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日常編 第41話 実はコレは

 桜咲日々喜は、ただただ繰り返される日常に飽き始めていた。

 出会いもない、事件もない、この現実には超能力も何もない。

 ワクワクするような出来事すらない人生は、実に退屈な物だ。


 そんなある日の放課後、憂鬱な気持ちで歩む帰宅道。

 数分足らずでたどり着いた自分の家。

 その玄関先は、目を疑うほどの赤い血で染められていた。

 彼は恐怖を覚えた。鼓動が高まり、冷や汗が流れる。

 それでも彼は進んだ。中に入り、家の中を調べる。

 

 そして彼は自室で、自分と全く同じ見た目をした人物と出会う。

 彼と出会ったことにより、桜咲日々喜は別世界へと飛ばされる。

 超能力、運命、邪悪、正義、鍛錬、地獄、天国、幸福、根性。

 強者、弱者、猛者、機械、幽霊、怪物、災害、自然、異種族。

 武術、試練、苦痛、地獄、凶器、友情、勝利、生存、崩壊。

 運命の歯車が回り始め――少しずつ日常が壊れていく。


 コレは、東雲高校2年2組・桜咲日々喜の物語――


「と言うのはまた別の話」


 残念ながらこの物語は、異世界に記憶を飛ばしたもう一人の日々喜のお話ではない。

 こちらの世界に残った、死に損ないの方の桜咲日々喜の物語だ。

 ただ、第一話にして既に物語が終幕しそうな勢いなので困った。

 

「……苦しい……」


 現在の俺は、左腕を失い、全身が傷だらけで、大量の血を失っている。

 どうしてこんな状況になっているのか? 

 全ては自分の甘さが招いた失敗だ。

 あのとき、すぐに敵である気流牙突から逃げていれば深追いすることはなかった。

 でも俺は自分の力を過信し、大人相手だろうと勝てると思い込んでいた。

 その結果、ボコボコにされ、腕を切断され、酷い状態と化した。

 死を覚悟したとき、俺は戦闘をやめ、逃げることだけに専念した。

 どうにか気流牙突の手から逃げ切れ、逃げ込んだ先は日々喜の家だ。

 

 彼の部屋に隠れ、日々喜の帰りを待った。

 数分後、彼は学校から帰宅し、俺と出会った。

 俺は彼に色々と説明し、彼の記憶を異世界に転移させた。

 残された俺は部屋の中心に倒れ、動けずに天井を見つめる。


「救急車……呼ばなきゃ……」


 何度も同じ時間を繰り返してきた。

 そして何度も救急車を呼ぶことに成功してきた。

 だけど今回は、今までの世界とは何かが違う。

 何かが変だ。俺の知らない展開へと進んでいる。


「体に力が……入らない……?」


 すぐそこにスマホがあるのに、体に力が入らない。

 早く電話をかけないと俺がここで死んでしまう。


「死ぬわけには……いかない……スマホ……スマホ……」


 体に力を入れれば入れるほど、比例して目が霞んでいく。


「……あれ……意識が……ヤバい……」


 ここで気を失えば、多分二度と目を覚まさない。

 そうなれば、あらゆる人に多大な迷惑がかかってしまう。

 しかも部屋には気流牙突から奪った銃が残っている。

 警察が来たら、軌道修正が不可能なほど面倒な展開になる。


「どうすれば……どうすればいいんだ……」


 薄れゆく意識の中。もうダメだ、と諦めた。

 瞼が負担となっていき、静かに瞳を閉じる。

 スマホに手を伸ばす気力も、今の俺にはない。

 ぐったりと力が抜け、床の上に溶けていく。


「あぁ……おわりだ……ごめん……日々喜……。お前が、たとえ強くなって戻ってきても……俺がダメそうだ……。アイツ、一人で気流牙突に勝てるかな……」


 真っ暗な視界。

 片耳も切り落とされているので音がうまく聞こえない。

 全身が傷だらけなので、痛覚も限界を超えて何も感じない。

 聴覚、触覚、味覚、痛覚、視覚。何も分からなくなっていく。

 だけど、なんだろう。何か聞こえるような気がする。


「……」


 一階の方からだ。

 二階の床に倒れている俺に、一階での音が振動となって伝わってくる。

 誰かが玄関のドアを開けた。そして恐る恐る、警戒しながら入ってくる。


「……警察の動き……ではない。かといって動物……でもない……」


 頭だけを動かし、切り落とされていない方の耳を床にあてた。


「あのぁー、桜咲くん……居ますか?」


 うまく聞こえなかったが、女性の声であることは分かる。

 それに彼女は『桜咲』と言った。つまり日々喜を知る者。

 

「犯人さんとか居ませんよねー……。殺人現場ですかー……?」


 この声、聞き覚えがある。

 俺の知る人物とは少し声のトーンが違うが、分かった。

 コレは東雲高校2年2組、出席番号28番、伏見理美の声だ。

 

「どうして伏見理美が?」


 今の彼女は学校で部活中のはず。

 なのになぜ、彼女は桜咲日々喜の家に居るのか?

 

「もしかして」


 部活を休んで、こちらへ来た?

