さんのなな
こんばんは。
今回短いですが、どうぞよろしくお願いします。
全員が集まった会議室で、まずはマサが真剣な顔で告げた。
「私は確かにシデスラの一族に仕えているが、ジザの件に関しては力を貸す。たとえシデスラの不興を買ってもだ。知っているだろうがシデスラの家には後継者争いがあって、他国であるジザや『落ち人』に深く関わる意思も余裕もない。常々歯がゆく思っていた」
「シデスラの旧王家はモッパートが力を持ちすぎていると感じて力を削ぎにかかっているとの噂を耳にしているが?」
ヘッシガーキの言葉にマサは頷いてみせた。
「それは本当だ。その一環でご子息のセヌリューバ殿やその部下たちを国境へと派遣するように手を回した。私にはアーニーの件をうやむやにしたいという思惑もあった」
ヘッシガーキは深いため息をついた。
「私には旧王家をないがしろにする意思はないんだがなあ。まあ、その件は後回しだ」
ヘッシガーキは砦の見取り図を広げた。
「まずは元首長の妻タイシャの身柄を押さえる。ジザの外れの別宅にいるというから、こちらは容易だ。
砦にいるゲンの母キガラと、元首長の愛人オウニ、その息子のロクの三人は必ず確保したい」
「ちょっといいだろうか」
グエンが思いついたように声を挙げだ。
「用心することがある。ハビの出先所の建物が倒壊したそうだが、ジザの建物の中にはわざと倒壊するように作ってある物がいくつかある。あの砦もそうだ。カナメと呼ばれる七箇所を同時に壊すと全体が倒壊する仕組みらしい」
「七箇所同時に?可能なのか?」
「……もちろん、カナメを壊す役は無事では済まない。先だっての出先所の倒壊で命を落とした者の中には、カナメ破壊役がいたと思う」
「……命を捧げるほど忠誠心を持った連中とも思えなかったがな」
「そのあたりの事情はわからん、危険を知らせずにやらせていたのかも」
沈黙が落ちた。怒りに満ちた沈黙だった。
ロクに違いない。メキナハは思った。
カナメとやらの位置を知り得る上に、下っ端を簡単に犠牲にする人物。メキナハは奥歯を噛んだ。
「……なるほど。砦の攻略中に倒壊されては困る。そのカナメとやらがアーニーの見取り図にある印か。まずこれを守りつつ攻略しなければならないな」
ヘッシガーキの言葉に皆が頷いたのだが。
「あの……」
メキナハが遠慮がちに言い出した。
「難しいかもしれないのですが、ひとつ気になることがあって」
ヘッシガーキも、もう十分学習した。メキナハがこんな風に言い出して、その後の言葉に驚かなかったことがないことを。
身構えてメキナハの言葉を待った。
「私を拉致した、あの砦にいた男ですが、聞いたことのない訛りがあったのです」
「聞いたことのない訛り?この周辺諸国のではなく?……『落ち人』だったのでは?」
「そうかもしれませんが、『落ち人』の皆様は、全く違う言語を学ぶせいか、訛りという点ではさほどひどくないのが通常なのです。ですが、あの男の訛りは、なんというか……。どこかで聞いたことがあるような気もするのですが思い出せません。ですがもう一度聞けばわかるかもしれません。それで……」
「生きたまま捕縛しろということか?」
ヘッシガーキは頭を抱えた。なんという難題を持ちかけてくるのだ。しかし、メキナハの言う通り彼女らの拉致にいずれかの国が関わっていたかもしれないのなら、それは解明されなければならない。
「……隠し通路の出口は今すぐに押さえよう。逃亡しようとした者は捕縛する。ただし、砦側には気付かれないようにな。
そしてハビやオイノの軍と共に陸と空と隠し通路から一斉に攻略する。これ以外にあるか?」
ヘッシガーキが言うとマサはアゴに手をやって考え込んだ。
「攻略とは具体的には?」
攻略の時は来た。奇襲だ。
カイレーとハビやオイノでは、軍の指揮系統などが多少異なる。齟齬を産まないよう基礎的な訓練をした上で、潜入部隊を率いてガレシュはイイタダイと共に隠し通路からの侵入を図る。アーニーの手記にある通路は三ヶ所だ。
当然だが通路の出口はわかりにくく、中からは開けられるのに外からは難しい。ここで手間取るわけにはいかないので三ヶ所とも破壊することになった。
ガレシュとイイタダイは居住区に直接通じている通路から侵入した。ガレシュの班はシキの一族を、イイタダイは拉致された『落ち人』を探す。視力や聴力を強化して、ガレシュは探索を急いだ。
メキナハの部隊は空からの接近を図る。空からは陽動の役割が大きい。せいぜい目立ってやろう。
空からの投石で砦の塀や物見のヤグラを破壊すると、滑空機で次々に降り立った。門を開かせ、砦を包囲していた者たちを招き入れる。
