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にのに

よろしくお願いします。今回短いです。

 


 メキナハはコリュモの騎士団の寮で、コリュモら女性騎士たちに取り囲まれていた。


「やっぱりキーナちゃんの黒髪には、こっちの服が似合うわよ!」

「ダメよ、全体的に暗くなっちゃうじゃない。やっぱこっちの明るい色じゃなきゃ。ね、ちょっと着てみて!」

「キャーッ、いい、いいッ!似合う!これでいきましょうよ」

「でもこっちも捨てがたいのよね。ね、途中でお着替えするのはどう?」

「お化粧は任せて!あぁ、儚げ美少女系がいいかしら、それとも凛々しい美少女系?」

「……あの」


 彼女らの着せ替え人形となって随分経ったが支度は一向に進まない。


「騎士様方。皆様、徽章に手を置いて、このお着替えが本当に絶対、今回の任務に必要だって誓えます?」


 彼女らは一瞬、お互いを見合って目を泳がせたが、「モチロンモチロン!」「トーゼントーゼン!」などと言いながら右手で左胸の徽章に触れる宣誓をしてくれた。


「大丈夫よキーナちゃん、本番までまだしばらくあるんだし、それまでたっぷり堪能、いやその、厳選して、ピッタリの一枚を見つけてみせるから!そんな訳でハイ、これも着てみて!カイレーの伝統的な衣装なんだけど、華やかなのに動きやすくて、キーナちゃんの要望に合うでしょ?それとこっちはねぇ……」


 メキナハは、他国の来賓を招いてのパーティに出席するための衣装を、適当に見繕ってほしいと頼んだだけだったのだ。本来なら養母となったテーダカッゼに依頼すべきだが、彼女はすでにノゼンタと共にモッパートへ発った。自分のセンスに自信のないメキナハは、仕方がないとため息を押し殺して差し出された服に袖を通した。





「パーティ」の準備や、モーパット行きの準備や、その他雑事に忙殺される中、メキナハはなかなか会えずじまいだったツダに騎士団事務所でようやく会うことができた。


「アーニーとは『里』では会ったことはなかったが、こんなことになるとは……!原因も全く不明とは、メジロには悪いが騎士団への不信感を拭えないよ私は。今後、捜査はどうなるんだ?」


 ツダは不機嫌だった。騎士団事務所の真ん中でのこの言葉に、中には眉をひそめる者もいた。


「……私にはわかりませんが、少なくとも担当者が多く不在の今、騎士団での捜査は中断せざるを得ないと思います」


「……そうか、それは仕方がないんだろうが、こんな時には強く、文化の違いを感じてしまうよ」


 ツダの強い言葉にメキナハは目を伏せた。


「……悪かった、君に八つ当たりすることではなかったな、最近忙しくて疲れていてね。アーニーの葬儀やらなにやらもあったしね。

 それにね、私は君に対して少々、拗ねているんだよ。モッパートの養女になるなんて、知らされた時にはすっかり正式に手続きまで終わっているし、こんな大切なことなんだから相談くらいしてくれたって、よさそうなもんじゃないか」


 メキナハは吹き出した。


「申し訳ありません、打診をいただいてから正式に縁組まで、本当にあっという間だったのです。私も未だに現実味がないというか、ついていけないというか……」


 ツダは横目で恨めしげにメキナハを見ている。


「……例えばですね、私、今度、パーティにお呼ばれしているんですよ、パーティに!しかもモッパートの養父のエスコートで!何かの間違いじゃないかと思いますよね、着ていくものすら思いつきません。そうだ、ツダ様、『落ち人』の衣装をお借りすることはできますか?」


「……『落ち人』があちらから持ってきた物は貴重品扱いで、よっぽどでない限り持ち出しはできないんだよ。ほとんどが魂が帰る時に消えてしまうし。模したものもあるが、こちらのパーティに相応しいかどうか。すまないな」

「いえ、そうでしたね、申し訳ありません」


 縮こまるメキナハをツダは改めて観察した。


「どんなパーティなんだい?私も代表として招かれることも多いから、助言くらいならできるだろう」

「それが養父から誘われただけで詳しく知らないのです」

「そうか、ではモッパートの婦人にお願いするのが一番だな。いい経験になるといいな、メジロ」

「ありがとうございます、そうします」


 メキナハはツダに頭を下げた。






「本番」の日がやって来て、メキナハは養父となったヘッシガーキに連れられて、パーティに出席していた。

 小規模な会と聞いていたメキナハは、騙されたと思った。会場となったのは首都郊外の個人の邸宅と聞いていたのに、どう見ても宮殿だ。広大な庭が美しく整えられ、裏庭にはほどよく配置された森が広がる。メキナハの武道教室の建物全体ほどありそうな玄関ホールを通り抜け、会場に足を踏み入れると、円形の大広間は中心にいくほど高くなる天井の吹き抜けになっており、二階部分から張り出した回廊やバルコニーがメキナハを見下ろしているのだ。

 なんだこれ。場違いもはなはだしい。が、まあいい。どうせなら、楽しんでやる。メキナハは持ち前の能天気を発揮して、ヘッシガーキの腕につかまりながらこっそりと辺りを鑑賞した。


 結局、「キーナちゃんの晴れ姿は見逃せないわ!」と譲らなかった女性騎士らも華やかな衣装で会場に姿をみせている。皆それぞれにきらびやかで、普段の騎士服姿からの変わりようにメキナハは言葉が出なかった。コリュモなど「変装レベルよね」などと自虐していたが、銀を基調とした衣装に彼女の赤髪が映えて、なんとも美しい。だが彼女は数日中にもヤデイニトコとの国境に派遣されるはずだ。こんなことをしていてもいいのだろうか。


(先生にはあの晴れ姿を見せたのかな?)


