波風立てず〈1〉
お待たせしております。
短めに、ちょっと挟んでおこうかと思いまして。
ショウが部屋に戻ってきたとき、そこはカーテンが閉められていた。
しかし窓は不用心にも開いたままで、窓は基本閉めないことが当たり前であると予想できた。確かに、外から見れば家々の窓はわずかに開いているところが多いように思える。窓の動きを制していた金具は、ショウが先ほど窓伝いに外に出るときに壊してしまったが。
元の通りに見えるよう金具を細工して部屋に入ると、光の入らない部屋の机には頼んでおいた軽食であろうものと燭台が置いてあり、その蝋燭にひとつだけ火が灯されていた。それらをひとつずつ目で追い、もしや気づかれたかと冷や汗をかく。
誰もいないと思しき室内の、まるで人が寝ているかのように膨らんだ寝台の掛布団を汚れていない右手で勢いよく取る。
出るときに偽装したまま、枕と部屋に置いてあったタオルの類がまとめてあった。
ほっと息をつく。
しかしまあ、こちらも不用心ではあった。軽食が届くまで待てなかったものか。
過ぎてしまったものはしょうがない。
カーテンを開け部屋に光を入れると、部屋は昼間のように明るくなった。無論、ショウにとっていくら今が夜間であると言われようと、昼間の感覚でいるのは変わりない。
左手の血濡れの布はどうしようか、適当に処理しておけば良いか。火の入っていない暖炉に投げ込む。
部屋にある流しの蛇口はひねれば動き、透明な水が出る。重たいまぶたを伏せ、赤黒く乾燥した膜の張った左手を流水に通す。
「冷た……」
罵るように出たそれにはしかし覇気がなく、ショウはそこでやっと疲れを覚えた。
少し体を震わせる。部屋の中に入ったとはいえ今まで屋外に上裸でいたのだから、そろそろ体を温めなければ体調を崩しかねない。
濡れた手を拭くのも大概にして枕の下から着替えを取り出し、さっと腕を通す。
軽食をつまみ、顔をしかめる。運ばれてきた直後はきっとあたたかかったろうが、冷めた食事を美味とは言いがたい。もともとないようなものだった食欲は完全に削がれてしまい、ショウはカーテンを閉めた。
いくら太陽が真上に位置していようと、今は疲れが勝っている。なかなか難しいところに立ってしまったものだ、しばしの休息をとるのも許されよう。
ショウは布団の中に詰めたタオル類をそのままに、端の方に体を倒した。