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3 ◆ 悪役令嬢のお兄様

全10話(執筆済)。基本毎日投稿予定です。

 影があるところには光がある。

 悪人がいれば聖人もいる。


 我が御主人様【セレンディーナ・パラバーナ】様が小説に出てくる「悪役令嬢」だとしたら……当然、主人公を救ってくれる、優しくて格好いい「ヒーロー」もいるということだ。



 私が侍女になって、早いもので1年が経とうとしていた。

 御主人様は相変わらずな感じで、よく腹は立つんだけど、まあ……そういう人だと思えばある程度は聞き流せるというか。

 仕事にも御主人様にもだんだん慣れてきて、学校の行事に合わせて融通をきかせてもらうよう打診したり、ちょっとした会話もできるようになってきた。


 うん、悪くないな。今の自分と、この仕事。


 私は今日、休日だけど自分の学校に行っていた。

 思いっきりダリアとミューリンとはしゃいで羽目を外して……楽しかったなぁ、体育祭。

 個人的には、徒競走で2位になれたのが嬉しかった。いっつも下から数えた方が早かったんだけど、ここ1年くらい毎朝全力ダッシュで登校してたお陰で、自分が思っているよりも足腰が鍛えられていたのかも。


 ちなみに御主人様は、今日は王都に行って何かの貴族向けのパーティーに出る予定になっていた。……時間的にもう別邸(こっち)に帰ってきてるかな?

 体育祭で疲れてはいるけど、この後はまた気持ちを切り替えて侍女の仕事に戻らなきゃ。


 公爵家別邸に帰ってきて着替えるために2階に上がろうとしたら、階段近くの広間の方から何やら話し声が聞こえてきた。



 ──これはセレンディーナ様と……もう一人は【アルディート】様かな?



 私が声に反応してちょっと立ち止まった瞬間、気配を察したのか、すぐに扉を開けたままの広間の中の方から爽やかに声を掛けられた。


「ああ、エリィさん。おかえり。」


「あっ、アルディート様!──と、セレンディーナ様!おかえりなさいませ!お疲れ様でございます!」


 私は無駄に緊張しながら慌ててぺこりとお辞儀する。

 そんな私に向かってアルディート様は微笑みながら


「エリィさんこそ今日は体育祭で疲れているだろうし、無理せずにね。セレナは僕ともう少し話しているから、しばらく休憩していていいよ。……なんなら、今日はもう他の人に任せて休んでもいいんじゃないか?」


 と、聖人のような提案をしてきてくれた。

 すると、それを聞いたセレンディーナ様が思いっきり不快そうに眉間に皺を寄せてアルディート様を睨みつけた。


「……()()()

 わたくしの侍女に向かって勝手なことを言わないでいただけます?お兄様になんの権限があって『休んでもいい』だなんて言うのよ。」



 …………そう。


 このパラバーナ公爵家の「光と闇」。もとい「王子様と悪役令嬢」。


 このアルディート様こそ、我が御主人セレンディーナ様の()()()()()()様なのだ。



 顔は双子なだけあって、セレンディーナ様ととっても似ている。

 青藍色の髪に黄金の瞳。絶妙な配置のお顔のパーツ。セレンディーナ様が完璧な女の子のお人形だとしたら、アルディート様は完璧な男の子のお人形。そのくらい「人類のお手本」みたいな整い方をしている。


 そして性格。性格は双子なだけあって、セレンディーナ様ととっても似ている──のかと思いきや!これが全っっっ然違うの!

 まじ優しい!超素敵!本当に最高の御方なの!!

 今さっきの発言からも分かるように、使用人の私たちにもいつも挨拶やお礼を当然のようにしてくれるし、よくこうして気を遣って「いつも頑張ってくれているからね。たまには君たちの生活の方を優先してくれていいよ。」なんて言ってくれたりする。

 しかも!こんな風に、自分じゃなくて妹の侍女なのに、私の名前はもちろん、些細な用事とかもさらっと覚えてくれたりするの!すごすぎない?優しすぎない?!脳の容量が大きすぎる!