 だとしてもなぜだ。理由が分からない。

 誰かが呼んだ訳でもないのに、家の来たのか?

 やはりこの世界は、俺の知る展開とは違う。


「だが……助かったかもしれない……」


 伏見理美。怖いのは分かる。

 でも茨の道を抜けて早く来てくれ。

 俺の意識が途絶える前に、やってもらいたいことがある。


 彼女が二階に上がってくるまで何が何でも死ぬわけにはいかない。

 気合いだ。荻野風林師匠直伝の火事場の馬鹿根性を見せてやる。

 呼吸を整え、切れそうな命の糸を力尽くでつなぎ止める。


「これ……本物の血なのかな……桜咲くん……大丈夫かな?」


 一段。一段。もう一段と彼女が階段を上っていく。

 もう少しだ。もう少しで伏見理美がこの部屋にたどり着く。


「二階に誰も居ませんよねー……って、え!?」


 顔を上げると、階段を上りきった彼女と目が合う。

 伏見理美は驚愕と絶望が入り乱れたような表情を浮かべていた。


「桜咲くん!?」


 すぐに俺の名字を飛び、部屋に飛び込んできた。

 

「うわっ!?」


 しかし前方不注意がたたり、そこら辺に転がっていた俺の左腕で転ぶ。

 彼女は豪快に尻を床にぶつけた。いたたたたと痛そうな顔をしている。

 自分が何で転んだのか? 彼女は自らの足下へと視線を向けた。


「……人の、腕……?」


 目を見開いた。

 そして彼女は――


「……うっ……」


 吐いた。

 むしろここまで来る道中、よく吐かなかったと関心すら覚える。

 玄関も、階段も、この部屋も、俺の血でかなりグロテスクだからな。


「……ハァ……ハァ……どうしよう、桜咲くんの部屋を汚しちゃった……」


 安心しろ。俺の方がもっと汚してるから。

 謝罪ならあとでしよう。だから早くこっちに来てくれ。


「この腕って……桜咲くんの……?」


 彼女は顔を上げ、部屋を見回した。

 

「お、桜咲くんが……二人……。……え、ど、どういうこと!?」


 部屋の中心には血だらけの俺と、そのそばには記憶を異世界に飛ばされてただ寝ている日々喜の姿。彼女は俺とアイツを交互に見ながら、自分の目がおかしいのではないかと目をこする。


「……伏見……」


「こ、声? もしかして……桜咲くん!? 生きてるの!!」


 力を振り絞り、彼女の名字を口にする。

 その声が届いたのか、彼女はすぐにこちらへと近づいてきた。


「どうしよう、その怪我。救急車を呼ばなきゃ」


「……ああ」


「腕、どうしたの? なんで桜咲くんが二人? 向くの桜咲くんは大丈夫なの!?」


「アイツは寝ているだけだ。詳しい話は……あとだ……。……それより、大事な任務を頼まれて……くれないか……」


「な、なに?」


「あそこに拳銃があるだろ。アレを警察に見つかる訳にはいかない」


「拳銃? あれ、エアガンじゃないの?」


「本物だ。だから、アレを持って、どこかに隠してくれないか……」


「か、隠すって、ど、どこに!?」


「それは任せる……とにかく、見つからない場所に隠してほしい」


「わ、分かった」


 彼女は見るからにパニック状態に陥っていた。

 だが自らの顔をパンッと叩いて、気合いを入れる。


「落ち着きなさい伏見理美。伏見家の長女が取り乱してどうする。大丈夫、私ならできる」


 スーと深呼吸を行い、精神状態を元に戻す。

 顔つきが変わった。さすが2組の学級員と言ったところだ。

 彼女はスマホを取り出し、病院へと電話をかける。


「あ、もしもし、同級生が血だらけで倒れていて、至急救急車をお願いします。場所は東京都東雲市東雲町、桜咲家です。はい、意識? 辛うじてあると思います。はい、お願いします」


 必要な情報を相手に教え、ピッと電話を切った。


「警察も呼んでいいんだっけ?」


「……救急隊員が来たら……ヤツらが警察を呼ぶだろ……。そこは任せる……。だた、コレは事件と言うほどの物ではないから、必要ないとは思うがな……」


「いやいや、普通に事件でしょ」


「それよりも先に、あの拳銃をどうにかしてくれ」


「う、うん」


 彼女は銃へと近づき、それに手を伸ばした。


「これ……。え、重い!? 本物の銃ってこんなに重いの?」


「……」


 彼女はこちらへと視線を向ける。

 何か反応が欲しいのだろうが、すまんな、もう喋る気力がない。


「なんか今の桜咲くんって、いつもよりフレンドリーな感じがする」


 そりゃそうだ。俺はお前の知る桜咲日々喜ではない。

 お前の友達であるヤツは、そこで寝ているもう一人の俺だ。

 説明してやりたいが、俺はここらが限界のようだ。


 でも良かった。救急車が来れば、多分俺は助かる。

 医療への絶対的な信頼。目覚めなかったら許さないからな。

 などと脳内で吐きつつ、俺の意識はそこで途絶えた。

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