にはその義務はない。
危険な任務に従事する特務隊では、一日に二度、朝・夕に兵舎に顔を出すだけであとは自由が許されている。
それを蒼空はありがたく感じていた。
深く息を吸い込み、周囲の音に耳を傾ける。
鳥のさえずり、木々が揺れる音、そして自身の心臓の鼓動。
蒼空は静かな森の中で、誰にも見られないように、自分だけの修行を始めた。
《解放》の習得――それが修行の目的だ。
過去、自分に憑依していた死神が使っていたその技術。
その時の記憶は鮮明に残っている。
体内を巡る魔力回路を無理やり開き、膨大な魔力が全身を駆け巡ったあの感覚。
その時、恐怖と興奮が入り混じり、何もかもが異常なほど強烈だった。
蒼空は必ずものにしたいと願うが、現実は簡単ではない。
「……あれをもう一度……」
呟きながら、蒼空は魔力を呼び起こす。
しかし、全身に魔力を駆け巡らせるだけでは疲労だけが募るばかりで、体内の魔力が思うように動いてくれない。
まるで内から溢れる魔力がただ行き場を失い、霧散していくような、そんな違和感を感じる。
「そんなに簡単に習得できるものじゃないよな……」
蒼空は苦笑しながら、気を取り直して息を吐いた。
その場で足を踏んで歩き、魔力をもう一度引き出そうと試みるが、やはりうまくいかない。
無理に引き出すだけではダメなようだ。
しかし、あの時は爆発的な魔力の増加を感じたのは確かだ。
だからこそ、無理やり引き出そうとしたが、コントロールできない魔力はこのように霧散していくだけ。
魔力制御がまだまだ甘いということなのか、それとも根本的なアプローチが違うのか。
唯一分かるのは、これじゃダメだということ。
「……先に風魔法の練習をして、気を紛らわすか」
蒼空は目を閉じて深呼吸し、気持ちを落ち着けた。
修行を始めた最初の頃のように、まずは基礎からだ。
風魔法の感覚を思い出し、その流れを体内で感じ取る。
久しぶりの発動であっても、まるで身体が覚え要るようにすんなりと制御できてる。
しかし、いくら魔力が膨大であっても使い続ければ、いつかはバテてしまう。
それは遅いか早いかだけ。
蒼空も例外なく、しばらく練習を続けるうちに、額には汗がにじみ、息が荒くなってきた。
魔力を使い続けることで、体力が消耗していくのがわかる。
鍛錬の合間に秘かに所持している魔物の肉をひとくちかじり、魔力を補充しながら、次の動きに備える。
いつの間にかその肉がどの魔物のものか、蒼空自身も忘れてしまっていたが、今はそれが問題ではない。
どんな食物であれ、自分にしかない長所を活かさなければ。
風魔法の練習を続けるうちに、ふと疑問が浮かんだ。
光魔法に加えて風魔法が使えるなら、他の系統の魔法も使えるのではないか、と。
まず、アレンの戦闘を思い出し、そこで見た水系統の魔法をイメージしてみる。
だが、意識を集中しても、水系統の魔力を引き出すことはできなかった。
それどころか、魔力が流れる感覚もない。
次に、ケインが使う土魔法を試してみるが、それもまた同じ結果だった。
蒼空は思わず息を呑み、再度集中した。
しかし、これも上手くいくことない。
そして、最後にダメもとでアリシアの火魔法をイメージしてみた。
あの燃え上がる炎、灼熱のように手のひらから立ち上がる火を思い浮かべる。
そして、少しずつ引き出すように、わずかに魔力を込めてみた。
その瞬間、蒼空の体内から赤色の魔力がほんの少しほとばしり、手のひらからかすかな温かさが伝わってきた。
蒼空はその感覚に驚き、思わず目を見開いた。
魔力の流れは微弱だったが、明確に感じ取れた。
「使える……火魔法も使えるのか」
蒼空は心の中で呟きながら、その感覚をしっかりと受け止めた。
しかし、この魔力が順当に体内を巡らない感覚に覚えがある。
以前、エルフや獣人が魔法を使った時に感じた、魔力回路が詰まったような感覚に似ている。
「そういえば……」
蒼空は心の中で気づいた。
死神が言っていた「魔力回路がいくつか塞がっている」という言葉が、今まさにこれを指していたのだろうか。
塞がれた回路、それを解放しなければ、他の魔法も自由に使えるようにはならないのではないか。
これだけはしたくなかったが……仕方ない。
蒼空は静かに心の中で死神を呼びかけた。
最初の呼びかけでは何の反応もない。
しかし、次第に彼の内面から焦りと苛立ちが湧き上がり、その気持ちを抑えるようにしてもう一度声をかけた。
「お前の願いを叶えてやったんだから、少しだけ手を貸せ」
その声には、わずかながらの怒りが含まれていた。
しばらくの沈黙の後、死神の声が蒼空の心の中で響き始めた。
「なんだ、小僧……寂しくなったのか?」
死神は皮肉交じりに言う。
蒼空はその言葉に苛立ちながらも、心を落ち着け、再度本題に入った。
「お前が言っていた魔力回路が塞がっているって言葉、もしかして、俺は火魔法も使えるのか?いや、火魔法だけじゃない。他の魔法も使えるんじゃないか?そんな気がしてならないんだ」
死神のあの嘲笑するような笑いが響き渡る。
「ああその通りだ。それだけではない。小僧はあの時から《解放》ができる領域に達していたんだが、使い手がお前じゃ、持って生まれた素材が台無しだな」
そして、死神は続けた。
「それに、小僧は俺様が《解放》をした際の副次効果として、風魔法が使えるようになっただけだ」
蒼空は驚きつつも、その言葉に納得した。
「つまり……《解放》を行えば、他の魔法も使えるようになるってことか?」
死神は少し間を置いてから、不敵に笑った。
「少し違うな。だが、感覚は同じってことだ」
その言葉に、蒼空はさらに興味を抱き、質問を続けた。
「じゃあ、どうすりゃ《解放》を使えるんだ?」
死神は嘲笑を込めて答える。
「教えてやる義理はねぇな」
蒼空はその反応にじっと耐え、今は理由を問いただす時ではないと感じた。
「お前は俺が強くなることを望んでいる……そうだよな?今はその理由は聞かない。俺は強くなれるならそれでいい。だから、教えやがれ。」
死神はその言葉に不敵な笑みを浮かべながら答える。
「……教えてもらう立場の発言じゃねーな。まあ、だが、小僧のような怖いもの知らずは嫌いではない」