抵抗はほとんどなかった。
一部屋一部屋、人の気配を探っては捕まえる。使用人だろうか、中には年若い少年少女らもいて、怯えて逃げ惑ったり暴れたりする。いちいち説得する間もないので、泣き叫ぶ者も有無を言わさず捕縛する。完全なる悪役だ。
ついにメキナハは隠し部屋を発見した。数人で押し入ると、部屋の中には前首長の愛人、ロクの母親のオウニが血の海の中に横たわっていた。メキナハの姿を見ると弱々しいながらも罵りはじめた。
「お、オマエは……!オマエ、ソホの娘!ジザを売った裏切り者!そうか、オマエのせいね……!あの子、あの子が、わたくしにこんなことをするわけが……!オマエがそそのかしたのね!自分の父親も叔父も殺して、婚約者も殺して、この、悪魔……」
完全なる濡れ衣だがそのまま気を失ったオウニには届かない。悪魔は自分達の方だと思い知ることになるだろうとメキナハは思った。もちろん、このまま命が助かればの話だが。
別室ではゲンの母、キガラが事切れていた。発見したのはガレシュだ。キガラは剣で襲われていて、その傍には血痕が点々と落ちていた。誰かが怪我を負っている。血痕の量からして重傷だ。
跡をたどっていくと、隠し部屋の通路にロクがうずくまっていた。
「公用語がわかるか?誰にやられた」
「キガラ……キガラあいつ、に……」
反撃されたのだという。
「母も、キガラも、邪魔だった。逃げようとしたら、見捨てるのかって……。あんなの二人も連れてりゃ、逃げられない。
こんなはずじゃ、なかった。『落ち人』たちが、ジザを守る、はずだった。オイノだってハビだって、もう『落ち人』を渡さないと脅せば、いつだって従っていたのに、また派兵してくるなんて、思ってなかった……。トナクだって、上手くいくと言ってたのに……」
「トナク?」
「トナクが、裏切ったのか?嘘だったのか!?あいつ……。許さない……」
ロクは深い傷を負っていたが命に別状はないだろう。しかしどの道、この男は処刑を免れ得ない。
砦はあっけなく落ちた。
メキナハが呼ばれ駆けつけてみると、男がひとり捕えられていた。
「何にも知らないんだ、命令されただけなんだ、助けてくれ!」
それは、あの訛りの男だった。
メキナハは近付くと男の言葉をなぞって鼻で笑ってやった。
「面倒くせえからそういうのはいいから」
「お、お前!あの化け物!」
失礼な奴だ。そしてやはりおかしな訛りがある。
「トナクさん?」
「……!」
「元気そうで残念だわ」
「……」
「たった一人で、お散歩かしら」
「……」
「答えてくれないんなら、もういらないわ」
「どっ、どうする気だ!?」
「さて、どうしようかしら?まずは移動してもらわないと。無理矢理連れて行かれるのと自分で歩いて行くのとどっちがいい?」
「こ、この女……!!調子に乗りやがって!!」
「ああ、そういや乗馬は下手くそだったわね、輿なんて用意してないから、自分で歩いてちょうだいね」
「……畜生、覚えてろよ、いい気になるのも今のうちだ、こんなことしてタダで済むと思うな!!」
男は引っ立てられながらもずっと独創性のない呪詛を吐いていた。
メキナハはガレシュと二人、男が連行されていくのを見送った。
「なにか思い出せそうか?」
メキナハは首を振った。やはり聞いたことはある。だが、思い出せない。
「それにしても、アイツずいぶん強気ね。どうタダで済まないのかしら」
「そうだな、やはり後盾があるのかもしれないな」
「外国のね」
二人はため息をついた。嫌な予感ほど当たるものだ。
「なんでわざわざあんな挑発をしたんだ?」
ガレシュが男の後ろ姿を見ながら尋ねた。
「挑発したってバレちゃった?……怒ったりして気持ちが昂ったら、訛りが強く出るかなと思って」
「恨まれるぞ」
「そうかもしれないわね。……ごめんなさい」
「……痛くもかゆくもないと思ってるだろ」
メキナハは赤くなって俯いた。
言い当てられて嬉しいとか、ますます恥ずかしい。
こんな気持ちまで筒抜けなのだろうか?表情の抑制は得意なはずなのに、とガレシュをそうっと見上げると、彼は真剣な目でメキナハを見ていた。
「そこ!イチャイチャするならよそでしてくれ!!」
「いや、よそでもやめて!」
クダツーが叫ぶと、すかさずシィトゥーハが指摘した。
ロクは今回の件には二人の共犯者がいると供述した。
一人はトナクという「訛りの男」。もう一人の意外すぎる人物に、ヘッシガーキは会いに行った。
あまり詳しく描写しないであっさり書こうととしたら、ずいぶん短くなってしまいました。
残りあと一話!がんばります。
では、また明日!




