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7/10

7 ◆ 悪役令嬢の目の敵

全10話(執筆済)。基本毎日投稿予定です。

「えっ?!『平民の魔力持ち』ですか!?

 そんな人、本当にいるんですか!?」


 私は驚いて声を上げた。

 私は現実の世界で「平民の魔力持ち」なんて、見たことも聞いたこともない。……本当に実在したんだ。そんな小説みたいな人。


「ええ。まあ、魔力を持たない両親から突然変異による魔力持ちが産まれる確率は10万分の1と言われているから、いること自体はおかしくはないのよ。」


 そう言って真剣な顔をする御主人様。


 ……10万分の1って、多いのか少ないのか、よく分からないな。

 でも、そんな珍しい人がよりによってこの【悪役令嬢様】と呼ばれる御主人様の隣の席になっちゃうのは……相当な確率な気がする。

 運命のイタズラっていうか、御主人様の強運?悪運?

 本当に小説みたいな展開になっちゃったらどうしよう。


 私は心配半分、興味半分で、そっと御主人様に訊いてみた。


「……それで、何かあったんですか?」


 すると御主人様は、とても苦い顔をして答えた。



「いきなり向こうが言ってきたのよ。


 ──『よろしくお願いします。セレンディーナ()()。』って。


 だからわたくし、あまりの非常識さに驚いて叫んでしまったの。


 ──『()でしょう?!馴れ馴れしいのよこの平民が!』って。」



 ………………………完っ璧。


 御主人様、()でこんなにも完璧な「悪役令嬢様」だったなんて思わなかった。


「それから、どうなったんですか?」

「謝られて言い直されたわ。『セレンディーナ()』に。」

「普通っ!!」


 私は思わずツッコんでしまった。

 でも、そりゃそうだよね。そこで「学園内では身分は関係ありません!みんな対等な立場なんじゃないですか?」って小説の主人公みたいに真っ向から言い返すわけないか。

 大抵の平民は公爵令嬢に怒鳴られたら「あっ!ごめんなさい!大変失礼しました!」って言って慌てて訂正するよね。……うん。


「でもその後、わたくしの声を聞いて来たお兄様が『妹が悪かった。自分には敬称をつける必要はないし、敬語も使わなくてもいい。』だなんて、公爵家の威厳も何もないことをその平民に向かって言ったのよ。」


 ああ〜、たしかにアルディート様ならフォローに入ってきそう。そして言いそう。そういうこと。


「そのせいで平民が調子に乗ってしまったのよ。

 お兄様の()()を本気で受け取って、いきなり馴れ馴れしくお兄様に接し始めて。挙げ句の果てには入学初日だというのに、お兄様を学食に誘って一緒に行っていたの。信じられないでしょう?」

(つよ)っ!?」


 さっきは普通って思ったけど、違ったわ!強い!強いぞこの平民!?

 アルディート様にはご婚約者様もいらっしゃるのに!アルディート様、1つ上の学年にいらっしゃるご婚約者様と同じ学園に通えるようになるのを楽しみにされていたのに!

 そんなご婚約者様を差し置いていきなり学食デートは図々し過ぎない?!アルディート様もそれでいいんですか?!


 私が驚いていると、御主人様は私の方を見て頷いた。


「そうよ。あの平民。この小説の主人公と同じく、相当な強敵(きょうてき)よ。

 どうせこれまでもあのヘラヘラした笑顔を振り撒いて、周りを(たぶら)かしてきたんでしょうね。愛嬌なんていう生優しいものじゃないわ、猛毒よ、猛毒。

 今日のわたくしへの敬称の間違いだって、本来ならば悪いのは向こうでしょう?それなのに、教室中がまるで『怒鳴ったわたくしが悪い』かのような空気になっていたのよ。意味が分からないわ。皆あの純朴そうな表情に騙されているだけなのよ!腹の中では何を考えているか分かったものじゃないというのに!きっと完璧なわたくしを()めようとしたに違いないわ!

