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いちのご メキナハのはなし

メキナハの過去編です。暗いです。

 人づてに聞いた話も入っていますが、と前置きしてメキナハは話し始めた。



「まず、確かに私は現在、十九歳で、二年前の入国は年齢も事実を申告しています。十七歳だった私が単独入国できたのには、ジザの、そうですね、昔話と関連があります。



 その昔ジザには、首長の息子兄弟がおり、名前を赤と青といいました。兄の青は大変優秀でしたが、一族が婚約者に決めた年上の女性を嫌って婚約を一方的に破棄し、弟に首長の座を譲り、自ら選んだ女性を娶り男児の白ができました。


 赤と青の二人は仲の良い兄弟で、協力し合って国を強くしましたが、首長の座を譲られた弟の赤は、兄が潜在的な敵であることを知っていた。今は協力的でも将来は分からない。甥の白を次の首長にしたいと思う日が来るかもしれない。首長としては、有能な兄を警戒しつつも、できる限り友好な関係を保っておきたい。


 そこで弟は兄に約束した。将来、自分に娘ができたなら、必ず兄の息子の白にやると。一族間の婚姻は信頼を意味します。弟の申し入れに兄は喜んだ。


 しかし弟は、一族の女性と結婚しても子ができなかった。彼にとって都合悪いことに、彼の妻でない女性に男児の緑ができた。兄の子の白は一族の女性でない母を持ち、弟の子の緑は妻の子ではない。どちらも後継者となるには難がある。


 さらに悪いことに、その後、兄の妻と息子の白が、何者かに誘拐され殺されてしまうという事件が起きた。白はまだ七歳だったそうですよ。


 犯罪集団ジザの頂点にいる兄弟とその家族。誰に狙われても不思議ではなかった。しかし自分が疑わしい立場だと弟の赤は自覚していました。自分の息子の緑が後を継ぐのに一番の障害となるのは甥の白ですからね。


 後に真犯人は、兄の青との結婚を打診されていたのに兄に拒絶された一族の女性とその家族であることが分かりましたが、随分と後の話です。その女性の一家はその後、兄の青によって根こそぎ殺されたと聞いていますが当時は犯人は不明だった。


 自分への疑いの心が兄の中に生まれているのを弟は感じ取った。何とかせねばと弟は思った。彼は兄の元に行き、訴えた。自分はこの事件に断じて加担していない、兄を信頼し、その息子である甥を愛していた。証拠に、あの約束はまだ有効だ。娘は必ずやる。


 兄の青は激怒したそうですよ。まだいないお前の娘を、もういない俺の息子に添わせるという約束かと。実際に娘を連れて来てから言えと。


 兄は、妻と子を失った悲しみからそのように言いましたが、本当に弟の娘を連れて来て欲しかったのではなかったのかもしれません。しかし、弟は必ず連れてくると言ったそうです。


 ですが、弟にはどうしても他に子ができなかったのです。彼は若い娘を誘拐することまでし始めましたが全くできません。


 彼はついに、『落ち人』の女性を拉致しました。そして彼女を妊娠させたのです。


 『落ち人』の女性は魔力のある子供を宿すと命を落とす、というのは、よく知られる事実です。果たしてその『落ち人』の女性は弟の子を宿し、その子の月満ちる前に亡くなった。亡くなる直前に腹から取り出されたのは女児でした。


 ついに弟の赤は娘を手に入れました。一族の特殊な魔力が確かに受け継がれていることを聞くと、赤子の顔を見る事もなく兄のところへ届けさせました。


 兄は届けられた女児を持て余した。妻も子もいない今さら、どうしろというのか。彼は自分の武術の師であった『落ち人』に女児を引き取らせました。


 その後、一族は兄の青が一人でいることを許さなかった。彼は一族の女性と再婚し、息子の黒が生まれた。前妻と白が亡くなって五年、女児が産まれて一年が経っていました。女児は将来、黒に与えられる事になりました。


 女児を引き取った師はジザを出てハビに移り住み、娘にできる限りの教育を施し女児を守りましたが、その子が十三の時に亡くなりました。娘はジザの黒の元へ送られました。そこで黒と初めて対面するのです。


 兄の再婚相手の女性はその娘を息子の将来の嫁とは認めず、息子の黒は娘をどう扱ってもいいものとして扱いました。


 事件は娘が十五、黒が十四の時に起こりました。黒は十四歳にして大人顔負けの体格で、非常に獰猛、十歳年上の一族の女性を正妻と呼び、その女性との間にすでに子までいました。

 

 ある日、黒は、娘が見知らぬ青年と連れ立って歩くのを目撃します。怒った黒は、この青年を殺してしまうのです。その後、娘を襲った。


 娘は武術で反撃し、黒は青年を殺した自分のナイフで顔を傷つけられた。


 娘はハビに逃れました。顔に傷をつけた女を切り刻んでやると言って黒は追いかけ、邪魔をする者たちも傷つけました。彼はハビで逮捕され終身刑となりました。


 娘はさらに、祖国の悪行を告発しました。近隣諸国はこの盗賊集団の国の非道な犯罪や略奪に手を焼いていたので、娘の証言といくつかの証拠を元に、これ幸いと三ヶ国同盟を結び軍隊を派遣してその国を討伐したのです。

