日常編 第40話 さぁ、君の物語を始めよう
徐々に俺の体が、異世界に繋がるゲートに吸い込まれている感覚だ。
「日々喜」
そんな中、部屋の中心に居る男が俺の名前を呼ぶ。
「何?」
「とにかく多くの生徒を救え。それがお前に与えられた試練だ」
「生徒を救う?」
「大切な存在のために戦い、大切な存在のために傷つき、戦いの先に答えがある。多くを救えば救うほど、奇跡が蓄積されていく。そして全てを救うことに成功すればお前は――奇跡の存在となる。その奇跡が最終的に伏見理美という存在を救うことに繋がる。その奇跡こそが、運命を覆す力だ。運命に勝つために力なんだ」
「要するに、人助けをして徳を積めと言うこと?」
「簡単に言うとそんな感じだ。人を救った数だけ奇跡の力が蓄積される」
「なるほど。蓄積がMAXになったとき、俺は運命に勝つ力を手に入れる」
「そうだ。だからガンバレ。あと」
「まだ何か?」
「今度この部屋に来ることがあったら、俺のスマホの中に入っている他の画像も見せてやる。そこにはこれからお前が救わなければいけない対象の死因のヒントが入っている」
「ヒント。マジで。なんで今、見せてくれないんだ?」
「……」
彼は目をそらした。
それはまるで『今のお前に見せても意味がない』と言われているような気がした。
つまり、今の俺じゃ救済対象となる生徒を全員救えないみたいな態度だった。
「気に入らないなー。まぁ、いいけど。せいぜい俺に期待しないで待ってろよ。お前の期待を遙かに飛び越えて、全員救ってから帰ってきて、お前をビックリさせてやるから」
「頼もしい限りだ」
覚悟を決めた俺は、本を高く掲げた。そして告げる。
「【メモリーズ】!!」
その合言葉が引き金となり、本に異変が起きる。
フォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
本から流れ出す風が、次第に俺の体を覆いつくす。
「え、本当にゲートなのか!?」
半信半疑だったが、今ので確信した。
本当にこれから異世界に行くんだ。
ラノベのような世界が俺を待つ。
この男の言葉は本当に真実だった。
「日々喜」
暴風が全身を駆け巡る中、男が俺の名前を呼んだ。
「なに!?」
「知らない人物の名前を沢山言われても頭に入らないだろうから、最初の救う対象の名前だけ教える。その人物の名前は……愛梨院雫だ」
「愛梨院? スゴイ名前だな。こちらの世界じゃ絶対にありえない名前だ」
「彼女は恐ろしく強い」
「恐ろしく強い? え、一人目でいきなり強敵過ぎでは?」
ドラクエで例えると、最初の町でボスと戦うようなものだと思う。
「お前は初期の日々喜だ。まずは無理せず世界に慣れることから始めろ。色々とこの世界を違う点があるだろうが焦ることはない。ゆっくり馴染んでいけばいい。最初は戸惑うと思うかもしれないけど、生きていてばいいこともあるさ。失敗しても、自分を責める必要はない」
この男、死にそうなのによく喋る。
「頼んだぞ日々喜。誰も到達できなかった未来へ行け。運命に抗え、神に従うな。見えた光景は全て本物だ。迷ったら強く念じて【記憶の欠片】に頼れ」
「記憶のか欠片?」
彼は最後の力を振り絞る。
「日々喜! 運命を――変えろ!」
その言葉を最後に俺の意識が一瞬だけ真っ暗になる。
暗転。
発光。
次に目を覚ましたとき、俺は謎の白い空間にいた。
ここはどこだ?
不思議な感覚だった。体が綿菓子のように軽い。
浮いているのか? それとも落ちているのか?
「なにが……起きている?」
↓元いた世界はもうない。
↓白一色。
↓ある意味何も見えない状態。
↓文章のない本の中に居るようだ。
↓驚きの白さ。ボ~ルドかよ。
↓落ちていく。文章の底とへ落ちていく。
「いや、本当に落ちているのか?」
周りが上がっている可能性もある。
上がり下がりの両方なのか?
考えても答えは出ない。
「あ、あぁー、あ、聞こえますか?」
言葉を声に出しているのか?
脳内で再生しているのか?
区別がつかなくなる。
まぁ、どちらでもいいか。
「――と言うか」
世界の情報を聞かずに来ちゃったけど大丈夫?
文明は? 文化は? 言語はどうなんだ?
向こうには何があるんだ?
竜とかエルフとかドワーフとかいるのか?
中世ヨーロッパみたいな世界とか?
「それはないか。向こうの住人であるもう一人の俺は東雲高校の制服を着ていた」
いや、異世界転移後にこちらの世界に会わせるために着替えた可能性もある。
彼の初期衣装は中世ヨーロッパのようなスーツと言う可能性も考えられる。
「まぁ、出てみれば分かる話か」
そろそろ向こうの世界の出る頃だと思う。
「ワクワクしてきたな」
昔から憧れていた異世界へと行ける。
遊びに行くのではないことは重々承知。
だけどドキドキしながらワクワクする。
過酷な使命を背負わされていても、異世界であることに変わりはない。
ラノベ主人公みたいに序盤でチートスキルが増し増しになったりして。
そうなればすぐに最強だ。3カ月どころか、一日で力を手に入れられる。
強くなれば、確実に伏見理美さんを救える。案外ヌルゲー?
「でもダメなのか? 強くなるだけでは意味がない。人を救わないといけない。強くなり、人を救い、奇跡を蓄積し、奇跡の子となり、運命に抗うすべを手に入れなくてはいけない」
そういうことだ。
「強くなれば、人も救える」
分からないことだらけだが、足を踏み入れた以上は後戻りができない。
なるようになれ。出された世界を俺は受け入れる。それもまた運命だ。
でもやっぱり今から行く世界のことくらいは気になるよな。
人口の80%が美少女の楽しい世界かもしれない。
「それなんてエロゲ?」
はたまた秘密の駅で、魔法使いしか乗れない電車に乗ったりして。
ホグワーツ魔法魔術学校に入学? いや、俺は魔法より超能力派だ。
「超能力! そうだ!! 超能力が存在する世界だったらいいな!! それこそあの男が使ってた風見流とか言う武術の域を超えた能力が使えるようになったらいいな!」
最初は不安でいっぱいだったが、次第に楽しいな気持ちが勝る。
向こうの世界は俺が憧れた異世界だ。異世界ならいい世界が待ってる。
「待ってろ俺のハーレム! 待ってろ超能力! 待ってろ魔法! 待ってろドラゴン! 待ってろ伏見さん! 全部まとめて全部解決して全部うまくいって、君が死ぬ運命を回避してもせるから!! 俺は君にふさわしい男になって帰ってくる!」
さぁ、桜咲日々喜の第二の人生の始めようじゃないか!!
This is The New Beginning of a Long Story...




