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番外 トキのはなし

シキの一族ではじめて『落ち人』を呼んだトキという人物のおはなしです。メキナハの高祖父です。

 トキは七歳の時、空からキラキラと光の粉が降ってくるのを見つけた。

 首長である父にも、その妻である母にも、トキの兄にも見えないらしい。あんなにキレイなのに見えないなんて可哀想だとトキは幼心に同情した。

 キラキラはやがて、女の人になった。空から落ちてきたお姉さんは、トキの住まいである神殿に連れて来られた。


「お姉さん、どうしたの?」


 お姉さんは言葉がわからないようだった。仕方がないのでトキがその女性の頭を撫でてやると、女性はトキを抱きしめて激しく泣き出した。

 女性が泣くと、光の粉がその人からも自分からもたくさん出た。なんてきれいなんだろうとトキは思った。

 何日かするとそのお姉さんは、どこかへ行ってしまった。トキは、もうあのきれいなキラキラを見ることができないのかと思うと悲しくて、あのお姉さんに会いたいと泣いた。

 周りの大人たちは、あの人は言葉を習いに行っている、そんなに気に入ったのならまた会わせてやる、と約束してくれた。



 しばらくすると、お姉さんは本当に戻ってきた。どこかずっと遠くへ行かなければならないけれど、その前にトキに会いにきたのだという。

 でも、お姉さんは変わってしまった。言葉はわかるようになっていたけど、もう泣かないし、もうキラキラしない。悔しかった。


「泣き虫お姉さん、もう泣かないの?」


 お姉さんは恥ずかしそうにトキを見た。


「はずかしいです、いわないで。もう平気。もう考えない。戻れない、のだし……」


 お姉さんは唇を震わせ始めたが、トキは無邪気に続けた。


「ねえ、なんであんなに泣いてたの?痛いの?怖いの?さみしいの?」


 お姉さんは口を開きかけたが、何も言わずに閉じた。あっという間に目が潤み始める。すると、わずかながらあのキラキラが出てきたではないか。トキは嬉しくなった。

 お姉さんがもっと泣けば、キラキラが出る!


「お姉さんは泣いたらキレイ」

「え?」

「お姉さんは泣いたらとってもキレイだから、悲しかったら泣いちゃえばいいんだよ!」

 

 お姉さんは涙をポロポロと流し始めた。


「泣いちゃっても、いいのかな……」

「いっぱい泣いて!いっぱい叫んじゃえばいいよ!」


 トキの言葉にお姉さんは激しく泣き出した。わからない言葉で叫んで、床をドンドンと叩きだした。するとお姉さんだけでなく、トキも眩しくキラキラしだした。

 あー、すごくキレイ。ぼくもキレイ。もっと、もっといっぱい!キラキラ、おいで!

 いっぱい、おいで!

 



「道が開いた!落ちてくるぞ!」

「なんだってこんな急に!とにかく、急ぐぞ!」


 大人たちが騒ぎ出した。トキも外に出てみると空が光っている。またキラキラが来るのだ。トキは有頂天だった。


「やった!やっぱりぼくはキレイなキラキラなんだ!あのキラキラを呼べるんだ!」


 その言葉を聞きとがめた父親に、しつこく追求されることになるとも知らずトキは大声で繰り返した。




「あのお姉さんが帰りたいって泣くと、キラキラが出るんだ。キラキラがいっぱい出ると、ぼくからもいっぱい出て、それでぼくが、もっと来て!って呼ぶと、空が光って、空から人が落ちてきて、ぼくも落ちてきた人も、みんなキラキラの光の粉ですごく光るんだ」


 トキは懸命に説明するが、父親は渋い顔のままだ。ぼくが呼んだのに、なんで褒めてくれないんだ!