 首長の赤、青の兄弟は、主要な重役たちと共に仲良く処刑されました。


 兄の子の黒は終身刑ですが、弟の庶子の緑は残っています。また赤と青の妻たちも軟禁されてはいますが健在です。各国の軍隊は駐留していますが、残党もおり復讐を企んでいるため、娘は国を転々としながら暮らすようになりました。



 

 これが私の背景です。三国同盟が私の経歴などを用意してくれました。ジザからの追及をかわすためです。名前や身分証など……。

 ただ、単独での入国に年齢制限をかけているカイレーには、私の年齢では入れなかったし、私には家族もいませんでした。だから私は三国同盟の特別措置として入国しました。そういった意味では、確かに私は正規の方法で入国したのではないということになるのでしょう。強制送還の対象となるかは微妙なところですが、指名手配が妥当と判断されれば送還されることになります。



 私がジザに戻れば、おそらく残党や義母たちは私を殺そうとするでしょう。あの人たちは、討伐を始めとするジザ没落の全ての原因は私だと思っているのです。


 ジザから出る直前、黒に殺されたあの青年の遺族からは、お前が大人しく首長たちの言うことを聞いていれば、あの子が殺されることもなかった、お前が殺したも同然だと罵倒されましたが、一理あるなと思いました。私がここにこうしているために、母も、赤子を押し付けられた養父も、ハビで傷付けられた人々も、殺されてしまったあの青年も、犠牲になったとわかっています。


 だからこそ、私は諦めるわけにはいかなかった。あの国を、あの犯罪集団を、そのままにはできません。私の強制送還が避けられないのならば、あの国を今度こそ道連れにするつもりです」



 彼女が口を閉じると沈黙が落ちた。誰もがなんと言っていいかわからなかった。イイタダイとシィトゥーハは真っ青で、コリュモは泣いていた。ガレシュは握り締めすぎた掌を開いた。


 メキナハは静かだった。真っ直ぐに前を向き穏やかに続けた。


「送還されるとしたら、いつになりますか?」


 動揺する自分を叱咤しセヌリューバは返答した。


「あ、ああ。このままだと、一月ほど後になるだろう」

「そうですか、ではそれまでに済ませたいことがあります。私は拘束されますか?」

「……いや、君の事情がわかった以上、監視下に置いた上で一日一回出頭してもらう。毎朝仕事の前に顔を出してもらおうか」

「ど、どこに行くの?」


 シィトゥーハが恐る恐るといった風に声をかける。


「どこにも行きませんよ、身辺整理をしたいだけです。関係各所に提出したいものもありますし」

「何をするつもりか知らんが、」


 ガレシュがかすれた声をあげた。


「手伝う」


 初めてメキナハが動揺を見せた。ガレシュをじっと見つめていたが、ふと目を伏せた。


「……ありがとう、ございます。大いに頼りにさせていただきますね」


 これは全く頼る気がないな、とその場の全員が思った。


「要するに、強制送還にならなければいいんでしょう?わかった!」


 シィトゥーハがメキナハの両手を取った。


「キーナちゃん!結婚しよう!」

「……は?」

「いい考えでしょ?!結婚すれば住民権ができるし、この国の住民権があれば送還されないし、僕、まだ学生だけど、キーナちゃんが好きだし、面白いし!」


 セヌリューバが立ち上がり、メキナハの手を握るシィトゥーハを振り解いた。


「何バカなことを言っている!この国で住民権取得目的での婚姻は御法度だ!大体、そんな理由でこんな場所でプロポーズする奴がいるか!メキナハ嬢にも失礼だ!大馬鹿者!」

「何言ってんの、愛ある結婚に決まってるでしょ、愛してるよ、幸せになろうね、キーナちゃん!」


 一同が絶句する中、メキナハが言った。


「シィトゥーハさん、ありがとうございます。でも、さすがにプロポーズはお受けできません。お気持ちはありがたいのですが」

「じゃあ、どうするのさ!このままきみが殺されるのを、ただ見てろって言うの?」

「そう簡単には殺されませんよ」

「そんなこと言って、このままきみに何かあったら、僕らがどんな気持ちになるか考えてよ!」

「だから結婚ですか?それはちょっとさすがに……。こうなったことに、皆様に責任はありませんし、さらに言えば関係もありません……」


 セヌリューバが片手を挙げてメキナハを制した。


「責任も関係もなくとも罪悪感はある。このままでは寝覚めが悪くて仕方ない。まだひと月ある、いい手を考えよう。だからくれぐれも一人でどうにかしようと突っ走らないでくれ。シィトゥーハも、こんなプロポーズしたら、必ず後悔する。予言してもいい。いいか、ここは慎重にいくんだ」


 メキナハは奥歯を噛み締めて俯いていた。今夜中にこの国を出る計画は、これで事実上不可能になった。ここで逃亡すれば本格的な国際手配だ。

 こんな時、師匠はなんと言っていたっけ?次善の策、プランBだ。ジザまでタダで送ってくれるというのなら、そうしてもらおうじゃないか。

 メキナハはようやく顔を上げて微笑み、頭を下げた。


 一人で先走らないこと、些細なことでも相談することをメキナハに約束させて(約束した方もさせた方も守れる自信は全くなかったが)、各々は重い足取りで帰路についた。





ありがとうございました。

後一話でひと段落になります。

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