 お兄様も簡単に騙されてしまって、情けないったらない!」


 私は小説を初めて読んだとき、主人公に感情移入して応援してたけど……こう、別の立場から話を聞いていると、また違って見えてくるなぁ。

 多分その平民の女の子は、普通に平民なりの常識に沿って御主人様に初めましての挨拶をして、それで怒られちゃって、素直に謝って、アルディート様とも下心なくお友達になろうとしていただけ──なんだろうけど。

 御主人様と付き合いが長くなってきたせいか、それとも公爵家側の人間なせいか、私は御主人様にちょっと肩入れしたくなってしまった。話を聞いている限りでは、その平民の女の子も配慮が足りない気がする。

 ……いきなり「馴れ馴れしい!」って怒鳴っちゃった御主人様は、完全に自滅だと思うけど。悪役令嬢らしく自分から周りの好感度下げに行っちゃってるよ。


 私は複雑な思いを抱きながら、当たり障りのない感想を言った。


「それにしても……随分と可愛らしい見た目なんですね、その平民の御方(おかた)。」


 うん。御主人様はさっきから平民の子のことを「笑顔で周りを誑かしてる」とか「純朴そうな表情」とか言っているけど。それって、実はすごいことだと思う。

 御主人様は他人の見た目を褒めるなんて滅多にしないから。()()レックス様を前にしてもすっごく冷めてたくらいだし。

 その御主人様が「猛毒」って言うくらいなんだから、相当可愛らしい外見だったんだろうなーっていう想像がつく。


 すると御主人様は、怒りからかいきなり顔を真っ赤にして「かっ、可愛らしいわけないじゃない!!あんなジャガイモ臭い平民顔が!!」と叫んだ。


 ………………図星か。


 それから御主人様は動揺しながらココアを一口飲んで、一息ついてなんとか気を落ち着かせてから「……わたくし、シャワーを浴びてくるわ。少し冷静にならなければいけないわね。」と言って浴室の方に消えていった。


 ──御主人様の新生活、大丈夫かな?


 御主人様はたしかに傲慢で横暴で、面倒くさくて嫌な性格をしている。私も御主人様とはこれまでいろいろあったし、今でも3日に1回は腹が立つ。

 ……でも、だからといって、小説の悪役令嬢みたいに「破滅」をしてほしいとまでは思わない。


 何だかんだで御主人様に情が湧いてきていることもあって、私は不安になってしまった。


 ──心配だな。……御主人様、こう見えて不器用だから。


 私は少し悶々としながら、その日の夜にこっそり「侍女として御主人様の様子をちゃんと見て、御主人様が学園で変なトラブルを起こす前に、できたらうまく助言しよう」と決意した。

 通う学校も違うし、そんなに器用にできるとは思ってないけど。でも、一人くらい「悪役令嬢様の()()」がいたって、いいよね?


 そんなことを思いながら、私は小部屋で眠りについた。



◆◆◆◆◆◆



 御主人様は嫌味やお小言はすぐに私に言ってくる。

 でも実は、日常での出来事はあまり話さない御方。実際、中等部の頃に御主人様が貴族学校でどう過ごされていたのか、どんな交友関係があったのかは、2年ほどお仕えしてきた割に全然知らない。

 きっとそういう日頃の話を聞く役目は侍女じゃなくて、双子の片割れのアルディート様なんだろうな。


 高等部になっても、それは変わらなかった。

 入学式の日にはたまたま恋愛小説をきっかけに、私の質問に答える形でいろいろと話してくれたけど。それ以降は別に、御主人様の方から「聞いて?エリィ。あの平民ったら信じられないのよ!」みたいに話を振られることはなかった。

 今まで通りに日中はそれぞれの学校に通って、寮部屋では公爵令嬢と侍女として過ごして、夜はそれぞれが課題をこなしたり授業の予復習をして眠りにつく。そんな感じの日々だった。


 だけどあの入学式の日以来、御主人様はたまに例の「悪役令嬢シリーズ」の第1巻を読み直しては、ぶつぶつ「理解に苦しむわ、あの平民。一体何なのかしら。」と言いながら頭を悩ませる姿を見せるようになった。

 私は御主人様の様子を窺いつつ、話しかけられそうな雰囲気のときはそっと尋ねてみたりした。


「……御主人様。例の『平民の御方(おかた)』と何かありましたか?」


 御主人様が悪役令嬢よろしく平民の女の子と揉めたり周りから反感を買ったりしていないか心配だったから。


 そんなときは大抵、御主人様は険しい顔で端的にその日の出来事を教えてくださった。


「いたのよ。平民が。小説の通り……学園の()()()()()()に。」

「あっ!それ、騎士様の初登場の場面!

