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プロローグ

※閲覧時のご注意※

まず、この物語を開いてくださり、心より感謝申し上げます。

私自身、小説自体初めての試みであるため、稚拙ちせつな文でお恥ずかしい限りです。

それでも、書きたいことがあり筆をりました。


いろいろとオブラートに包む予定ですが、俗にいう胸糞展開やショッキングな内容も含むと思います。

ご閲覧になられる際はご理解の上、ご一読頂ければ幸甚こうじんです。

コメントなど頂けましたら執筆の励みになりますので、よろしくお願いいたします。ではでは。

ーー痛い

ーー辛い

ーー憎い

ーー全てが”憎い”


意識が朦朧もうろうとする中、目の前の恐怖から思わず目を伏せ、身をすくめた。


繰り返される怒号とともに自分を虐げる人の形をしたモンスター。


本当の親も知らず、他に頼れる者もいない。

まるで自分の周りは敵だらけだと錯覚するほどの孤独。

どうして自分は生まれてきたのか。

生まれてきてよかったのか。

答えのない疑問だけが、頭の中をぐるぐると巡っていた。


〈ガチャガチャ……〉


憎らし気に金属音のなる方へ目を向ける。


そこには自分を逃がさんとする手錠が視界に入った。

逃げることも許されず、最低限の自由すらも奪われているのだ。

部屋は照明が取り外され、唯一の窓も厳重に固定されている牢獄ろうごくのような場所。

永久とも感じる時間をこの場所で過ごしていた。


『このっ!なんとか言いなさい!!』

『他人のあんたをっ!こんなに食べさせてあげてるのにっ!』

『どうして私に対して反抗的なのっ!!』


殴打や蹴りなどを繰り返すこいつは俺の養母ようぼだ。

施設で育った俺を迎え入れた張本人。

最初こそ優しかった。最初は、だ。


迎え入れられてから数年は家族同然のように温かくしてもらった。

しかし、そんな幸せな時間も長くは続かなかった。ある時を境に俺に対する態度が急変したのだ。


ある時、自分の食事が用意されておらず、その理由を聞いた。

すると、なぜ他人のお前の食事を私が用意しなければならないのか。と激昂げきこうし、

その日から学校にさえも行かせてもらえず、日常的な暴力が振るわれるようになった。


暴力を振るわれながら発していた言葉で大体理解ができた。

原因は養父ようふの不倫であった。

何日も養父が帰ってきていないのは気付いていたが、そういうことだったのだ。

俺を虐げながら、俺自身を不倫相手や養父に見立てているようだ。


それから間もなく、養父から離婚を言い渡されたことで、さらに情緒じょうちょがおかしくなった。


俺に依存するようになったのだ。

カギを取り付けられ、抵抗できないように手錠をかけられ、日常的な暴力を振るわれた。

凄惨せいさんな環境に絶望を覚える。

生きる希望などない。だが死にたくはない。

自由も。希望も。人並な幸せも奪われる。そんな現実に憎悪を抱いていた。


その日もいつも通り只管ひたすら耐えていたが、いつもと少し様子が違ったのだ。

養母は泥酔しており、アルコールの匂いが鼻につく。

足元もふら付いており、いつも以上に興奮しているのが分かる。


『私の話をちゃんと聞きなさいっ!!!!』


その言葉を発するとともに俺の頭を目掛けて、酒瓶さかびんを振りかざしたのだ。


〈ゴンっ!!!〉


鈍い音だった。

激痛と同時に衝撃で耳鳴りが脳内に響き渡る。

頭からは温かい液体が垂れてくる。


――痛い

――意識が遠のいていく

――死ぬのか


そう感じた瞬間、全身を柔らかな熱が包み込んだ。

まるで内側から何かが沸き立っているようだ。


――なんだ……これ

――これが死ぬということなのか?


朦朧もうろうとする中、ゆっくりと目を開けた。


「なん……だ、この光?」


目を開けると、自分の周りを七色の光がゆらゆらと漂っていた。

それは蒸気のようであり、しかし蒸気ではない。

形を持たない何かが、自分の中から溢れているように感じた。


〈ガチャン!!〉


手首の重みがふっと軽くなった。

見ると、手錠が真ん中から焼き切れたようにひしゃげている。

そんな力、俺にはないはずなのに――。

何が起きたのか分からず、ただただ息を呑んだ。


『なにが起きっ!!て、手錠が!どうしてっ!?』


養母は手錠に釘付けになり、混乱している様子だった。

俺自身には一度も目を向けてこない。

こいつにはこの蒸気みたいな何かが見えていないのか?


慌てふためく養母から視線を外し、改めて自分の両手に目を向けた。

蒸気のような蒸気ではない何かが身体の内側から溢れ出てくるようだ。


気付くと出血も止まっており、痛みも感じない。

先ほど酒瓶で殴打された頭を触る。


「……痛くない……治ってる。」


――自分に何が起きたのか

――このゆらゆらとした蒸気のようなものはなんだ

――夢でも見ているのか


戸惑いの中、ふと、養母が視界に入る。

養母はしばらくの間、外れた手錠を茫然ぼうぜんと見つめていた。

しかし次の瞬間、顔をゆがめて俺を睨みつけた。

何かを壊されたことへの怒りか、それとも意味のわからない恐怖から逃れるためか。

気付けばまた、酒瓶を振り上げていた――。


「この疫病神がっ!!」


反射するようにやつの酒瓶と手首をつかんで防衛した。

すると、先程まで全身に漂っていた光が手に集中しているのを感じた。

その瞬間だった。


「ぎゃぁぁぁぁーーーっ!!!」


つかんだ瞬間、手のひらに熱が集中するような感覚が走った。

それと同時に、養母の叫び声。

見ると、彼女の手首には服越しでもわかるほど、真っ赤な火傷が浮かんでいた。


心臓が高鳴る。


――なんだこれ

――なんなんだよ!!!


全身が強張こわばり、過呼吸におちいりりそうなほど呼吸が荒くなる。


「ぅあああぁああぁぁぁーーーーーーっ!!!!」


突如として起きた自身への明確な”異変”を受け入れられず、錯乱さくらんしたようにつまづきながらその場から逃げだした。


壁や物にぶつかりながらもその足は止めない。

裸足はだしのまま無我夢中で走る。当然目的地などはない。


久しぶりの外だというのに高揚感なども感じられない。


――ただひたすらに走る


ここは決して都会ではなく、田舎町という方が合っているだろう。

夜は極端に人通りが少なく町に活気かっきがないことが伺える。


「……はぁはぁ。」


どれくらい走っただろうか。

ゆっくりと足を止め、ふらふらと目の前にあった公園のベンチに腰を掛ける。


近くの街頭はチカチカと不安定な稼働をしており、周囲には錆びついた遊具が点々としていた。

荒い呼吸を落ち着けるよう数度の深呼吸をする。

ゆっくりと顔を上げるとそこには綺麗な満月があった。


気付いた時には身体から溢れ出る謎の蒸気はなくなっていた。


――これからどうすればいい

――俺に何が起きたのか


解のない問いがめぐる。

そんな事を考えながら、ボーっとしているうちに唐突の睡魔に襲われた。

養母からの解放、突然の異常現象等により一種の極限状態であったのだ。

緊張の糸が切れたのだろう。


――……身体が怠い

――……眠い


睡魔に従うようにゆっくりと目を閉じた。

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