 御主人様と同じ日に生まれて同じ環境に育って、どうやったらこんな真逆の性格に育つんだろう?本当に意味が分からない。


 アルディート様は私がこの仕事を始めたときからすでに貴族学校の生徒会長を務めていて、生徒会のお仕事とやらがあるらしく、平日はいつも帰りが遅い。さらにご婚約者様が王都に住んでいらっしゃるとかで、週末はほとんど王都にある本邸の方に行っている。

 だから、意外とこのお屋敷にいる時間が少なくて、遭遇率はそんなに高くないんだよね。もちろん見かけることはあるけど、こんな風にお話しすることはすごく(まれ)

 ……もっといてくれればいいのに。もっとこのお屋敷にいて、強烈なセレンディーナ様のトゲトゲを中和してほしい。


 私は初めてこの公爵家別邸に来た日、先にセレンディーナ様の方と対面していきなり暴言を吐かれていたから、その後にアルディート様に会ったときも思わず緊張して身構えてしまった。そんな思い出がある。


 ……けど、もし会う順番が逆だったら、絶対100%アルディート様に一目惚れしてただろうなぁ。



 そんな完璧超人アルディート様。

 御主人様に文句を言われたアルディート様は、涼しい顔をして言い返した。


「だってお前、いま機嫌悪いだろ。

 体育祭から帰ってきて早々お前に八つ当たりされるなんて、エリィさんが可哀想じゃないか。」

「なっ……!!」


 御主人様が怒りで顔を赤くする。

 さすがアルディートお兄様。双子の片割れなだけあって言い方が容赦ない。


 ──っていうか、御主人様ご機嫌悪いんかーい!!


 アルディート様の言う通り、御主人様の機嫌が悪いときはけっこう面倒くさいことが多い。「今は一人になりたい気分なの。下がって頂戴。」って言われるパターンは逆にありがたいんだけど。そうじゃないときがとにかく厄介。

 指示の細かさはいつもの3倍。お小言と嫌味はいつもの5倍。挙句、ピリピリイライラ、ずーっと不機嫌を撒き散らして、こっちは何も言ってないのに「何よ、その目。何か文句でもあるの?」とか突っかかってくるから、こっちまで気分が悪くなる。


「セレナ。せめてお前はここで頭を冷やしてから部屋に戻るようにしろよ。愚痴なら僕が聞くからさ。

 ……ということで、エリィさん。引き止めてしまってすまなかった。まあ、夕食にも直接セレナと僕で行くから、エリィさんは夕食後まで自由時間にしてくれ。」

「あっ、はい!ありがとうございます!失礼いたします。」


 御主人様に睨みつけられながらも有無を言わさず自由時間を言い渡してくださったアルディート様。

 私はこれ以上ここにいても御主人様を怒らせる気しかしなかったから、そのままアルディート様のご提案をありがたく受け取ってそそくさとその場を去った。


 階段を上がり始めたところで、早速、広間の中から御主人様の「お兄様の馬鹿!!何なのよ!!」という怒鳴り声がする。


 …………怖っ。


 私はそのまま階段を駆け上がった。


 アルディート様は、双子の妹の御主人様のことを愛称の「セレナ」って呼んで、いつも何だかんだで気に掛けている。

 御主人様の使用人に対するキツい態度を咎めてくれたり、アルディート様が後からそっとフォローに入ってくれることもある。ネルルーさんも結局クビにはなったけど、アルディート様のお陰でちゃんと退職金は貰えていたし。

 何とか周りに御主人様が嫌われないように、兄として頑張ってるんだろうなって見ていて思う。


 今も「愚痴なら僕が聞くからさ。」って言っていたから、多分……この後、泣きながら怒るセレンディーナ様の愚痴やら文句やらを一通り聞いて、夕食の時間までに宥めてくれるおつもりなんだろうな。


 ……御主人様の双子の片割れって、大変そう。


 私はそっとアルディート様に同情しながらも、ありがたくのんびりシャワーを浴びたりゴロゴロしたりして体力と気力を回復した。



◆◆◆◆◆◆



 アルディート様のご配慮のお陰で、夕食時間の後の私の仕事も、つつがなく終わった。

 セレンディーナ様は「まったく、いい加減にしてほしいわ。お兄様は使用人たちに甘すぎるのよ!だから皆、つけ上がってしまうのよ!」とぷりぷり怒っていたけど、私に八つ当たりしたり必要以上に不機嫌を撒き散らしたりすることはなかった。

