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番外 ある日のふたり

やっとここまで来た!

よろしくお願いします。



 ガレシュは頬杖をついて、メキナハが書類と格闘するのを見ていた。メキナハと出かける約束で彼女を部屋まで迎えに来てみると、彼女はどうしても明日の朝までには提出しなければならない書類が終わらないと四苦八苦していたのだ。


「なににそんなに苦戦しているんだ」

「武術教室の、なんていうんだっけこういうの、えーと収支計算?」

「ああ……。キーナは計算が苦手だよな」


 ガレシュはくすりと笑った。


「人が苦労しているのに、笑わないでよ……」


 メキナハがぐったりと呟いた。


「悪い。伝説の戦士も数字には弱いのかと思ったら、可愛くてね」


 メキナハはみるみる真っ赤になった。


「もう。からかわないで」

「だからさっきから、手伝いを申し出てるだろ?計算のところだけでいいから」


 おずおずと書類を手渡すメキナハを眺めながら、ガレシュはつくづく人に頼るのが下手な子だと苦笑した。彼はメキナハの額を指で弾くと、書類に目を通すやいなやスイスイ解いてしまった。


「どうやったらそんな風に素早く計算できるのかしら。私にはよっぽど魔法だわ」


 ガレシュは声を上げて笑った。


「大変光栄です、師匠」


 ガレシュはメキナハの教室の生徒の一人である。


「実は、コツをクダツー副主任に教えてもらったんだ。文官出身だから知識があるのかと思っていたけど、『落ち人』だったんだな、気付かなかった」

「言わないで、それ。私も本人から聞かされるまで、全く気付けなかったのよ」

「……あの人が巧妙なのか、君が鈍いのか。俺は後者に一票だ」


 ガレシュは笑ってメキナハの頬をつついた。メキナハは真っ赤になりながらもそっぽをむいた。


「計算は本当に苦手。どれだけ練習しても、ちっとも上達しないんだもの。まさかまたこんなに苦労するとは思わなかったわ、子供の頃、少しだけ学舎に通ってたんだけど、卒業する時、計算とは永遠に縁切れだと思ってたんだけどなあ」


 ガレシュはメキナハの頬を解放しない。


「君、育ての親は『落ち人』だろ?数字に強い人が多いっていう印象があるけど、教えてもらわなかったのか?」

「人間なんでも苦手なものはあるものだな、って、サジ投げられちゃった」


 ガレシュは大いに笑った。


「そう、誰にでも苦手はあるものさ。俺だって、絵心は全くない。子供の頃、鳥の絵を描いて、この木、なに?と言われたことがある」


 メキナハも大いに笑った。そしてほんの少し緊張もしていた。ガレシュが過去について話すことはほとんどなかったからだ。


「どんな絵なのか、見てみたかったわ。でも絵心はなくてもそんなに支障ないじゃない。計算は今現在、支障が出まくりだわ」

「そうか?兄貴の顔を描いたら、呪われそうだから二度と描いてくれるなと言われたぞ?」

「……ますます見てみたいわ!」


 二人は笑い合った。


「はあ、やっとできた。ありがとう、手伝ってくれて。これで提出が間に合うわ。つきあわせちゃって、ごめんなさい」

「……今から出かけるには少し、遅いかな。このまま今日は、ゆっくり部屋で過ごすってのはどうだ?」


 そういうとガレシュはメキナハを抱きしめ、唇をついばみ始めた。


「ン……。いいけど……。どこへ行くつもりだったの?」

「うん……?君、今、この状況で、それを言い出すのか?」

「え?だって……、驚かせたいことがあるって言ってたじゃない?」


 ガレシュは名残惜しそうにメキナハを離すと、大きなため息をついた。


「……仕方ないな。君、俺が、前に連れてきたハネウサギを覚えてるか?」

「もちろん!すごくかわいいコだったわ!」

「あいつがヒナを産んだんだ。しかも六羽も」

「ええっ!?すごいじゃない!」

「そう、珍しいらしいんだが、さすがに友人も全部は育てられないらしくてね、俺が一羽貰うことにしたんだが、君も欲しいんじゃないかと思ったんだ」


 メキナハはみるみる目を輝かせた。


「ほ、本当!?それで今日、訪ねていくつもりだったの?嬉しい!ありがとうガレシュさん!」

「……レジーだ」

「ありがとうレジー!大好きよ!ちょっと待ってね、すぐ支度するから!急いでいきましょう!」


 メキナハは飛び上がってガレシュの頬に口付けた。小柄な彼女は、そうでもしないと長身のガレシュに届かないのだ。にこりと笑うと、身を翻して奥の部屋へと消えて行った。


「……こうなる気はしたんだが、まあ、いいか」


 ガレシュは苦笑して、聞こえてくるメキナハの楽しげな鼻歌に耳を傾けた。



 この時貰った二羽のハネウサギは、ガレシュの茶色のがスコシュ、メキナハの白ウサギはリルーと名付けられた。二羽は怖がりな親ウサギには似ず、活発で好奇心旺盛だった。飼い主に似たんだろうとガレシュは言うが、ガレシュだって飼い主だ、とメキナハは思う。

 二人と同様に二羽も仲が良く、メキナハとガレシュのお互いの家に出入りするようになる。メキナハはできる限りハネウサギたちを連れ回り、その度にデートの邪魔をされたガレシュに睨まれることになるのだった。


今回で、今作が全て終了となります。

長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

とても楽しく書くことができました。

皆様にも楽しんでいただけたのなら嬉しいです。

感想などお聞かせいただけたら、今後の参考にさせていただきます。

どうぞよろしくお願いします。


さて、新連載を始めたいと思います。

以前書いた作品なので今作以上に拙いのですが、「人生恥かいてナンボだな」と今作を通して学びましたので、勇気を奮って連載したいと思います。わー!宣言しちゃった!次作もお付き合いいただければ嬉しく思います。


また以前にも書きましたが、今作には書き残しが多くありますので、いずれ続きを書きたいです。その際にはまたよろしくお願いします。


それではまたいつかの週末で!ありがとうございました。


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