 主人公が木に登って、降りられなくなっていた子猫を助けていたんですよね!それで、主人公がうっかりバランスを崩して木から子猫を抱えたまま落ちちゃったところを、たまたま通りがかった騎士様に助けられるっていう!私、あのシーンけっこう好きなんです。

 その平民の御方も、まさか子猫を?」

「いいえ。……ただ(くつろ)いでいただけですって。」

「く、寛ぐ……ですか?私も初等部の頃はラケールの街でたまに木登りをして遊んではいましたが……そんな不安定なところで寛げます?」

「そう。おかしいでしょう?あの平民、きっと前世は猿なのよ。そうに違いないわ。」

「な、なるほど……?」


 また別の日は、こう教えてくれた。


()()()()()()()に平民がいたの。そこまでは小説の通りだったわ。」

「ああ!宰相子息様との出会いの場面ですか?

 小説だと、主人公は平民だったことのハンデを取り戻すべく、授業の予復習に勤しんでいたんですよね!」

「ええ。……でも、そこは小説とは違ったわ。勉強はしていなかった。」

「そうなんですか?何か物語を読んだり、図鑑を見たりしていたんですか?」

「『珍味!魔物フルコース100』という魔物料理のレシピ本を読んでいたわ。」

「まっ、魔物料理ですか?!私、さすがに魔物は食べたことないです……。」

「わたくしもよ。当然でしょう?……話を聞くところによるとあの平民、よほど貧乏で飢えているようね。『寮の門限までまだ時間があるので、魔物を狩って換金してきます!』と言って読書を中断して去っていったわ。」

「……まさか、その狩った魔物をついでに食べたりなんてしませんよね?というか、大丈夫なんですか?そんな『魔物狩り』だなんて。素人が危険すぎませんか?」

「知らないわよ。わたくしが知るわけがないでしょう?あんな平民のいかれた生態なんて。

 ……はぁ。まったく、理解の範疇を越えるわ。本当に信じられない。何も予測がつかないわ。」


 その例の平民の御方は、どうやら小説の主人公の女の子と同じような行動を取っている──と見せかけて、若干……いや、だいぶ小説の主人公よりも野生味に溢れているようだった。


「今日また学食でお兄様といるのを目撃したの。最近は毎日のように一緒にいるのよ。あの平民。」

「毎日ですか?!アルディート様のご婚約者様を差し置いて?!」

「そう!貴女もそう思うでしょう?図々しい上に空気も読めないのよ!見ていて腹が立つわ。」

「アルディート様のご婚約者様はその状況に心を痛めておられませんか?」

「いいえ。わたくし最近お話ししたのだけれど『アルに仲の良いお友達ができて嬉しいわ。彼は今までずっと、どこか他人に一線を引く癖があったから。気を許せる相手がいるというのはいいことね。』とおっしゃっていたわ。なんて寛大なのかしら。」

「か……寛大というか、許しちゃってるんですか。その状況。……大丈夫かな?」

()()()()()より。本当に酷かったのよ?信じられないの。」

「何がですか?」

「あの平民、学食で何を頼んでいたと思う?

 ──『ガーリック増しの特大グリルステーキ』に『山盛りペペロンチーノ』!