 最後に「わたくしは疲れたから早く寝るわ。貴女はもう下がっていいわよ。」と言われて、いつもよりも業務時間も短く終えられた。

 私は内心「ラッキー!今日はいい日だ!」なんて思いながら、御主人様に「それでは、失礼いたします。おやすみなさいませ、御主人様。」と挨拶をして部屋を出た。


 そしてこの夜の空いた時間に、飽き性の私にしてはうまく継続できている、もはや趣味と言ってもいいペペクル語の勉強でもしようかな〜なんて考えながら侍女用の自室に戻って──……そこでハッとした。


 あ!うっかり帰ってきちゃったけど、今日はいつもの就寝前のお飲み物を淹れてない!


 ……大丈夫かな、御主人様。

 怒られはしないと思うけど。でも今頃「あっ!」って向こうも思ってそう。多分、自力じゃお飲み物は用意できない……よね?

 どうしよう。御主人様の部屋に戻って何か用意した方がいいのかな?いや、今さらもう一回「失礼します」って入ってくなんて……迷惑かな?


 私は5分くらい悶々(もんもん)とした結果、そっと御主人様のお部屋の様子を窺ってみることにした。


 バレないように静かに様子を見て、大丈夫そうならもう一度お部屋に入ってお飲み物を用意する。お邪魔そうならそのままこっそり撤退する。

 よし。これでいこう。


 私はそう思って、足音を立てないようにそーっと廊下を歩いて、こそこそと御主人様のお部屋の前に戻ってきた。

 ──そのとき、



「……グスッ……グスッ……−−− −−−−−、−−−………グスッ。」



 部屋の中から、鼻を啜りながらブツブツと何かを呟く声が聞こえてきた。



 あれ?御主人様…………泣いてる?



 私は呆然として扉の前に立ちすくんだ。

 その間も、ずっとめそめそしながら何やら言っている御主人様の声が扉越しに聞こえてくる。


 ……どこかの地名か何かな?それとも、魔法?知らない単語ばっかり。


 呪文のようなその声は、独り言というより、何かを覚えるための音読のようだった。


 そっと中を覗くなんてできない雰囲気。でも何だか心配になってしまってそのまま立ち尽くしていたら、廊下の向こう側からちょうどタイミング良くアルディート様が歩いてきた。

 私は「あ、」と小さく口から声を漏らしかけて、慌てて口を閉じた。そして黙って静かに礼をする。

 扉の前にいることが部屋の中にいる御主人様にはバレない方がいいと思っての、咄嗟の判断だった。


 アルディート様はそんな私を見て、それからチラリと御主人様の部屋の扉の方を見て、すぐに何かを察したようだった。

 やれやれといったように声を立てずに静かに苦笑して、私を手招きして廊下を引き返しはじめた。


 ……「ついて来い」ってことだよね?


 私は無言で、足音を立てないように小走りでアルディート様の後をついていった。



◆◆◆◆◆◆



「セレナの部屋に何か用事か?忘れ物でもしたなら、僕が代わりに取りに行ってくるよ。」


 御主人様に話し声が聞こえないように、少し歩いて別の適当な部屋に入ったアルディート様は、私にまた気を遣って優しく提案をしてくださった。

 私はその親切心をありがたく思いつつ、首を振って経緯をお話しした。


「お気遣いありがとうございます。忘れ物ではないので大丈夫です。

 ただ、今日は『もう下がっていい』と言われたんですが、まだ就寝前のお飲み物を淹れていなかったことに気付いたので、様子を窺って必要ならばご用意しようかと思って戻ってきたんです。そうしたら……」


 ……御主人様が泣いていたから、入れなくって。


 私が最後の一文を言えずに口籠ると、代わりにアルディート様が苦笑しながら続けてくれた。


「なるほど。それで、部屋の中でセレナが泣いていたから入りそびれていたんだ?」

「……はい。」


 アルディート様は「それは気を遣わせてしまったね」と申し訳なさそうに笑って、それから私に軽く話してくれた。


「まあ、よくあることだから。そういうときは放っておけばいいよ、セレナのことは。飲み物くらい欲しければ自分で用意するだろ。」

「え?」


 …………「よくある」って?


