-初任務②-
ナヴィアとパナケイアとの会話終えた蒼空は指示された通り、特務隊室に移動していた。
兵舎の廊下を抜けると、蒼空は軽い違和感に眉をひそる。
手元の案内に従って進んでいるはずなのに、そこに広がっているのは華やかな軍の中枢とはまるで違う光景だった。
人の往来がほとんどなく、やや古びた渡り廊下の先、角を曲がったさらに奥にぽつんと小さな一室がぽつねんと佇んでいた。
――まさか……ここか?
首を傾げつつも歩みを進め、目の前の扉を見上げる。
道中で見かけた隊舎とは異なり、どこか放置されたような佇まいだった。
扉の木目は擦り減り、取っ手も少し錆びている。
――これが……特務隊の部屋?
肩にずしりと不安がのしかかる。
特務隊という名前から、厳格な空気を想像していたが――
これではまるで“窓際族”の部署のようだ。
不安と好奇心の入り混じった気持ちを押し込めて、意を決してノックをする。
――まさか……いきなり左遷されたって訳じゃない……よな?
「はーい。今開けるよー」
中から聞こえたのは、やけに軽い声だった。
しばらくして、ガチャリと扉が開くと、そこには一人の男が立っていた。
柔らかな白い髪はボサボサで、無精ひげが目立つ。第一印象はだらしない。そう感じさせる風貌だった。
白皙の肌に淡い笑みを浮かべ、どこかのんびりした雰囲気を漂わせている。
「君が蒼空君だね?話は聞いてるよ。さ、遠慮しないで入って入って!」
「……失礼します」
誘われるまま中へ入ると、そこにはすでに三人の人物がいた。
壁際に並んだ簡素な木製の机と椅子、武器らしいものは見当たらず、雑多な資料が山積みにされている。
「……あっ、お、おはようございますっ!」
声の方へ顔を向けると、そこには見慣れた赤髪の少女がいた。
それはアリシアだった。
蒼空は思わず目を瞬く。
――まさか……ここで再会するとは
ボサボサ髪の男が軽く目を丸くする。
「おや?二人は知り合いだったんだね?こりゃ驚いた」
「ええ、偶然というか、なんというか……」
「じゃあ、順番に紹介していこうか。改めて、僕は四番隊の第四席、アレン・レイノルズ。今はこの特務隊のまとめ役をしてるよ」
アレンは気負いのない笑みを浮かべながら、軽く手を挙げて自己紹介を続けた。
「それから、こっちがケイン・ドリス。腕は立つけど少し無口なんだよね」
紹介された青年は無口そうな印象の持ち主で、短く刈り込まれた黒髪に鋭い目つきが印象的だった。
無言のまま、静かに一礼する。
「そして、こっちがミラ・フェイラ。主に支援担当で、いざというときは僕なんかより頼りになるよ」
ミラと呼ばれた女性は、優雅な三つ編みにした桃色の髪を揺らしながら軽く会釈した。
見た目やその柔らかな物腰から、優しそうな人だと思わせる。
「で、アリシアは……もう紹介はいらないか。知り合いだしね」
「え、へへ……」
アリシアは照れたように笑って、首元まで赤くなっていた。
その仕草に、蒼空は思わず口元をほころばせる。
「アリシアが特務隊にいるとは、ちょっと驚きました。入隊して間もないって聞いてましたし……」
「でも彼女、実は類稀なる魔力制御の適性があるんだ。特に潜入任務や諜報活動に関しての素質を見込まれて推薦されたんだよ」
アレンの説明に、アリシアは再び「えへへ」と頬を赤らめる。
――……ドジっ子だと思ってたけど、人は見かけじゃ分からないものだな
そんなことを思いつつ、蒼空は新たな隊の仲間たちを見渡した。
「私の名はソラ……。ソラ・ルーンライトです。出身はグレイスヴィル村です。まだまだ未熟者ですがよろしくお願いします。」
蒼空は右手で拳を作り、胸に当てながら話す。
グレイスヴィル村出身。
勿論嘘であるが、イーリス隊長から怪しまれない様に出身をそう偽るように言われたのだ。
それで良いのかと少し疑問が残るが、このことは蒼空としてもメリットがある。
イーリス隊長の思惑は分からないが、乗っておけば間違いないだろう。
この特務隊のメンバーは、厳格な雰囲気よりもこの柔らかな空気という印象を受ける。
規律正しいものが苦手な自分には合っている。
それだけで、心が少しだけ軽くなるように感じた。