「いいかい、このことは誰にも言ってはいけないよ。それに、もう二度と『落ち人』を呼んではいけない」


 トキは驚いた。父親の言葉が信じられなかった。なんでそんなひどいことを言うんだろう?僕はまたあのキラキラが見たいのに。


 だがまだ幼いトキにとって父親であり首長の言葉は絶対だ。俯いたまま、小さな声で答えた。


「……わかりました、父さま」




 それ以来ずっと、トキは機会をうかがいながら成長した。いつかあのキラキラの人を呼んで、また自分もキラキラと輝くのだ。





「僕は今でも『落ち人』を落とせるんですよ、父さん」


 トキと兄のヘキが成人して後継者を決める際、トキは父にささやいた。


「だから、僕が継手です。意味はわかるでしょう?」


 父がそれを脅しと取ったのかはわからないが、トキが次代の首長である継手に指名された。


 父はわざと『落ち人』を落とすことに反対なのだ。そして彼らは我々にとっては恵みであり、その犠牲の上にもたらされる自然からの恵みに感謝しなければならないという。

 そんなことを言っているからジザはいつまで経っても貧しいままなのだ。他国を侵略し略奪して暮らしているのに、盗賊集団、犯罪集団として他国の人々を誘拐することだってやっているのに、この地の者は略奪してもよくて、美しい光の粉の者たちは呼んではいけないとは矛盾だらけだ。父はジザの首長としては小心者すぎる。

 しかも、父はトキが何度かこっそりと落とした『落ち人』たちを他国に売りつけているのだ。父はトキがわざと落としていることを薄々と察していただろうに、それで得た収入で暮らしているのだ。矛盾も甚だしい。どうせ父のことだ。帰してやれないのだからこうするより仕方ないとか、困窮する民を見捨てられないとか、理由をつけて矛盾から目を逸らしていたのだろう。


 トキは首長となり父を引退させた。父は何かを諦めたように、全てを振り捨ててジザの「神殿」から出ていった。



 兄のヘキは、あっさりと首長の座を手放した。首長は孕み様と、首長の兄弟は『落ち人』と結婚するのがよいとされていたので、以前からの恋人と結ばれたかった兄は首長を退いたのだ。兄は慣習通り『落ち人』の女性と結婚して娘が生まれる。『落ち人』の女性が出産で亡くなるのを予想して期待していたらしい。最初の妻を亡くした兄は、すぐに恋人と再婚した。



 首長となったトキは多くの『落ち人』を落としジザを繁栄させた。彼は慣習通り孕み様と結婚し、子供は三人産まれた。上の二人が男子、末の子は娘だった。長男は首長になりたがっていたが、彼からは光の粉が出なかった。次男のハギは強い光の粉が出た。トキは迷わずハギを継手にした。


 継手から外された際、トキの長男は荒れた。トキは間違っていると真っ向から糾弾したので、トキは彼を神殿から追放した。

 長男は困窮の中、彼の子供や孫たちに、ジザの正当な首長の血筋は自分たちだ、首長の座に居座る弟脈の者たちから、必ず自分たちの手に首長の座を取り戻さなければならないと説いた。

 この言葉を真に受けて育ったのが孫娘のオウニだ。彼女は成長すると、祖父の遺志を果たそうと行動した。まず当時の首長ソホに近付き愛人となるが、子供が望めなさそうだとわかると、さっさとソホに見切りをつけ密かにソホの兄ゴスと通じ、産まれた息子ロクをなんとか首長の座につけようと暗躍することになる。



 トキは、末娘は『落ち人』と結婚させた。この『落ち人』の男は、はじめは落とし役を考えていたが、なんとも頑強で頑固だったので落とし役には向かなかった。しかし、とてつもない武術の達人だったのでシキの一族に取り込むことにしたのだ。


 この男は長寿だった。鍛え抜いた故だろうか。だが、トキから数えて四代後の首長の娘を預かって育てることになるとは、誰も、本人ですら予想だにしなかったことだろう。


 ハギの息子がキンだ。幼い頃から残忍な性格だったが、光の粉はトキよりもさらに強く持っていた。落とし役をなぶりすぎるきらいはあったが、多くの『落ち人』を落とした。トキは頼もしい孫に大いに満足した。


 あの孫がいれば、ジザとシキの一族は光の粉に守られて繁栄していくだろう。光の粉が溢れる美しい世界になるだろう。千年の栄光を夢見てトキは眠りについた。






ありがとうございました。

ジザの歴史でした。

あと一話、番外を明日、投稿します。

最後くらい、イチャイチャさせたい……


よろしくお願いします!

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