 私がキョトンとしていると、アルディート様は呆れたように溜め息をついた。


「セレナはさ、ああ見えてけっこう要領悪いから。

 昔っからよく裏でコソコソ時間取って、ああして自習したりレッスンの予復習を泣きながらしてるんだよ。自分が納得いくまで。」

「……え、そうだったんですか。」


 意外。……っていうか、信じられない。


 ()()御主人様が?


 いっつも「わたくしは公爵令嬢だもの。このくらいできて当然よ。」って澄ました顔をしている、御主人様が?

 他人のことをすぐ「あなたまさか、こんなこともできないの?」なんて鼻で笑って馬鹿にしてくる、あの御主人様が……?


 私が驚いていると、アルディート様はそんな私の脳内の感想を聞いていたかのように追加で説明をしてくれた。


「あいつは知っての通り、プライドが高いから。自分が『完璧』じゃないと気が済まないんだよ。自分が『理想の公爵令嬢』になるまで妥協できないんだ。

 今日はまあ……ちょっとパーティーでさ、他の公爵家のご令息と話したときに、セレナが知識不足で会話についていききれなかった場面があったんだ。それが悔しかったんだろう。

 ……僕としてはあんなマニアックな魔法理論の知識なんて要らないと思うし、知らなくても恥じることじゃないと思うけどね。ただ、セレナは単純にショックだったみたいだな、自分の知らないことをペラペラと話されて。」


 ……御主人様。


 神妙な顔で聞く私に向かって、アルディート様は御主人様への愛のある愚痴をこぼした。


「素直で努力家なのはセレナのいいところだと思うし、双子の兄として、僕も見習いたいとは思うけどさ。

 でも、ああやって泣いてストレスを溜めてまでやろうとする加減のできなさや、泥臭い一面を隠そうとして『このくらいできて当然だ』とか言って逆に嫌味に思われてしまう不器用なところとか、その努力の水準を周囲の人間にも求めてしまうところなんかは、本当になんとかしてほしいと思うよ。

 僕としては、魔法理論の細かい知識を勉強する前に、そこら辺の態度をまず反省して改善してほしいんだけどな。

 セレナは周りに誤解されたり、嫌われたりすることばかりで……せっかくの長所も台無しだから。」


 ………………。


 私が反応できずに黙っていると、アルディート様は私に微笑みながら最後にこう言った。


「君も、セレナのあの性格のせいで随分と苦労しているだろう?悪いな。

 別にセレナのことは変に気遣わなくていいから。これからも、何か困ったことがあったら遠慮なく言ってくれ。」



 私は「じゃあ、引き留めて悪かった。おやすみ。」と去っていくアルディート様をぼんやりと見送って、それから御主人様のお部屋には行かずに自室へと戻った。



◆◆◆◆◆◆



 たしかに。アルディート様の言う通りかも。


 ……っていうか、落ち着いて考えたら、当たり前のことだったかも。



 私はその日、ベッドの中で今までのことを振り返りながら御主人様のことを考えた。


 うん、たしかに。そうだよね。

 今まで何となく、御主人様は「『公爵令嬢』だから美人で頭が良くて何でもできる」って当たり前のように思ってた。だって本人もそう言ってたし。

 だから「『侍女の私』とは次元が違って当然だ」って、なんとなく、そう思ってた。


 でも……言われてみれば、そんな訳ないよね。


 身分とか立場とか、それ以前に──御主人様と私は「同い年の女の子」。

 それに、1日は誰にとっても平等で24時間しかない。公爵令嬢なら時間が無限に湧いてくる訳じゃないんだもんね。


 私が最近の趣味にしてるペペクル語だってそうだ。

 最近勉強しているからこそ分かる。……御主人様みたいに、あんな風に流暢に会話をすることが、どれだけ難しいことなのか。

 御主人様は「公爵令嬢なら多言語習得は当たり前」みたいな口振りで、従姉様を「クゼーレ語を話さないなんて、わたくしとお母様、伯母(おば)様に対する侮辱だ」みたいに言っていた。

