表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

波風立てず〈1〉

お待たせしております。

短めに、ちょっと挟んでおこうかと思いまして。


 ショウが部屋に戻ってきたとき、そこはカーテンが閉められていた。

 しかし窓は不用心にも開いたままで、窓は基本閉めないことが当たり前であると予想できた。確かに、外から見れば家々の窓はわずかに開いているところが多いように思える。窓の動きを制していた金具は、ショウが先ほど窓伝いに外に出るときに壊してしまったが。

 元の通りに見えるよう金具を細工して部屋に入ると、光の入らない部屋の机には頼んでおいた軽食であろうものと燭台が置いてあり、その蝋燭にひとつだけ火が灯されていた。それらをひとつずつ目で追い、もしや気づかれたかと冷や汗をかく。


 誰もいないと思しき室内の、まるで人が寝ているかのように膨らんだ寝台の掛布団を汚れていない右手で勢いよく取る。

 出るときに偽装したまま、枕と部屋に置いてあったタオルの類がまとめてあった。

 ほっと息をつく。


 しかしまあ、こちらも不用心ではあった。軽食が届くまで待てなかったものか。

 過ぎてしまったものはしょうがない。

 

 カーテンを開け部屋に光を入れると、部屋は昼間のように明るくなった。無論、ショウにとっていくら今が夜間であると言われようと、昼間の感覚でいるのは変わりない。


 左手の血濡れの布はどうしようか、適当に処理しておけば良いか。火の入っていない暖炉に投げ込む。

 部屋にある流しの蛇口はひねれば動き、透明な水が出る。重たいまぶたを伏せ、赤黒く乾燥した膜の張った左手を流水に通す。


「冷た……」


 罵るように出たそれにはしかし覇気がなく、ショウはそこでやっと疲れを覚えた。

 少し体を震わせる。部屋の中に入ったとはいえ今まで屋外に上裸でいたのだから、そろそろ体を温めなければ体調を崩しかねない。

 濡れた手を拭くのも大概にして枕の下から着替えを取り出し、さっと腕を通す。

 軽食をつまみ、顔をしかめる。運ばれてきた直後はきっとあたたかかったろうが、冷めた食事を美味とは言いがたい。もともとないようなものだった食欲は完全に削がれてしまい、ショウはカーテンを閉めた。


 いくら太陽が真上に位置していようと、今は疲れが勝っている。なかなか難しいところに立ってしまったものだ、しばしの休息をとるのも許されよう。

 ショウは布団の中に詰めたタオル類をそのままに、端の方に体を倒した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