-初任務⑨-
エレクトリオスの背に漂う黒い魔力が再び蠢いたかと思うと、地面が揺れ、水脈のような魔力が一帯に広がっていく。
「来るぞ!」
ケインの声が響いた瞬間、空気が張り詰めた。
〈グゥオオオーーーーーーー!!!!!!!〉
次の瞬間、エレクトリオスの口元が微かに開き、雷の閃光が奔った。
同時に、地面から何本もの水柱が突き上がり、隊員たちを狙って襲いかかる。
「くっ、速い……!」
ケインが咄嗟に飛び退き、水柱を紙一重でかわすも、
背後から迫った雷撃が彼の肩をかすめる。
「きゃあっ!」
アリシアが悲鳴を上げた。
彼女の足元に水の柱が炸裂し、衝撃で身体が宙を舞った。
倒れたその姿を見たエレクトリオスが、鋭く視線を向ける。
巨体がうねり、次の瞬間にはアリシアに向かって雷撃を纏った爪が振り下ろされた。
「アリシアッ!!」
刹那、蒼空の体が閃光のように走った。
《魔装》を纏った蒼空の腕が、咄嗟にアリシアの肩を抱え、その身体を抱え込むように跳び退いた。
直後、爪が地面を抉り、爆音が鳴り響く。
「っ……危なかった……」
蒼空がアリシアを庇いながら息を吐くと、アリシアは驚きと恐怖の入り混じった瞳で彼を見上げた。
「ご、ごめんなさい……! 私……!」
「謝らなくていい……それより立てるか?」
蒼空の短い言葉に、アリシアは小さく頷いた。
その一瞬の隙を突くように、アレンが一歩前へ出た。
「ふぅ……無事でよかった。こりゃ一気に止めを刺さないと、こっちがやられちゃうね……」
普段の軽口とは裏腹に、その目は鋭く、指先に集められた魔力が青白く輝き始めていた。
「我が意に応え、静謐の水よ――鏡のごとき澄みを破り、鋭き槍となれ。《水鏡穿破》!」
アレンの詠唱とともに、宙に浮かぶ三本の水槍がエレクトリオスに向かって一直線に飛ぶ。
一本は肩を貫き、もう一本は腹を削った。
その叫びは怒りに満ちていたが、アレンは表情一つ変えず、続けざまに指を鳴らす。
「んじゃ、もう一発。集いし水脈よ、我が手に集いて深淵の圧を成せ――底より押し上げ、すべてを押し潰せ。《水圧破裂》!」
彼の足元から放たれた水流が地面を這い、エレクトリオスの足元を包み込んだ。
次の瞬間、魔力が一点に集中し、エレクトリオスの全身が水圧で押し潰されていく。
凄まじい轟音とともに、黒い血が霧のように舞った。
そして、魔法が解けるとその巨体が、地響きを伴って地面に崩れ落ちていく。
――終わった。
誰かがそう呟いたわけではない。ただ、全員の胸にそう刻まれる空気が漂った。
アリシアは蒼空の隣で、小さく息を吐いた。
「助けてくれてありがとう……蒼空君」
「気にすんな。……記念すべき初任務で同期を失わずに済んで良かったよ。」
蒼空の目は、エレクトリオスの残骸をじっと見据えていた。
――この巨体を押し潰す程の圧力。
――……流石は第四席だな。
それにしてもこの黒い魔力を放つ魔物は一体何なんだ。
魔導部隊の席官でさえ把握していない黒い魔力を放つ魔物。
つまり、軍でさえ、未だに把握されていない魔物であるということだ。
「……俺はもう3回目なんだけどな……相変わらずの運のなさに嫌になる」
蒼空のつぶやきは誰にも聞こえず、ただその場で消えていった。