 そのとき私はぶっちゃけ「御主人様もそうだけど、従姉様も負けないくらい嫌な性格してる人なのかな」なんて内心思っちゃったりしてたけど……もしかしたら、従姉様は単純に「クゼーレ語に自信がなかっただけ」なのかも。だって、難しいもん。外国語でコミュニケーションを取るのって、本当に。

 ……まあ、もしそうだとしたら、御主人様の理論だと従姉様は「公爵令嬢のくせに多言語習得もできない貴族の恥晒し」ってことになって、どっちにしろダメってことになっちゃうけど。


 でも、そういうことだよね。

 私が野山を駆け回って遊んでた初等部の頃も、ダリアやミューリンと女子トークで盛り上がってた中等部の昼休みや放課後の時間なんかも、「宿題は明日でいいや」なんて後回しにして寝ちゃってた夜も──御主人様は私と違って、そういう時間に全部全部、一生懸命努力し続けていたのかも。

 ……っていうか、絶対にそうだ。

 そうじゃなきゃ、同い年なのにこんなに差がある訳がないもん。

 ペペクル語もペラペラで、学校でも当然のようにずーっと女子の学年一位らしいし。お顔は綺麗だし体型維持もバッチリだし。……そういえば、御主人様がだらしなく夜中にこっそり甘いお菓子をつまんでるの、見たことないかも。


 ………………うん。

 そうやって、昔っから毎日自分に厳しく生きてきたんだろうな。御主人様は。



 振り返ってみたら、本当にアルディート様の言う通りだった。


 御主人様は本当は裏ではとっても真面目な努力家で──それでいて、それを表での態度や口振りで全部台無しにしている人だった。


 あんなに努力して完璧な振る舞いができるなら、そのままそれを周りに自慢したり押し付けたりせずに、ただ優しく接してくれればそれでいいのに。


 あんな完璧なお嬢様に「ありがとう、エリィ。」なんて笑ってさらっとお礼でも言われたら、一発で心酔しちゃうのに。なんで「ふぅん。今日の紅茶は()()()()ってところじゃない?」なんて言っちゃうんだろ。

 従姉様ともペペクル語で格好良く会話していたんだから、それで「ふふっ、久々にお会いできてよかったわ。」なんてさらっと笑顔で言って終わりにしていたら、私はもう「御主人様、超賢くてお優しい!かっこいいー!」って惚れ惚れしちゃってただろうに。なんで従姉様の悪口を言った後についでに私の悪口まで付け足してきちゃったんだろ。


 なんか、本当に…………うん。本当に……


 ──……「勿体無い」人だなぁ。私の御主人様って。



 それでも私は、やっぱり今日の御主人様に刺激を受けた。


 私も「同い年の女の子」として、負けたくないなって思えた。

 悔しさと憧れから始めたペペクル語も、努力次第では自分も御主人様みたいになれるんだって、勇気とやる気をもらえた気もした。


 御主人様に「侍女として」負けないように頑張ろう!って今までは思ってたけど。

 それだけじゃなくて、「同い年の女の子」として並び立つことも……もしかしたら、できるかな?努力次第ではできるんじゃない?


 侍女の仕事も完璧で、学校の成績も優秀で、ペペクル語も話せてスタイル抜群、超絶美人な未来の私。

 それで、公爵邸にいらしたお客様に「え?!この御方が『公爵令嬢』様じゃないんですか?!こんなにお美しく教養もおありなのに?!」なーんて勘違いされちゃったりして!

 えー!それって、超かっこよくない?!


 またしても捗る妄想。高まるやる気。


 悔しいけど、ありがとう御主人様。


 明日からもっと、私、自分磨きを頑張ります。


 ……だから、あんまり泣いて無理してまで勉強してないで、今日はちゃんと寝てくださいね。



 私はこの日、御主人様と同じくらい美人で賢い「スーパー侍女」兼「男爵令嬢」になった未来の魅力的な自分を思い描いて、すっかりその気になって──……それで、不器用な御主人様のことをほんのちょっぴり心配しながら眠りについた。

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