 昼間っから何を考えているのかしら!信じられないでしょう!?」

「重っ!?しかもアルディート様を前にガーリック三昧(ざんまい)!匂いつきそう!一体どんな胃と神経をしているんですか!?」

「昨日は『リンゴ』一個だけだったのに!」

「軽っ!?日によって違いすぎません?!」

「そう、そうなのよ!まったく法則も好みも読めないの!意味がわからないのよ、あの平民!」



 そんな「平民の魔力持ち」に対する御主人様の孤軍奮闘を見守っていた私は、1学期もそろそろ終わろうかという頃に、ある大きな一つの「勘違い」に気が付いた。



◆◆◆◆◆◆



 御主人様がまたその日も、例の「悪役令嬢シリーズ」の第1巻を開いて沈んだお顔をしていたから、私はそっとお声をかけた。


「……御主人様。例の『平民の御方』と何かありましたか?」


 いつもの質問。いつもの通り。


 だけど、御主人様はいつものように「()()()()、まったく理解に苦しむわ。」とは言わずに、暗いお顔でポツリとこう呟いた。



「…………彼、9歳のときにご両親を亡くしているんですって。

 聞いてしまったの。……聞かなければよかった。


 小説に似ているわよね。……そんなところまで寄せる必要はないのに。」



「……そうだったんですか。」


 御主人様がいつもよりも沈んでいる理由がなんとなく分かった。


 さすがの御主人様でも、身内の生死という話題に対してまでごちゃごちゃ言う気にはなれなかったんだろうな。

 私もいつものように「ええっ?!そうなんですか!?」なんて勢いのある相槌は打てなかった。


 御主人様が「わたくしは寮の食堂に行ってくるわ。……貴女も、夕食の時間にして。」と言って本を閉じて寮部屋を出て去っていくのを見送って、私はぼんやりと考えた。


 ……御主人様、だいぶ気になさってるな。例の平民の御方のこと。


 どんな話の流れで聞いちゃったのかは知らないけど、もしかしたら小説の悪役令嬢よろしく、高圧的に突っかかっちゃってたのかも。「まったく!一体どんな教育を受けてきたのかしら。ご両親のお顔が見てみたいわ!」とか、その子に向かって言っちゃってないといいけど。

 ……悪気がなかったとしても、さすがにそれはアウトだもん。


 私はまず第一に、その平民の御方の事情にそっと同情をして心を痛めた。でも、その次に御主人様のことがだんだんと心配になってきてしまった。


 大丈夫かな、御主人様。何だかバツが悪そうにしてたし。本気で後悔してるんだろうな、その事実を聞いちゃったこと。

 今日はいつもみたいに「あの平民!」じゃなく、御主人様らしくなく、しおらしく「彼」だなんて言ってたし。

 ……いや、最初からそう言ってあげるべきなんだけどさ。普段の御主人様が酷いんだけど。



 ………………ん?



 そこまで考えて、私はふと、ある一つの違和感に気が付いた。



「えっ?………………『(かれ)』?」



 そういえば今、御主人様……「彼」って言ってなかった?


 あれ?もっ、もしかして私、盛大な勘違いしてた?



「……『彼』って、つまり…………『男子』ってこと?」



 一人で口に出して確認をする。


 うん。そうだよね?「彼」は男で、「彼女」は女……だよね?


 うん……うん。クゼーレ語の一般的な扱い方としては、そうなりますよね??



「……え?

 ってことは、その『平民の御方』って、『平民の女の子』じゃなくて『平民の()()()』だった──ってこと!?」



 私は衝撃の事実──というか、盛大な勘違いを今、知った。


 えぇーーー?!聞いてない聞いてない!!

 男子だなんて聞いてませんでしたけど!?

 御主人様が例の恋愛小説の主人公(ヒロイン)を参考にしてたからつい!てっきり!現実の方もそっちの性別かと!!普通は絶対にそう思うじゃん!!ややこしいことしないでくださいよ御主人様ー!!


 ちょちょ、ちょっと待って!ちょっと待って!!

 ってことは、今まで「隣の席の可愛らしい平民女子」だと思って聞いてた話……あれ全部「隣の席の愛嬌がある平民男子」の話だったってこと?!



 私は混乱しながら、今までの御主人様との会話の数々を振り返って勘違いを超高速で修正していった。


 ──御主人様、入学式の日にその平民について「あのヘラヘラした笑顔を振り撒いて、周りを(たぶら)かしてきたんでしょうね。愛嬌なんていう生優しいものじゃないわ、猛毒よ、猛毒。」って言っていて、私が「随分と可愛らしい見た目なんですね、その平民の御方。」って返したら()()()()()()()()()()()()()

 ……あれ、相手が「ライバルとして認めざるを得ないくらい可愛い女の子だったことについて、()()()()()()()()()()()」と思ってたんだけど…………もしかして、「初対面の男の子の見た目を無自覚に散々褒めちぎっていたことを指摘されて、()()()()()()()()()()()()」ってこと?


