零の章 第六話:七夕祭りの約束
最大級に楽しみな七夕祭りのことで頭がいっぱいになっていた。
確かに友達1000人の伏見さんからしたら、俺なんて友達の1人に過ぎない。
それでいい。別にあの人に特別扱いされたい訳じゃない。大事なのは切っ掛け。どんな恋愛だって始まりは友達からのスタート。俺は最初のステージはクリアした。
友達→仲良し→付き合う?→いいよ→恋人→ゴール→結婚!!
「あぁ、早く学校に行きたい!!」
早く伏見さんに会いに行きたいよぉ!!
「フフッ、フフフフフ。フゥーハハハハハハハハハッ!!」
♪ピピピピピピ! ポポポポポ! ポピーザぱフォーマー♪
目覚まし時計のアラームを完全に止めなかったのでリマインダーが鳴る。
「こんなことをしている場合ではなかった。早く登校の準備をしないと」
のんびりしてたら30分早く家を出ようとした意味がなくなってしまう。
「――よしっ!」
気合を入れて上体を起こす。さっさと準備を始めようか。
× 玄関 → → → 通学路 ×
制服に着替え、3分弱で登校の準備を終えた。
朝食はウイダーinゼリーなのですぐに飲むことができる。
起きてから5分もしなうちに家を後にする。
完璧だ。完璧なタイムアタック。早着替えの記録更新だな。
寝癖が多少気になるが、ファッションと言うことにしておこう。どうせ誰も俺の寝癖について言及する人間はいないだろうから。
「それにしても、早く放課後にならないから~」
まだ登校すらしていないのに頭の中は夜のことでいっぱいだ。
七夕祭りは毎年行われているらしいが、一緒に行く友達がいないので一度も行ったことがない。なので、どういうお祭りなのか詳しいことは一切分からない。
夏祭りみたいに美味しい食べ物とか出すのかな? 出し物ともある系?
夏祭りと違い、商店街で行われるので出店とかはないのだろうか?
商店街の人たちが半額セールとか特売とかそんな感じなのかな??
まぁ、どんなイベントが行われているにしろ、とにかく楽しみだ。
なんたって憧れの伏見さんと二人っきりなのだからな!!
「ぐへへぐへへへへへ……ヘヘッ……おっ」
視線の先に、こちらを不審な眼で見ている二人の小学生幼女が映る。
彼女たちは俺のキモイ笑みに怯えているように見えた。その子たちと目が合うと、女児は『廊下に投げ捨てられた雑巾』を見るような表情で逃げて行った。
あの蔑みの眼差し。ロリコンなら歓喜だろうが、俺は断じてロリではない。
だから精神的ダメージが大きかった。辛い。悲しい。痛い。
「フヒヒ」
この表情のままでは間違いなくランドセルのブザーを鳴らされるレベル。
どうにかして平常心を取り戻さなければ、警察のお世話になってしまう。
「こんな時はアニメだな」
ひとまずアニメでも観て落ち着こう。できれば心がぴょんぴょんするニヤニヤアニメではなく、神妙な面持ちができるシリアス作品がいいと思う。うん。
早速ポケットからスマホとイヤフォンを取り出し、Cアニメストでアニメの最新話を観ることにした。これは歩きスマホではあるが、ちゃんと前を見て歩くから許してちょ。人が来たら気配を感じて自動で体が避けてくれる――と信じている。
↓ ↓ ↓
学校に近づけば近づくほど障害物登校中の生徒が増えていく。
それに比例して顔を上げる回数も増えるのでアニメに集中できない。
「クソッ。画面に集中できない。これじゃアニメじゃなくて音声作品だ」
周辺にいる生徒の数は12人。今後もっと増えるだろう。
ここら辺に住んでいる人間と少し遠いが学力が平均的な人間はだいたい東雲しののめ高校に入学する。ここは良くも悪くも普通。学力も知力も運動力も全てが安定している。
だから居心地はかなりいい。バカな俺でもバカにされることがないからだ。
全校生徒は人数は1年~3年合わせてだいたい500人くらいだった気がする。
正確な数字は知らないが、全校生徒が体育館に集まったときにそんくらいの人数だった。で、果たしてそんな生徒の中で、何人のリア充がいて、何人の生徒が七夕祭りに行くのだろうか? 正直知らんが、俺は今日から七夕祭りデビューである。
「そう言えばお祭りって何が必要なんだっけ? 金だけでいいんだよな?」
服は別に私服でいいだろう。あと消臭剤とガムと――会話か。
会話の種とか必要かも。会話が途切れたら気まずいからな。
共通の話題とか? 共通の話題か。共通の話題……。共通の話題?
んー、伏見さんの趣味って手芸や茶道で、読んでる本はルビのない漢字だらけの一般文芸だからなぁー……。ラノベやルビ大好きな俺とは正反対&専門外だ。
普段の会話は俺がツイッターやYouTubeで見つけた面白動画の話。伏見さんは笑みを浮かべながら「楽しそうに話す桜咲君って面白いわね」と言ってくれる。
動画が面白いというより、熱弁する俺を面白がっているようにも思える。
どちらにしろ、伏見さんが笑ってくれるなら俺は笑われても構わないのだが――
「しかし、ここで問題が一つ」
お祭りは外で行われるので、座って動画を見れる教室とは違う。
わざわざ外に出てまでスマホで動画を見る訳にはいかないしな。
何か歩きながら会話ができる話題的な何かを見つけないといけない。
伏見さんのことだから、やっぱり政治や芸能の話とかかな?
よし、決まり。
ニュースサイトを見ながら話しのネタを収集しよう。目指せリア充ッ!!
会話の種よし、天候よし。天気は快晴。今週はずっと晴れ。降水量ゼロ%。
今日は最高のお祭り日和と言える。ニヤニヤ。ウフウフ。ワクワク。ドキドキ。
楽しみだな~~~。今まで俺は人生はクソゲーでつまらないゴミだと思っていたけど、前言撤回だ。人生は素晴らしく、見上げれば幸せにあふれてるぅ~~~!
羞恥心を忘れ、ウキウキな気分を押さえきれず、駆け足で登校した。