-初任務⑥-
広がる荒野の中、特務隊の一行は乾いた風に背を押されながら東へと歩を進めていた。
足元の土は踏み締めるたびにザクザクと乾いた音を立て、空には雲一つない快晴が広がっている。
アレンが振り返り、全員を一度立ち止まらせた。
「さて……そろそろブリーフィングしとこうか」
軽く息を整えながらアレンは振り向き、無造作に前髪をかき上げる。
「蒼空君との初任務だからね。到着早々、戦闘……なんてこともあるかもしれないし、事前に役割を確認しておこう」
どこか飄々(ひょうひょう)とした口調だったが、その視線は真剣だった。
仲間を見渡しながら、一人ずつ指をさしていく。
「僕は遊撃ね。状況を判断しつつ、必要があれば指示も出す。でも基本的には各自判断で動いてもらうよ」
次にミラを見やり、彼女も小さく頷く。
「ミラは支援。防御魔法や魔力の増強がメインだね。いつも通り、頼りにしてるよ」
「アリシアは後方支援。戦況を見ながら、きつそうな相手が居たらそっちに集中って感じで。それと、索敵も君の役目だよ。君の魔力制御はこの中でも一番だからね」
「は、はいっ!」とアリシアは気合を込めて返事をするが、その顔は少し緊張で強ばっていた。
「ケインは近接。火力面は一番だから、くれぐれも味方の位置を確認して巻き込まないようにね」
そして、最後にアレンは蒼空を見据えた。
「んで、蒼空君。君も前線での近接をお願いするよ。聞いたところによると、《魔装》の扱いはかなりのものらしいし、あの第六席のルーカス君を圧倒したって話もある。頼りにしてるよ」
蒼空は少し照れながらも、拳を握って胸に当てた。
「…了解!」
「基本的には指示なしで自由行動。ただし、僕が指示したときは最優先で動いてもらう。それだけは忘れないように」
全員が小さく頷き、短い静寂が訪れた。
* * *
そして、ドローヴ村――。
荒れ果てた土地の先に、かつて村だったであろう廃村が見えてきた。
炭化した木々と焼け落ちた建物の残骸が、かつてそこにあった人々の営みを物語っていた。
中に足を踏み入れると、焦げた空気の残り香と共に、いくつかの人影が目に入る。
トルヴァン男爵の個人兵と思しき者たちが、遺体となった村人たちを一箇所に運んでいた。
アレンが兵士に近づき、声をかけるも、得られる情報は乏しかった。
どうやら魔物らしき姿は見ていないそうだ。
「仕方ないか」とアレンは頭を掻きながら言う。
「とりあえず、周囲の痕跡を確認しよう」
全員がそれぞれの方向に散開していく。
蒼空は焼け落ちた建物の奥を回り込みながら、警戒心を研ぎ澄ませる。
《透識》を用いれば、魔力の残滓は探知できるはずだ。
やがてアリシアの声が響いた。
「見つけた……魔力の痕跡を発見しました!でも……これは一つの系統じゃないです!」
仲間たちがその場に集まり、アリシアが指差した焼け跡の周辺を注視する。
ミラは膝をついて地面に手を触れた。
「確かに……これは、水魔法の痕跡。でも、それだけじゃない。雷魔法の痕跡も……魔物の足跡もないですし、これは魔物ではなく、帝国軍の仕業では?」
アレンはミラの言葉に少し悩んでから、口を開く。
「んー、帝国軍だとしたら、どうして軍事的意味をなさないこの村を襲う必要があるんだ?それに停戦協定を破ってまですることとは思えないんだよね」
ミラはアレンの言葉に反論はない。
それが正論だと感じているからである。
「あれ?…おかしいな……この魔力。違う系統なのに、魔力は全て同一……?」
アリシアは魔力の残滓に違和感を覚え、そのまま口にした。
蒼空はアリシアの言葉に眉をひそめたまま、過去の出来事を思い出す。
「……そういば以前、メルセナ大森林で不気味な魔物と遭遇したことがあります。黒い魔力を纏って、二種類の魔法を使う魔物がいました」
その言葉に、ミラは目を見開いた。
「黒い魔力……それって、闇魔法じゃなくて?」
「けど、その魔物……合成獣が放ってきたのは、水魔法…そして雷魔法です」
ミラは蒼空の言葉にさらに眉間に皺を寄せ、呟くように言った。
「……闇魔法は敵の動きを封じるとか、死者を召喚して従えたり、呪いをかけたりするものだから……明らかに違うわね」
静寂が場を支配する。
ミラは困惑を隠し切れず、アリシアは黙って頷いた。
ミラは改めて魔力の残滓を確認する。
「確かに……この痕跡、全て同じ魔力だわ。でも、複数属性を持ってるって、そんな……」
「まあとりあえず、この状況証拠から考えると……蒼空君が出会ったっていう合成獣と同じ類いの存在が、ここにも現れた可能性があるってことだね」
隊の視線が揃ってアレンに向けられた。
アレンはわずかに息を吸い、いつもの飄々(ひょうひょう)とした調子を抑えた声音で言う。
「とくかくここで得られる情報はもうないみたいだし……残ってる魔力の残滓を追うとしようか。アリシア……頼めるかな?」
その言葉に、誰も異を唱えなかった。
アリシアはコクリと頷いた。
ドローヴ村の焦土に、冷たい風が吹き抜けていった。