 ──御主人様が「初日からお兄様に対して馴れ馴れしい」だとか「最近は毎日お兄様と一緒にいて図々しい」だとか言っていたのに対して、私は「それはたしかにそう。ご婚約者様がいらっしゃる公爵令息様にそんなにベッタリしてるだなんて、さすがに平民とはいえ空気読めなさ過ぎじゃない?それにアルディート様も。ご婚約者様が悲しんじゃうよ。もっと適切な距離感で接しなきゃダメじゃない?」なんて思ってたけど。

 ……うん。男子なら別に問題無いよね。アルディート様からしたら「気の合う仲の良い男友達と()()()()()()()」だもん。そりゃ、ご婚約者様も微笑ましく見守られるわけだわ。歳下の婚約者のアルディート様が入学早々に同性のお友達と楽しそうにしていたら「あらあら。素敵なお友達ができてはしゃいじゃって。新入生らしくて年相応で可愛いわ。良かったわね、アル。」って嬉しく思うよね。……そりゃそうだわ。

 アルディート様、ごめんなさい。私、最近ちょっと心の中で「アルディート様って一途で誠実な御方だと思ってたけど、ポッと出の素朴で可愛い女の子にすぐついていっちゃうような浮気性な人だったんだ……うわぁ。」って思っちゃってました。違いました。

 ……むしろ、御主人様が勝手に「同性同士でどんどん仲良くなっていってるアルディート様に嫉妬」してただけなのかも。……うん。


 ………………うん。振り返るといろいろと辻褄が合っていく。

 木に登ったり、魔物を狩ったり。昼間っからがっつりガーリック三昧したり、適当に雑にリンゴでお昼ご飯を済ませたり。平民の男の子だとしてもだいぶ「わんぱく」寄り……というか、野性味あふれる御方ではあるみたいだけど。

 でも一応、今まであったちょっとした違和感は全部解消された。



 そして私は、勘違いを修正していった結果、あることに気が付いた。



 ──御主人様、もしかして…………その平民の男の子に「一目惚れ」してない???



 いっ、いや!すぐに恋愛に結びつけるのは良くないし、男女間の友情も世の中にはある!あるんだけど!!

 でも今まで「こんな男、わたくしには相応しくないわ。」ばっかりだった御主人様が初日から盛大に意識して、何かある度に「理解できない」だなんて言いながら頭を抱えて、アルディート様と一緒にいるところを目で追いかけて文句を言って、挙句、ご両親の件を聞いてしまってしょんぼりしてしおらしくなるなんて──……そんなの、もうほぼ100%「初恋」じゃん!!


 ついに!ついに御主人様に婚約者第一候補が現れちゃったよー!!



 私は興奮しながら、破茶滅茶な脳内で考えた。


 っていうか!レックス様にすら微塵も反応しなかった御主人様のお眼鏡に敵うなんて!その人、一体何者ですか?!少なくとも「お兄様よりも格好いい」を満たす超絶ハイスペック男子ってことですよね?!

 留学中の隣国の王子様?!

 それとも王国最強の若き辺境伯?!

 ──あっ!違う!!平民だわ!!そうだった。


 って……いやいや!「アルディート様を超える格好良さの平民」って何それ!?そんな生き物、この世界に存在します!?!?

 あっ!だからアルディート様も気兼ねなく楽しく一緒にいられるのかな?!うわー!ハイスペック同士で?!すごっ!!


 ちょっ、すみません!お顔がわかるやつ、ありませんか?!御主人様の制服をお借りして、明日学園にちょっと覗きにいってもいいですか?!

 うわ〜!気になる〜!気になり過ぎる〜〜!!



 私は大いに興奮しながらも、しばらくして少しだけ冷静になった脳内で「御主人様がお戻りになるまでに自分の夕食を済ませなきゃ」と気付いて、ダッシュで寮に併設されている購買にお弁当を買いに行った。

 そして御主人様とその見知らぬ「平民の男の子」のことをぐるぐると考えながらお弁当を急いで食べて、侍女としてティーセットやら何やらいろいろ整えて、御主人様のお戻りをお待ちした。


 戻ってきた御主人様に「……何?わたくしがいない間に何かあったの?ニヤニヤして。気色悪いわね。」といきなり暴言を吐かれたけど、私は機嫌良く口元を緩ませながら「いいえ、何も。おかえりなさいませ、セレンディーナ様。」と言って、初々しく可愛らしい御主人様に頭を下げた。

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