-新たな力⑧-
雪のような冷気が戦場を支配していた。
セリスの手から放たれた二丁拳銃《雪華》は、彼女の膨大な魔力が形を成したものであり、その圧倒的な力は周囲を極寒の地へと変貌させた。
空気が一瞬で変わり、強風とともに吹雪が舞い、地面は霜で覆われ、まるで雪山の中にいるかのような錯覚に陥る。
目にするもの全てが凍りつき、風景そのものが瞬く間に白く染まる。
それはまるで大規模な魔法が発動したかのようで、周囲の空気が張り詰め、息を吸うのさえ億劫に感じる。
雪華から放たれるその魔力の圧倒的な力は、ただの武器としてではなく、まるで自然そのものを支配するような存在感を放っていた。
《雪華》の銃身は、全てが美しく、白く輝いていた。
そして、それは氷で作られた彫刻のようなにも思える。
しかし、その美しさと裏腹に、そこから放たれる魔力は凄まじく、近づく者がいれば、その膨大な魔力に圧倒され、意識を保つことすら難しいだろう。
セリスは《雪華》をしっかりと握りしめ、上位悪魔を見据える。
彼女の目には、冷徹な決意とともに、少しの余裕が感じられる。
彼女が発した言葉は、戦況をさらに一歩進めるための宣告だった。
「さあ、ここからは本気で相手してあげる」
上位悪魔は薄く笑った。
その笑みは、セリスにとっては初めて見る悪魔の感情だった。
「ほう……人間にも強い奴がいるのだな」
その声が耳に届くと、セリスは一瞬だけ心を動かされる。
こんな悪魔でも、人間に対して何か感じるのだろうか。
だが、すぐにその気持ちを押し込め、冷静に返す。
「へぇ……悪魔も会話できるのね」
セリスの冷たく響く声に、上位悪魔は小さく嘲笑するように言葉を続ける。
「先程までは会話するに値しない雑魚だと思っていただけだよ」
その言葉に、セリスはその場でぴたりと立ち止まる。
額に青筋が立つのを感じながら、怒りの色を滲ませつつも、その表情を保つ。
「あっそ。で?お前はなぜこんなところにいるの?」
上位悪魔は、少し考える素振りを見せた後、何とも言い難い表情を浮かべながら言った。
「さあてね。それより、あのガキは何だ?本当に人間か?」
その言葉に、セリスは一瞬困惑した。
誰のことを言っているのか、まったく分からない。
それでも、焦らずに言葉を返す。
「……誰のことよ?」
上位悪魔は、まるでセリスが聞いていないかのように、思考を巡らせながら呟く。
その様子にセリスは苛立ちを覚え、軽く息を吐きながら《雪華》を構え、引き金を引いた。
弾丸ではなく、魔力で形成された一筋の白い光が放たれる。
それはまるで蒼空が使う《光線》に近いもので、速さと精密さを持った光の軌跡が上位悪魔の羽を貫いた。
上位悪魔はその一撃に顔を歪めていた。
「くっ!小娘だと油断していた。」
「あっそ」
セリスは一言だけ返すと、立て続けに《雪華》から次々と光線を放ち、上位悪魔を追い詰めていった。
しかし、光線そのものは、《雪華》の本来の能力ではない。
上位悪魔は異変に気づき、周囲を見渡した。
その瞬間、彼の体に何かが触れる感覚がする。
それは雪の結晶。
まるで花が咲いたかのように、周囲に浮かぶ雪の結晶が次々と上位悪魔の皮膚に付着していく。
「なんだ……これは?」
上位悪魔は戸惑いながらその感覚に気づくが、すでに遅かった。
雪の結晶が上位悪魔の皮膚に触れた瞬間、その場所から凍りつき、急速に広がっていく。
自然耐性の高い悪魔であっても、この凍結には抗えなかった。
凍りつく感覚は、まるで心臓が止まるかのように鋭く、冷徹な感覚をもたらした。
そして次第に上位悪魔を完全に凍結したのだった。
「……意外と呆気ないわね。」
セリスは冷たく呟き、背を向けながら歩き始めた。
その瞬間、上位悪魔の体が完全に凍りつき、氷の塊となる。
その音が、重く響き渡った。
上位悪魔の動きは完全に止まり、無慈悲な冷気が包み込む。
セリスは一度肩をすくめ、軽く息を吐いた。
彼女は無表情のままで、背を向ける。
そして、すぐにその凍りついた塊が砕ける音が響き渡り、氷の破片が飛び散った。
「……雑魚はどっちって話よね」