 ようやく距離が縮まった二人だ。このコリュモの姿を見たであろうルバイヤの顔を想像すると、口元が緩んでしまうメキナハだった。


「私のエスコートで申し訳ないね、キーナ」


 正装に身を包んだヘッシガーキに導かれてメキナハは歩き出した。


「いえ、ありがとうございます。当主様こそ、テーダ様とモッパートにご一緒されたかったのでは?申し訳ありません」


「娘をエスコートするのは父親の楽しみだよ。娘ができた役得なのだからね。だから、私のことは父さんと呼びなさい」


「えっ、とっ?!は、はい、お父様」


 はにかむメキナハに、ヘッシガーキは顔を綻ばせた。


「リューバも出席したかったらしいが、いくら護衛がいるといってもテーダとノゼンタの二人では道中が心許ないからな。テーダらがあちらに着くのを見届けたら、すぐにでもこちらに取って返して途中からでも出席すると言っていたよ」


「トゥーハ兄様も出たがってましたね」


「シィトゥーハは出席したいと言うよりは、キーナのエスコートがしたかったんだろうさ。だが学院に戻ってもらわなくてはね」


 メキナハは目を伏せた。ヘッシガーキはシィトゥーハがメキナハにプロポーズした事は知っているのだろうか。素知らぬ顔をしているが、当然把握しているのだろう。

 

 紹介される人々にカイレー式の挨拶を繰り返しているうちに、だいぶ板に付いてきた。そんなメキナハの様子にヘッシガーキは頷くと、メキナハに笑いかけた。


「キーナはダンスはできるのかな?」

「いえ、全く」

「ちょっと踊ってみようか」

「えっ!」


 ヘッシガーキは有無を言わさずメキナハの手を取って広間へと連れ出した。先程から驚かされてばかりのメキナハである。からかわれているのかもしれない。


「背を伸ばして、ここに手を置いで……そう。まずは左足を後ろに引く。もう少し斜めに、それが一の位置。次は、今引いた左足のかかとに右足の内側のくるぶしあたりを、付けるように少し離して置く。それが二の位置。次は、先ほど置いた右足に左足を揃える。くるっと横を向くことになるだろう?」

「そうですね?」

「それが三の位置。そしたらね、こんどは右足を斜めに出して、四の位置。その辺で。で、右足のつま先に、左足のくるぶしで五の位置。最後に右足を揃えるとくるっと横を向いて六の位置。簡単だろう?」

「……足を踏みそうです」

「キーナならすぐに慣れるさ。自分で回らずに、私が回すに任せてくれればいい。なかなか楽しいだろう?」

「必死でまだ分かりません」


 ヘッシガーキははっきりと笑い出した。結構お茶目な人物だ。この人からどうやったらセヌリューバのようなお堅い息子ができるのか。

 彼はセヌリューバのような大男ではないが、年を感じさせない若々しさでメキナハをリードしている。


「コツは足元を見ないことだ。そしてね。回りながら周囲を見てみてごらん。……君の知人は、来ているかね?」


 ハッとしてメキナハは周りに注意を払った。


「……います」


 メキナハの「知人」は、遠くから燃えるような目でメキナハを見ている。メキナハは身震いした。


 何曲か踊った後、ヘッシガーキは満足そうにひとつ頷くと、朗らかに宣言した。


「いいね、合格だ。流石の身体能力だ、これだけ踊れれば、他の男と踊っても問題ないだろう。何人か紹介するから踊っておいで。楽しそうにするんだよ、君の任務だ」


 メキナハは頷きつつも顔をしかめた。どう見てもヘッシガーキはこの状況を楽しんでいる。威厳たっぷりで豪胆でお茶目。困った人だ。




 そろそろかな、と思っていたら、大声で呼ぶ声が聞こえた。

「メキナハさーん!」

「エンザギーさん」


 やはり華やかな装いの受付嬢エンザギーだ。周りはエンザギーの声に振り返ったが、衣装を褒め合いはしゃぐ二人に、すぐに関心を失ったらしい。


 二人で連れ立って歩きながら、メキナハは声を低くしてそっとエンザギーに話しかけた。


「すみません。巻き込むことになってしまって」


 エンザギーは驚いたように目を見開いたが、同じように声を落として言った。


「任務なので巻き込まれたとは思っていません。前にも言いましたけど、私も騎士なんですよ、ただし腕に自信は全くないので、とっとと逃げ出します」


 相変わらずにこりともせず、反応に困ることを言う。


 


 二人は裏庭へと出た。しばらく雑談をした後、エンザギーは会場へと一人、戻っていった。その戻り際に振り返ると、ささやくように言った。


「メキナハ先生にはいらぬことでしょうけど、どうか気をつけて」


 エンザギーはメキナハの生徒の一人だ。メキナハの実力は知っている。しかし気をつけろとは難しい注文だと苦笑しかけたが、エンザギーの眉間の皺を見て心配してくれていることがわかった。メキナハは黙って頷いた。


 一人になってメキナハはため息をついた。ベンチに腰を下ろし、呼吸を整える。目を閉じて気配を探ると遠巻きに幾人かがこちらを窺っているのがわかる。騎士たちだろう。

 目を開けて自分の手を見た。血が滾ってくるのを自覚する。いけない。冷静を保たなくては。もう一度目を閉じ呼吸を整える。



 ……来た。




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