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-新たな力④-

【王都・西側街道──午前】


澄んだ朝の空気の中、特務隊の一行は整列し、街道を抜けるように歩みを進めていた。

空には薄い雲がかかり、陽光が柔らかく石畳を照らしている。

隊を先導するアレンの足取りは軽く、後ろに続く蒼空、アリシア、ミラ、ケインの顔にも適度な緊張と覚悟が見える。


「もうすぐ合流地点のはずだよ」


アレンが振り返って告げる。

しばらく歩いた先、視界の先に数人の兵士が見えた。

地面に座り込んでいる者、武器を手に警戒を続ける者、そしてその中央に立つ、一際目を引く存在。


――セリス・アマランス。


金髪で軽装ながらも肌を大胆に露出させた服装。

ぱっと見は派手な今どきの若い女に見える。

だが、彼女の周囲に漂う魔力の密度と圧力は明らかに常軌を逸していた。


その場にいた兵士たちは全員が疲労の色を隠せず、一部には負傷した者の姿も見えた。

アレンが小走りでセリスの元へと駆け寄り、右拳を胸に当てて敬礼する。


「第四部隊魔災特務隊、任務支援により駆け付けました!」


セリスは彼を一瞥し、わずかにため息をつく。

どこか苛立ちを抑えるように、手の甲で汗を拭った。


「ええ、ご苦労様。でも……申し訳ないのだけれど、あんたたちが出る幕はないわ」


その冷たい口調に、アリシアが思わず言葉を漏らす。


「あの……それは、どういう意味でしょうか?」


セリスは忌々しげに口元を歪めた。


「相手は恐らく、《上位悪魔グレーターデーモン》よ。だから半端な戦力なんて、いても邪魔になるだけ」


その言葉に、蒼空は眉をひそめる。


――上位悪魔グレーターデーモン

――悪魔の階級だろうか。


聞き覚えのない語に、内心で引っかかりを覚える。


ミラが目を丸くして言葉を重ねた。


「……上位悪魔グレーターデーモン?本当に実在するのですか!?……それに、魔力解析ではA級と聞いていましたけれど?」


「残念ながら、事実よ」


セリスは眉をひそめ、地面を見つめる。


「複数の魔法系統を同時に行使し、なおかつ一撃の威力も規格外。あの力は……異常としか言いようがないわ」


蒼空は内心で微かに反応する。

自分もまた、複数の魔法を使える身だ。

言葉にできない、胸を刺すような感覚がよぎった。


アレンが静かに問いかけた。


「……他の三番隊の方々は?」


セリスは目を伏せ、静かに答える。


「私が守れたのはこれだけよ。あとは……みんな、やられたわ。……せめて、隊長がいてくれれば……!」


唇を噛みしめ、視線を逸らすセリスの瞳には、怒りと悔しさが滲んでいた。


「応援要請をした方が良いのでは……?」


アリシアが不安げに口を開いた。

だがセリスは、怒気を含んだ声で応じた。


「そんな時間、あると思う?これ以上待ってたら、また誰かが死ぬ。私がやるしかないのよ」


その強い意志に、蒼空は彼女を見る目を変える。

派手な見た目とは裏腹に、その内面に宿る覚悟は本物だった。


その瞬間、セリスから放たれる魔力が膨れ上がった。

地を震わせるような圧力が辺りを包み、兵士たちはその場にへたり込む。

呼吸すらままならないような重圧の中で、蒼空は平然と立っていた。


「アマランス副隊長。……私も連れて行ってください」


その静かな言葉に、セリスの視線が鋭く蒼空を捉える。

冷静になり、自らの魔力の放出量を感じ取ったセリスは、思わず目を細めた。


――……この魔力の中で、平然としている?


「貴方……見ない顔ね」


蒼空は拳を胸に当てて礼を取り、名乗る。


「第四部隊魔災特務隊所属、ソラ・ルーンライトです」


その名に、セリスの眉がぴくりと動く。


――こいつが……あの……?


ミネルバ・ウィステリア。

敬愛する隊長が、何度か口にしていた「気になる新兵」──


その人物が、目の前の少年なのか。

セリスは内心で歯噛みした。

ミネルバの関心を自分以外に向けさせた蒼空が、ただ気に入らなかった。


だが、蒼空から感じ取れる膨大な魔力、揺るぎない目を前にして、無視するにはあまりにも“実力”が見えていた。


「……お前が、あの……」


敵意を込めかけた言葉が口から漏れそうになるが、セリスは飲み込んだ。


「……今はいいわ。で?お前は悪魔を倒せるほどの力を持ってるの?」


蒼空は少し逡巡しゅんじゅんする。

悪魔がどれほどの存在か、実際には分からない。

軽々しく頷くのは無責任だ。


その時、横から飄々とした声が割って入った。


「蒼空君の実力ならば、僕が保証しますよ」


アレンだった。

彼はいつもの調子でへらへらとしながら続ける。


「蒼空君は、少なくとも僕よりは強いと思ってますからね」


蒼空は思わず目を見開く。


――自分はアレンさんには及ばない。

――確かに表面的な魔力量は自分の方が多いだろう。

――でも、この人は底知れない何かがある気がしてならない。


アレンの口調は変わらず軽やかで、それでいて不思議と説得力があった。

セリスは数秒、じっと蒼空を見つめ、やがて目を細める。


「……あっそ。君たちも来たいなら来なさい。ただし……邪魔したらお前たちごと殺すから」


その声音には、冗談の欠片もない。

蒼空はごくりと喉を鳴らし、薄く笑って応じた。


「……了解しました」


こうして、二つの部隊はひとつとなり、未知なる“悪魔”の脅威に挑むこととなる。

蒼空の戦いの幕は、再び上がろうとしていた。

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